今日は「ディザリング」「ディザー」について解説します。
この言葉は、DTMをしていれば一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
ディザリングは、主にマスタリングの段階で行われることが多いので、あまり気にしない人も多いかと思いますが、自分の作品を最高のサウンドにしたいなら必ず覚えておきたい処理です。
かく言う僕も、「ディザリングってややこしそう…」と今まで敬遠していたのですが、この際いろいろ調べておおまかな仕組みや使い方は理解できたので、この記事でみなさんと共有したいと思います。
僕と同じように、「難しそう…」「めんどくさそう…」という理由でディザリングの仕組みや使い方がよく理解できていなかったという人は、この機会にぜひ一緒に学んでいきましょう。
ディザリングとは?
ディザリングとは、ビット深度を下げた時に起こる「データの欠損によるエラー」を防ぐための処理です。具体的にはデータ変換時にノイズを混ぜることで、エラーを最小限に抑えることができるという仕組みです。
え、完成した曲にノイズを混ぜちゃうの?
微量のノイズを混ぜることで、音質の劣化が防げるんじゃよ。
せっかく完成した曲にノイズを混ぜるなんて、なんだか変な感じがしますよね。
ただ、この処理をすることで、ビット深度を下げた時に起こる「音のひずみ」を軽減し、より滑らかな音質に仕上げることができます。
画像データのディザリング
ディザリングは画像処理でも使われることがあり、ここでもノイズを入れることで、解像度を下げても画像が荒くなりにくくなる効果があります。
この画像をみてください。
左はもとの画像、真ん中は解像度を落とした画像です。
右の画像も、真ん中と同じだけ解像度が下がっているのですが、ディザリング処理によってグラデーションが保たれているのがわかりますね。
オーディオにおいても同じで、ディザーを加えることによって、解像度を下げても音質を保つ効果があるのです。
ディザリングはいつ使うか?
ディザリングを使うのは、ビット深度を下げて書き出したい時です。
ちなみにビット深度とは・・・
CDだと「44.1kHz, 16bit」というフォーマットが定められていますが、この「16bit」の部分が「ビット深度」です。
プロジェクトのビット深度はDAWで設定できるのですが、例えば「24bit」や「32bit(floatを除く)」で楽曲を作り始めた場合、それをCDでリリースしたい!となると、最終的にビット深度を「16bit」まで下げなければいけません。
このビット深度を下げるタイミングで「ディザリング処理」をすることによって、音の劣化を最小限にとどめることができるのです。
ちなみに最初から「16bit」で楽曲を作り始めるなら、ディザリング処理をする必要はありません。
ディザリングを使わないとどうなる?
ディザリング処理をしないと「音のひずみ」に加えて、「微量のノイズ」が入ってしまうことがあります。
ディザリングについての詳しい説明が、iZotope社のYouTubeチャンネルで解説されていたので見てみましょう。
この動画では、「ディザーなしの音」と「ディザーありの音」を比較することができます。
3:36から「ディザーなし」「ディザーあり」の順番で流れます。
「ディザーあり」では、iZotope「Ozone」による「ノイズシェイピング機能」も使われているので、音のひずみだけでなくノイズもかなり抑えられていることがわかりますね。
ここでは、24bitから8bitに変換するという極端な例が挙げられていますが、24bitから16bitに変換する時にも、多少音質が劣化することが予想できます。
せっかく作った曲に「ひずみ」や「ノイズ」が入ってしまうと非常にもったいないので、ディザリングについて理解することはとても大切です。
※ノイズシェーピングとは、ノイズを聴覚上知覚できない周波数までフィルターしてくれる機能のこと。この機能が使えるプラグインを持っている人は、曲のジャンルなどに応じてシェイプを調整してみてください。
ディザリングの仕組み
ここでは、ディザリングの仕組みを深堀りしてみましょう。
量子化とは?
ディザリングの仕組みを理解するためにまず覚えておきたいのが、「量子化」です。
まずは、この表を見てください。
- 赤い線 → もとのアナログの波形
- 青い線 → デジタル化された波形
赤い線は、もとの連続的したアナログ波形ですが、これをコンピュータで処理するためには、各ポイントでもっとも近いビットに無理やり当てはめなければいけません。
この処理を「量子化」といいます。
ちなみに、表の例では「3bit」なので音を8段階でしか表現できていませんが、例えば「16bit」だと65,536段階で表現でき、ビット深度が高くなればなるほど滑らかなアナログの曲線に近づいてより細かい表現が可能になります。
量子化ひずみ
例として、ビット深度を24bitから16bitに下げる場合を考えてみましょう。
この処理では、8bit分のデータを切り捨ててしまうことになります。
8bit分のデータを切り捨て、残ったものを近くのビットに無理やり当てはめることによって、エラーがおき「低レベルのノイズ」「ひずみ」の原因となるのです。
これを「量子化ひずみ」といいます。
このひずみは、音楽が鳴っている時はほとんど聴こえないのですが、イントロやブレイクといった、音が静かな部分で聞き取れる場合があります。
なので、ディザーを挿れなくても音は変わらないように感じますが、実は細かいところでノイズが入っていたり、楽曲全体が荒くなってしまうことがあるので、ビット深度を下げる時は、ディザーを必ず入れるようにしましょう。
ディザリングの効果
ディザリングとは低レベルのノイズを加える処理のことですが、これにより量子化ひずみが生成するひずみが軽減され、安定した低レベルのヒスノイズのようなものに置き換わります。
この処理のおかげで、ビット深度を下げても、ひずみの少ないキレイな音質を保つことができるのです。
ディザリングで注意すべきたった1つのこと
ディザーを使用する時に気をつけることが、1つあります。
ディザーを使うのは、ビット深度を下げる時だけにする。
ディザリングはノイズを加える処理なので、使わないのに越したことはありません。
なので、ビット深度を変更しなければディザーを入れる必要は全くありません。
「マスタリングでCD音質まで下げる必要がある」とか「マスタリングエンジニアに渡す時にビット深度を下げるよう指定された」といった状況で使うようにしましょう。
Logic Proを使っている人は、オーディオ書き出し時にディザーがONになっていることがあるので、気をつけてください。
DAW付属のディザーについて
Logic Pro XやAbleton LiveなどのDAWを使うと、バウンス時にディザリング処理ができるのですが、いくつかのディザリングタイプが存在しています。
いつ、どのようなタイプのディザーを使うべきなのかをまとめておくので、参考にしてみてください。
POW-r #1
まず、タイプ1は「ポップス」「ロック」「ダンスミュージック」というしっかり圧縮された音源に使われます。
ノイズシェーピングは入っておらず、フラットな周波数応答を持っています。
POW-r #2
タイプ2は、通常スピーチなどで使われます。
2kHzあたりを減衰させ、14kHz以降を増幅させるEQ/ノイズシェーピングが入っています。
POW-r #3
タイプ3は、「クラシック」などのダイナミックレンジが高いジャンルに使われます。
これもノイズシェーピングが入っていますが、タイプ2よりもきついカーブのものが入っています。
DTMにおけるディザリングの意味と使い方 | まとめ
ディザリング機能を使うには、DAWに付属しているものを使うか、iZotope「Ozone」やFabfilter「Pro-L」のようにディザーが付いているタイプのマスタリングプラグインを使う必要があります。
ほとんどのDAWでは、書き出し時にディザーを入れるかどうか選択できると思いますので、新たにプラグインを買う必要はないと思いますが・・・
これまでディザーの意味がわからず使ってこなかったという人も、これを機に、ビット深度を下げないといけない状況があればぜひ使ってみてください。
この記事が、みなさんのお役に立てば嬉しいです。