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DSP内蔵スピーカーとは?プロレベルのリスニング環境を手に入れる

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最近、DSP内蔵のスピーカーをよく目にしますが、「DSP」とはそもそも何なのでしょう。

「DSP」はオーディオインターフェースやUADシステムなどのいろんな機器に使われていますが、今回は「DSP内蔵スピーカー」に焦点を当てて、DSPの解説をしていきます。

DSP内蔵スピーカーのメリット、おすすめのDSP内蔵スピーカー、DSPプロセッサーを使った音質改善などについても紹介するので、「スピーカーの買い替えを考えている」「モニタリング環境をさらに良くしたい」と考えている人は、ぜひご覧ください。

DSPって何?

DSPとは「Digital Signal Processorデジタル シグナル プロセッサー」の略で、スタジオモニターやカーオーディオなどのあらゆるオーディオ機器に組み込まれている小型コンピューターのことです。

身近なところだと、Appleの「AirPods」にも、音声認識やノイズキャンセルのためのDSPが内蔵されていますね。

パソコンやスマホについて調べたことのある人なら、「CPU」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、DSPはデジタル信号処理に特化したCPUの一種だと考えればわかりやすいでしょう。

DSPとCPUの違い

DSPは、CPUのようにプログラムを変えるだけであらゆる処理がこなせるような万能型ではありませんが、デジタル信号の処理に特化しているので、通常のCPUよりも低いクロック速度ではるかに高速な処理を行うことができます。

そして、このDSPによってスピーカーを細かく調整することで、ルームアコースティックを補正したり、スピーカー背面の音をキャンセリングによって消したりと、さまざまな音響処理が可能になるのです。

DSP内蔵スピーカーの3つのメリット

ここでDSP内蔵スピーカーの利点について、もう少し深堀りしてみましょう。

DSPを内蔵することで、通常のスピーカーではできない複雑な処理を行い、リスニング環境を高めることができます。

1. より精密なクロスオーバー

クロスオーバーとは、音を周波数ごとに振り分けるための仕組みのこと。

高域を担当する「ツイーター」、低域を担当する「ウーファー」といった感じで、2ウェイや3ウェイで成り立っているスピーカーには、音を低域と高域などに振り分けるために「クロスオーバー」という機能がついているのですが・・・

これをDSPで処理することによって、アナログにはできない急勾配の高次フィルター(96dB/oct)が使えたり、フィルターによる位相の影響を最小限にするためにリニアフェイズフィルターを構築することができます。

要はアナログでは処理しきれなかったスピーカーの弱点を、コンピューターによって補完できるというわけです。

2. ルームアコースティックの調整

正確には「ルームアコースティックに応じたスピーカーの調整」ですが、吸音材を貼ったりスピーカーの位置を変えたりと、何かと大変なルームアコースティックの調整ですが、DSPによる出音の調整によって、こういった作業があまり必要なくなります。

この種類のDSPを内蔵しているモニタースピーカーは、「iLoud」「Genelec」「Neumann」などが有名ですね。

専用マイクを使って部屋鳴りを解析し、スピーカーに内蔵されたDSPによって周波数特性や位相を整えます。

3. タイムアライメントやキャンセリングによる音質の向上

2ウェイや3ウェイのスピーカーの各ユニットからは、それぞれ異なる音が出ているため、お互いに干渉し合って音が打ち消されたり、特定の周波数だけ過剰にブーストされてしまうことがあります。

これもDSPを使えば、音の出るタイミングなどを補正することによって、カチッと定位の定まった音を出すことができます。

また、この後に紹介する「Kii Three」というスピーカーは、独自のキャンセリング技術によって側面と背面の音を消すことにより、「部屋鳴り」を最小限に抑えて、どんな環境でもクオリティの高い音を提供してくれます。

DSP内蔵のモニタースピーカー3選

「DSPが搭載されたスピーカー」と言っても、製品によって機能はさまざまです。

ここではDSP処理によってリスニング環境が劇的に改善されるような、画期的な機能を持ったスピーカーを3つ紹介しましょう。

1. iLoud MTM

IK MULTIMEDIAから販売されている「iLoud MTM」は、スタジオモニターとしては小ぶりな3インチウーファーを搭載していながら、5インチや8インチの大型スピーカーにも匹敵するサウンドが体感できると話題のモニタースピーカー。

DSPによってクロスオーバーやタイムアライメントが処理され、さらに専用マイクでルームアコースティックを測定することによって、部屋のクセを取り除き、バランスのとれたフラットなサウンドを得ることができます。

ちなみに、このルームアコースティックを整えるための「ARC System」は、単品でも販売されているので、専用ソフトとマイクを使うことによって、iLoudに限らずあらゆるスピーカーの音を調整することができますよ。

この値段で再生周波数帯域が「40Hz〜24kHz」、さらにルームアコースティック補正機能まで内蔵されているというのは正直かなり驚きですね。

IK MULTIMEDIA ( アイケーマルチメディア ) / iLoud MTM モニタースピーカー

2. Genelec

Genelecは個人で音楽制作を行う人々からプロまで、あらゆるプロデューサーやエンジニアに愛用されているスピーカーです。

Genelec製品の中でも「SAMシステム」を内蔵したスピーカーを購入することによって、先ほどのiLoudと同じようにルームアコースティックに応じた周波数の調整を行い、リスニング環境を改善することができます。

Sonarworksでも似たようなことができるのですが、Sonarworksなどのソフトウェアを使って補正を行うと、パソコンの性能によっては大幅な遅延が発生してしまうので困ることがあるんですよね。

参考: Sonarworks Reference 4でスピーカーの潜在能力を100%引き出す方法 – スタジオ翁

ところがSAMシステムは、専用のアウトボードを通すことでスピーカーの補正を行なってくれるので、遅延も4msと短く、Sonarworksで起こるデメリットも解消されそうです。

SAM™ Compact Studio Monitors

3. Kii Three

上記の2つは、主にDSPによってルームアコースティックを調整するためのものでしたが、ここ数年話題となっている「Kii Three」は、スピーカーに内蔵されたDSPによって背面と側面の音をキャンセルして消してしまうという画期的なモニタースピーカーです。

Stimming, Monolink, Jacob Collierといった著名アーティストやマスタリングエンジニアも使用しており、6インチウーファーなのに200万円というぶっ飛んだ価格設定とその評判の良さが気になり、先日、僕もわざわざ千葉まで試聴に行ってきました。

いろんな条件が満たされないと真価を発揮しないスピーカーなのか、音のきめ細かさや臨場感はイマイチ体感できませんでしたが、このサイズにしてはあり得ない超低域(30Hzくらいまで余裕で聴こえます)とキャンセリング技術によって、従来のスピーカーと比べてもルームアコースティックをさほど気にせず設置できるという点にはかなり驚かされましたね。

Kii Three

DSPでルームアコースティックを整える

先ほどの章で「ARC System」や「Sonarworks」について少し触れましたが、より本格的に部屋鳴りを整えるなら、これ以外にもいくつか製品があります。

NK: アメリカのスタジオはスピーカーの前段でDSPを使って細かく補正するんですけど、日本のスタジオのミッド・フィールドやニア・フィールドのスピーカーは、その補正があまりされていない感じがして……。部屋自体は良い音だと思うんですけどね。

Epic 5 User Story ニラジ・カジャンチ × 浅田祐介 スペシャル対談

よく日本とアメリカの音の違いに関する記事を見かけますが、こういったルームアコースティックの調整といった部分も、海外と差をつけられている理由の1つなのかなと感じました。

次に紹介するのはスピーカーに内蔵されたDSPではなく、映画館や本格的なスタジオを調整するための専用DSP機器です。

興味のある人は参考にしてみてください。

1. miniDSP

miniDSPは、10万円ほどで買えるEQ補正ツールを販売しているメーカー。

部屋をマイクで測定し、専用のハードウェアをアンプと音源の間に挿すことで、フラットな周波数特性を得ることができます。

サラウンド環境にも対応しており、インパルス応答の測定も可能です。

miniDSP

2. Trinnov

Trinnovは専用の3Dマイクを使うことで、周波数特性や位相を整えることができる、プロクオリティの補正ツールです。

安いものでも80万円ほどするので、一般のDTMユーザーにはあまり現実的な値段ではないのですが、使用者のレビューなどを見てみるとやはりSonarworksなどの安価な補正ツールよりも優れているとのこと。

マスタリングを生業にしている人だったり、ピュアオーディオの世界で音を探求している人なら、検討する価値は十分にありそうですね。

Trinnov Audio

まとめ

今日は、主にルームアコースティックに関わるDSPの機能についてお話しましたが、部屋鳴りはやっぱりスピーカーの位置調整や吸音・拡散といった部屋の処理が重要になってきます。

まずは部屋をしっかり整えてから、最終的な仕上げをDSP内蔵スピーカーや専用DSPで処理すると、かなりクオリティの高い自宅スタジオが作れるでしょう。

部屋鳴りの調整については以前の記事にも書いているので、まずはお金をかけずに、または最小限の金額でモニター環境を良くしたいという人は、こちらの記事も参考にしてみてください。

参考: モニタースピーカーを正しく設置するための5つのアイデア – スタジオ翁

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?