最近やたら「AI」って言葉を耳にしませんか?
ビジネスでも音楽でもなんにでも「AI」を活用しようという世の中の流れのせいで、特にロボットを研究しているわけじゃなくてもこの言葉を耳にする機会は多いと思います。
音楽業界でもよく聞くようになったわよね。
実際に音楽業界でも、iZotope「Ozone」や「LANDR」などのAIミキシング, AIマスタリングサービスが数多く登場していますよね。
中でも今回は、AIによって「作曲」ができるサービスについてご紹介していくわけですが、この記事はこんな人におすすめです。
- 純粋にAIが作曲することについて興味がある
- AIを使って制作時間を短縮したい
- なかなか楽曲が完成しないからAIの手助けが欲しい
- YouTubeのBGMをAIで簡単に作りたい
AIは、このようないろんな作曲に関する悩みやニーズに答えてくれる可能性を秘めています。
AI作曲ツールにもいろんなタイプのものがあるので、それぞれの特徴を解説しながら進めていきましょう。
AI作曲の仕組み
まず「AIが作曲する」とは、どういうことなのでしょう?
AI作曲のための技術は、いろんな会社が独自で開発しているためさまざまですが、機械学習(ディープラーニング)によって楽曲の特徴を分析し、楽曲制作に応用しているというケースが多くみられます。
数年前「AlphaGo」というグーグルのAIが、囲碁のトッププロに勝ったというニュースがありましたが、あれも機械学習によってAIが自ら学習を重ね、成長していったことによる成果ですね。
参考: 囲碁AI「AlphaGO」の次世代版は、自己対局で「最強」を超えた──その進化の本質と、グーグルの野望 – Wired
今までは主に、人間の手によって学習させることで機械の性能を向上させていましたが、人間が手を加えずとも機械が自ら学んでいくことで、機械の性能がとんでもないスピードで進化していくのです。
アマゾンが2019年12月に発表した「AWS DeepComposer」も、「Generator(演奏者)」と「Discriminator(指揮者)」という二つの機能をAIに持たせることで、機械が作ったメロディーやコードに対して機械が「どうすればもっと良いメロディーになるのか」「生成されたメロディーの何が良くて何が悪いか」というフィードバックを機械が勝手に行うようになりました。
そのフィードバックを何千回と重ねていくことで、AIによる素晴らしい作曲が可能になるんですね。
もっと詳しいことが知りたければ、こちらのAWS DeepComposerに関するアマゾンのプレゼンがおすすめです。
参考: Announcing AWS DeepComposer with Dr. Matt Wood, feat. Jonathan Coulton
最近次々に新しいAI作曲サービスがリリースされていますが、実際どんな作曲ツールがあってどのように利用できるのでしょうか?
順に、見ていきましょう。
いま話題の「AI」作曲ツール10選
ここでは数年前から存在するAI作曲ツールから、つい数ヶ月前にリリースされた最新のものまで、合計7つのサービスをご紹介します。
オンライン上でサクッと作曲を行うものやDAWと連携して本格的に作曲ができるものまで、現在さまざまなサービスが出てきています。
楽曲を使う目的やサービスの利便性などを比べてみて、ぜひ自分に合うAI作曲ツールを見つけて下さい。
1. SunoAI
SunoAIが登場してから、 AI作曲が世間でも騒がれ始めるようになりました。
SunoAI以前と以降では、AI作曲のクオリティーがまるで違います。 簡単なプロンプト入力するだけで、まるでプロが作ったかのような曲が出力されます。フリーで気軽に試せるので、まずは登録して実際に作ってみることをおすすめします。
最近では、自分で録音したビートや鼻歌を入力すると、それに合ったメロディ、コード、ビートをつけてくれる機能まで登場し、初心者の作曲のハードルがぐんと下がりました。
2. Udio
SunoAIの少し後に登場したUdioは、SunoAIを超えるクオリティを持つAI作曲ツールとして世間を賑わせました。
こちらも制限はありますが、フリーでAI作曲を体験することができます。
このUdioと、先ほど紹介したSunoAIは現在のAI作曲サービスの二大巨塔ですが、生成される音楽のクオリティが高すぎるが故に、現在ワーナー・ユニバーサル・ソニーの世界のトップレーベル3社から、AIの学習元をめぐって訴訟を受けている最中です。
3. Mubert
AI作曲ツールが騒がれ始めた当初話題になり、落合陽一さんが使っていることでも有名なのが、こちらのMubert。
「Text to Music」という、テキストから音楽を生成する技術で、自分のイメージに合った音楽を瞬時に生成してくれます。
UdioやSunoAIよりもはるかに長い、最長25分の曲を作れることもあり、BGM寄りの軽やかな音楽を得意とします。
次の動画では、落合陽一さんがMubertを使って音楽を一瞬で制作しています。
動画では「Weekly Ochiai」という番組のテーマ曲を制作していますが、落合さんは「Replicate」という「Image to Text」ソフトを使い、Googleの画像検索結果を一度テキストに変換してから音楽を生成するという面白い使い方をしていますね。
ちなみに動画で使われているのはこちらのページで、使用には「Pro」か「Business」プランが必要です。
4. Google DeepMind
Googleが開発しているDeepMindは、動画から音楽を生成することができます。
音楽だけでなく、足音などのフォーリーエフェクトや、効果音までAIが自動生成してくれるというとんでもない機能を持っています。
まだ一般公開されていませんが、AIの精度が上がり、世に広まれば、これまで映像や映画に携わっていた音のスペシャリストたちの仕事が徐々に不要になっていくことは想像に難くありません。
5. WavTool
WavToolは、ChatGPTを使ったテキストベースでの作曲が可能なツールです。
無料版もありますが、テキストの入力回数が制限されるので、WavToolで本格的に作曲したい人は有料登録が必要になってくるでしょう。
まだまだ、自分で一から作曲した方がクオリティの高い曲ができますが、将来的にはもっとAIが発達し、自分のイメージしていることを簡単に曲で表現できるようになると思います。
今はまだ本格的に使う気にはなれませんが、これからの成長が楽しみなAIツールの1つですね。
6. AIVA
半導体メーカーである「NVIDIA」が制作しているAIに関するドキュメンタリーシリーズ「I am AI」の第一話で、AIをつかった楽曲制作を特集しています。
その中で登場するのが、まずはじめにご紹介するAI作曲ツール「AIVA」。
この動画は「どうやってAIで人の心を動かす音楽を作るか」ということがテーマになっており、AIを使うことで過去の名曲に存在する特定のパターンなどを見つけ出し、人間の作曲プロセスをより短縮化することができるといった内容です。
ここでAIが行っているのは、楽曲のパターン分析をもとに曲の土台を作るということ。
以下のようなことはAIではなく「人間の手」によって行われています。
- AIにモーツァルトやショパンなどの楽曲を学習させる
- AIによって作られた曲をもとに人間が演奏する
- AIによる過去作品の盗作がないかチェックする
- オーケストラ用に編曲する
- クライアントの要望に応じてアレンジを加える
こうやって見てみると、今のところAIが作曲の全てを行うというのはまだ難しいことが分かりますね。
しかし、今後はもっと進化させることでAIにオーケストラを書いてもらったり、ゲームや映画のシナリオを読ませることで、その場面に応じた曲を作るといった機能も追加していくようです。
ますます人間のやることが無くなっていきそうじゃな。
僕も実際にこのAIVAを使って作曲をしてみましたが、「スタイル, 音程, 曲の長さ, 楽器」などを選ぶだけで驚くほど簡単に曲を生成することができます。(クラシックやポップスだけでなくEDMも作れちゃうところがスゴい)
ただ曲としては成り立っているのですが、やはり人間の手によって編集しないことには若干つまらない曲になってしまいます。その編集画面も今のところ使い勝手が良いとはいえないので、今後の進化に期待といったところですね。
AIVAは有料版もありますが無料登録でもある程度使えるので、今のAI作曲の技術がどの程度なのか気になっている人は試してるのもおもしろいでしょう。
ちなみにこのNVIDIAのAIドキュメンタリシリーズでは、音楽制作だけでなく以下のようなAIに関するテクノロジーも取り上げていて、どれも結構おもしろい内容でしたよ。
- 自動運転技術
- AIによる病気の診断
- ヘアカラーシュミレーション
日本語字幕もあるので、テクノロジーが好きな人はぜひ見てみて下さい。
参考: [日本語字幕付き] I am AI Docuseries – YouTube
7. ORB Composer
「ORB Composer」は、Logic ProやCubase, Studio OneなどのDAWと連携して使うことのできるAI作曲ツールです。
ここまで紹介したのはオンライン上で楽器や雰囲気を選ぶことで手軽に作曲してくれるような簡易的なものでしたが、このORB Composerはソフト上でAIを使って制作したメロディやコードを通常のDAWと同じようにMIDI編集したりできる画期的なソフトウェアです。
DAWと連携できるので、AIで生成したメロディーを自分の好きなシンセサイザーなどの音源で鳴らすことができます。
ドラッグ&ドロップでコード進行をポンポン作っていったり、あるメロディーをもとに曲の全体像を組み立てていくこともできるので、今回ご紹介している7つの中でも出来ることは格段に多いですね。
オフラインでDAWと連携出来る、かなり本格的なAI作曲ツールね。
アップデートを重ねてステップシーケンサーなどのいろんな機能に対応していっていますが、現時点でどこまで使いものになるのかは未知数です。
新しいもの好きで興味のある人は、ぜひ試してみて下さい。
・Orb Composer Artist S 1.5 – Plugin Boutique
・Orb Composer Pro S 1.5 – Plugin Boutique
8. AWS DeepComposer
これはAmazonが2019年の12月に発表したサービスで、専用のキーボードを一緒に使って簡単なメロディーを弾くだけで、AIがドラムやギター, シンセなどあらゆる楽器の伴奏を付けてくれるサービスです。
Dr. Matt Woodが実際に演奏したメロディーに、AIが伴奏をつけている様子はこのプレゼン動画で観ることができます。
自分の作ったメロディーが即座に曲になるというのは、音楽制作を純粋に楽しみたい人にとっては素晴らしいツールになると思います。
AIが生成した伴奏に手を加えて仕上げれば、プロユースでも使えるかもしれませんね。
資金力と技術力のあるAmazonが機械学習に力を入れていけば、どんどん素晴らしいツールに仕上がってくることでしょう。
9. Jukedeck
「Jukedeck」はイギリスのTechCrunch Battlefield London 2015というビジネスコンテストで優勝した企業です。
その時のプレゼンテーションがラップ調でとても面白かったので、ここに載せておきます。
ビジネスのプレゼンテーションがラップというのは初めて見ましたが、かなりインパクト強めですね。笑
肝心のサービスはというと、ここまで紹介してきたオンラインAI作曲サービスとかなり似ているので(当時は珍しかったのでしょうが)、残念ながら新しさは感じられませんでした。
2019年にはTikTokを運営する中国の企業「Bytedance」に買収され、現在Jukedeckの社員はBytedanceのメンバーとして活動しているようです。AI作曲がかなり広まってきている現代、TikTokという巨大なサービスを運営する会社と協力した方が生き残れるという判断でしょう。
なので、現在ホームページでは「アップデートをお待ち下さい」という表示があるだけで、サービスが利用できなくなっています。
TikTokのサービスの一部として生まれ変わるのか、Jukedeckとしてのサービスがまた復活するのかは今のところ分かりません。
10. Musenet
「MuseNet」は一般に公開されているAI作曲ツールではありませんが、あのイーロン・マスクが支援していることでも有名なOpen AIという団体が作ったプログラムです。
2022年には、「ChatGTP」を公開したことで、世界的に有名になりましたね。
参考: MuseNet – 公式ページ
ちなみにイーロン・マスクとは、ZOZOの前澤さんが宇宙旅行で使用するロケットを作っている会社「スペースX」を立ち上げた起業家です。彼はペイパルやテスラの創業に関わっていた人物であり、ハイパーループという次世代輸送技術の構想を発表した人物であり、「この世はコンピューターシュミレーションである可能性が高い」と公言しているかなりの変態的(天才的)ビジネスマンです。
すいません、イーロン・マスクが好きすぎて話がそれましたが・・・
MuseNetは機械学習によって、モーツァルトやショパンなどのクラシックの巨匠の楽曲と、ビートルズといった現代のアーティストの楽曲を組み合わせて、新しい音楽をつくることを可能にするサービスです。
以前は公式ページでデモを体験することができたのですが、残念ながら今はもうできなくなっています。しかし公式ページでは「モーツァルトのトルコ行進曲の冒頭を使ってショパンのスタイルで作曲する」などといった面白い試みをいろいろ見ることができます。
AIを使った作曲の可能性に興味を持っているという人は、ぜひ公式ページを訪れてみて下さい。
AIが作曲すると著作権はどうなるの?
オンライン上で使用する「AIVA」については無料版だと商用利用ができません。これは公式ページにも記載されていますし、そもそもフルダウンロードもできないので…
こういったサービスは、有料版に登録することでロイヤリティーフリーの楽曲がダウンロードできるようになり、自身のYouTubeチャンネルなどでも利用できるようになります。
SunoAIやUdioなどの自動作曲ツールで作った曲に関しては、国によるかもしれませんが、基本的にはAIが作った曲なので著作権が存在しません。 自分の曲として権利を主張することはできませんが、YouTubeなどで利用する分には問題ない、という考え方で良いかと思います。
「Amazon DeepComposer」や「ORB Composer」についてはなんとなくお分かりかもしれませんが、完全にAIが自動で作曲をしてくれるわけではないので、人間の手が加わっているもの、つまりAIとの共作については意図的に盗作しようとして作曲しない限り、特に著作権の心配をする必要はないでしょう。
いま話題の「AI」作曲ツール10選 | まとめ
今回は、AI作曲ツールの中でも知名度が高く、話題になっているものをピックアップしました。
個人的には、Amazonがこのような作曲に関するツールを発表したのがテンション上がりましたね。SunoAIやUdioの訴訟問題など、 権利関係の問題は山積みですが、これからも音楽関連のAIはどんどん増えていくことでしょう。
AIに負けないよう頑張るのではなく、「AIVA」で紹介した人たちのようにAIとうまく共存しながら、より良い音楽をより短い時間で作れるようになっていくと、今より素晴らしい世の中になりそうですね。
今後のテクノロジーの進化も非常に楽しみです。