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「NFT」は音楽業界をどう変えるのか?

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最近、アートや音楽業界をにぎわせている「NFT」という新しい仕組みをご存知でしょうか?

NFTは、アーティストがレーベルやストリーミングプラットフォームに頼らず、お金を稼ぐための方法として注目を浴びており、今こぞって世界中の著名アーティストが参加しています。

参考: 話題のNFT(非代替性トークン)とは? デジタル絵に75億円:その仕組みと危険性 – Newsweek Japan

僕自身はまったく知らなかったのですが、いろいろ調べていくうちに「これから音楽制作やアートで生計を立てる人にとって、NFTはかなり重要なキーワードになってくるな」と感じたので、海外の情報などを参考にまとめてみることにしました。

音楽業界は新しいテクノロジーの影響を受けやすい業界なので、時代の波をいち早くつかむためにも、ぜひ一緒に勉強しておきましょう🙂

NFTはブロックチェーンをもとにした仕組み

NFTは「ブロックチェーン」という、ビットコインなどで使われる技術をもとにした仕組みです。

これは「中央」・・・つまり検索なら「Google」, 日本円なら「日本銀行」といった特定のサービス提供者を持たず、「利用者みんなで協力して運営していきましょう」という仕組みのこと。

「データの改ざんができない」とか「安全性が高くプライバシーが保たれやすい」というメリットがあるのですが・・・

まあ、これだけでは何のこっちゃわからないですよね。

ザッとブロックチェーンの全体像を把握したい人は、こちらの動画がわかりやすいかと思います。

【解説】サルでもわかる!ブロックチェーンとは何か?

イケハヤさんは仮想通貨関連の情報収集にも積極的で、ブロックチェーンだけでなく「DeFi」「Web 3.0」といったテクノロジーに関する重要キーワードを、自身のYouTubeチャンネルで日々解説されている方です。

「ビットコインで使われている技術」と聞くと、なんだかうさん臭く感じてしまうかもしれませんが、この技術自体はビットコインが滅びても無くなることはなく、むしろあらゆる業界でブロックチェーンを使ったサービスが次々に誕生しています。

そしてこのブロックチェーンという技術が、NFTの重要なキーワードとなってくるのです。

NFT(非代替性トークン)とは?

さて、NFTについてざっくり説明します。

NFTとは、資産の所有権を示すブロックチェーン上の証明書のこと。

これには音楽、イラスト、映像作品などのさまざまなデジタル資産が当てはまりますが、この証明書は「転売」したり「譲渡」することも可能です。

NFTとは「Non-Fungible-Tokenノン ファンジブル トークン」の略ですが、「Non-Fungible(非代替性)」というのは仮想通貨とNFTを区別するためのもので、NFTは仮想通貨のように「替えがきかないもの」なのでこのように呼ばれています。

「Fungible」と「Non-Fungible」の違いを、わかりやすく示した図が海外サイトにあったのでこちらに貼っておきます。(「Tangible」「Intangible」というのは、有形資産と無形資産という意味です)

出典: What Are NFTs and Crypto Art, How Do They Work, and Their Music Industry Impact – STEREOFOX

この図の左下にある「NON-FUNGIBLE × INTANGIBLE」という場所が、今までなかなか価値がつけられず困っていたけど、NFTという仕組みによって価値がつけられるようになった部分です。

例えば音楽データなら、一度購入してしまえば誰でも簡単にコピーできてしまいましたよね。

それをみんなに配ったりネットにアップロードして拡散したとしても、自分が持っている音楽とみんなに配った楽曲は「まったく同じもの=代替可能(Fungible)」だったため、アーティストやレーベルが利益を上げづらい構造になっていたわけです。

ところが、NFTを使って楽曲データ1つ1つを「ユニークなもの(代替不可能=Non-Fungible」にしてしまうことで、楽曲の違法コピーを防ぐことができ、利益を得やすくなるのです。

そして単に「アーティストが利益を得やすい」だけがNFTのメリットではないのが面白いところなのですが、それはのちほど解説していきます。

 最新ビジネス用語「NFT」を9分で解説。

こちらは、またしてもやイケハヤさんの動画ですが(嫌いな人はすいません…)、NFTの仕組みを9分でわかりやすく解説してくれていたので、より理解を深めたい人はぜひこちらもご覧になってみてください。

NFTを活用している3人のアーティスト

さて、ここまでNFTの大まかな仕組みを見てきましたが、これを音楽業界ですでに活用しているアーティストがいるので、その例をいくつかご紹介していきます。

1. 3LAU

「3LAU」はEDMの制作・DJを行っているアーティストで、世界初のデジタルトークン化アルバムを発表し、24時間で10億円以上の収益を得ました。

参考: Musician 3LAU sells the world’s first-ever crypto-digital albums, making $11.6 million in under 24 hours -MARKET INSIDER

彼らは、Facebookの映画にも出てくる有名な兄弟「ウィンクルボス兄弟」とも2014年から交友があり、かなり早い段階からブロックチェーン周りの技術に関心を持っていたようですね。

ウィンクルボス兄弟とは、Facebookへの訴訟とビットコインバブルによって億万長者になった人物で、過去には仮想通貨取引所をつくり、アメリカでもっとも有名な取引所と言われるまでに成長させています。

2. RAC

「RAC」は、グラミー賞受賞歴もあるアーティストです。

これまでにもブロックチェーンを活用した「RACドル」というトークンを発行し、レーベルなどの第三者と切り離された、「アーティスト」と「ファン」を直接つなぐための新たな仕組みづくりに取り組んでいました。

参考: Introducing $RAC

そして2021年3月にはNFTに関する専門エージェンシー「6 digital」を立ち上げ、アーティストがNFTを使ったリリース行うための手助けを行っていくと発表しています。

この評判があまりに良く、彼のTwitterアカウントは不正アクセスの疑いによって一時的に閉鎖されたようですが(笑)、このエピソードがNFTの盛り上がりを象徴しているなとも感じますね。

3. Steve Aoki

日系アメリカ人のEDMプロデューサーである「Steve Aoki」は、NFTを使ってアート作品を販売し、それがTモバイルの元CEOであるJohn Legereによって、888,888.88ドル(約1億円)で落札されました。

参考: T-Mobile’s Ex-CEO John Legere Bought a $888,888.88 Steve Aoki NFT – Rolling Stone

最近は、EDMの人気プロデューサーである「ZEDD」もNFTによる作品のリリースを始めましたが、やはりメディアやSNSでの露出が多く、話題性も出やすいEDM系アーティストが積極的にNFTを活用しているのが目立ちますね。

アーティストがNFTを活用する方法

最後に、アーティストがどのようにNFTを活用すれば良いのかについて、いくつかの例を紹介していきます。

まずはNFTを使うメリットについて見ていきましょう。

NFTを使うメリットは?

STEREOFOXの記事には、NFTを使う6つのメリットが紹介されています。

1. ユニーク性
2. 希少性
3. 分割できない
4. 検証可能
5. 簡単に譲渡可能
6. 破壊できない

これを淡々と説明していきますね。

まず、NFTの各トークンには固有の情報が含まれているため、2つとして同じトークンは存在しません(ユニーク性)。なので、NFTは通常のオークションで絵画を購入した時にもらえる「証明書」のような役割を果たします。

過去に行われたすべての取引は検証可能なので、不正をすることができず完全に破壊してしまうこともできません

NFTに希少性(価値)があるのは、発行者がトークンの発行量を設定できるためです。そして発行されたトークンは細かく分割することができません。(映画のチケットを半分にし、それぞれに価値をもたせることができないのと同じ)。

NFTは第三者が介入しないので、瞬時にトークンの譲渡などを行うことができます。さらに素晴らしいのは、スマートコントラクトという仕組みによって、一度アーティストから購入された作品が誰かに転売されたとしても、アーティストはその売り上げの何パーセントかを利益として得ることができる点です。

スマートコントラクト – ブロックチェーン上で第三者を介入させず、自動的に契約を履行するための仕組みのこと

今までのアート作品は、高値で転売されてもアーティストがその恩恵を受けることはありませんでしたが、NFTなら転売されるたびに、自動的にアーティストが収益を得る仕組みを作ることができるのです。

NFTを活用するための4つの方法

ここからアーティストがNFTをどう活用すれば良いのか、そのための4つの例を紹介していきます。

1. デジタル著作権

楽曲の販売にNFTが取り入れられれば、スマートコントラクトによって、楽曲が再生されるごとにアーティストに収入が入ってきます。

また曲がいつどこで再生されたか、購入されたかといった細かな動きを把握することも可能になります。

2. ロイヤリティの支払い

今までアーティストは、レーベルやストリーミングサービスからの報酬を受けるのに半年〜1年ほど待たなければいけませんでしたが、ブロックチェーンとスマートコントラクトの技術によって、各ストリーミング再生ごとに瞬時に収入が得られるようになります。

3. 仲介手数料の排除

NFTを使えば、第三者を介さない、アーティストとファンの直接的な繋がりをつくることができるので、レーベルや配信会社に仲介手数料を取られることもなく、アーティストはより多くの収入を得ることができるようになります。

各ストリーミング再生ごとの細かいデータにもアクセスできるので、支払いが公正に行われているのかが確実にわかるというのも大きなメリットですね。

4. コンサートチケット

NFTを使ってコンサートチケットを販売すれば、チケットの受け取りや金銭のやりとりを瞬時に行うことができます。

すでに「mintbase」のように、個人がNFTを利用してチケットなどを販売できるプラットフォームもあり、今後はますます仲介業者の仕事がなくなっていくかもしれませんね。

「NFT」は音楽業界をどう変えるのか? | まとめ

NFTはブロックチェーンという技術がもとになっているので、より理解を深めるならブロックチェーン関連の本も読んでみるとよいかもしれません。

ブロックチェーンの思想やアイデアについて知りたいという人は、こちらの本がおすすめです。

仕組みだけではなく、ブロックチェーンによって社会にどのような変化が生まれるのかについても書かれています。

NFTはとてもおもしろくて可能性のある技術ですが、今はもの珍しさによってバブル的に盛り上がっている面もあり、さらにイーサリアムというプラットフォームを使っているため、イーサリアムの普及によっても今後が左右されるでしょう。

ただ、ブロックチェーン周りで起こっている技術革新やビジネスの変化は、今後も止まることはないでしょうから、将来を模索しているアーティスト・音楽関係者はぜひこのあたりの流れを頭の片隅にでも置いておくと良いのではないでしょうか。

この記事が、みなさんの参考になれば嬉しいです。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?