2024年現在、もっとも素晴らしいリミッターの1つである、Newfungled Audio「Elevate」をご紹介します。
Elevateを使うと、iZotope OzoneやFabfilter Pro-Lではできなかったマスタリングが実現できます。
と聞くと、ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、
リミッターを入れることで「音が詰まった」ようになる、あの感じがなくなり、ミックスバランスを整えつつ自然に音圧を上げてくれます。この自然さは、OzoneやPro-Lではなかなか出せないので、最近ではマスタリングに欠かせないツールになりました。
これまでメインで使っていたiZotope Ozoneですが、こちらのリミッターアルゴリズムは年々進化していて、今は「IRC 1~4」まで出ています。Ozoneがさらに進化して「IRC 5」や「IRC 6」が登場したら、Elevateみたいな音になるんだろうな、と個人的には思っています。それくらい先を行っています。
さらに、付属のトランジェントシェイパーがとてもよくできているので、最後の最後に「音にパンチを出したい時」にとても役立ちます。のっぺりしてしまったミックスのダイナミクスも、Elevateにかかれば復活させることができるのです。
このトランジェントシェイパーだけでも、買う価値があると思いますね。
ちょっとわかりにくいパラメーターがあるのでマニュアルの精読は必須ですが、UI自体はシンプルなので、慣れてしまえばそこまで難しい操作は必要ありません。
Newfangled Audio「Elevate」 – マニュアル
リミッター、トランジェントシェイパー、クリッパーのマスタリング3点セットが1つに
それでは、さっそくElevateの概要から見ていきましょう。
ホームページによると、Elevateのアダプティブ・リミッターは、「人間の耳をモデルにした26の重要な周波数帯域」に分割・分析し、「各帯域のゲイン、スピード、トランジェントをリアルタイムで変更」してくれます。
Elevateを検索すると、「AI」や「人工知能」というワードがよく出てきますが、これは各帯域のゲインやトランジェントなどを、ElevateのAIが自動でコントロールしてくれるという意味ですね。もちろん、それぞれの帯域はマニュアルで個別にコントロールもできますが、そのまま使ってもかなり良い結果が得られます。
さて、Elevateにはリミッターを含む、3つのツールが付いています。
- リミッター
- トランジェントシェイパー
- クリッパー
これらについて、詳しく見ていきましょう。
リミッターは文字通り、リミッティングをかけて音圧を上げるために使います。リミッターセクションにある「ADAPTIVE GAIN」というパラメーターを上げていくと、26個のバンドが個別に処理されるようになります。これはマルチバンドコンプレッサーに近い感覚だと思います。でも、これを上げすぎると、全体のまとまりやミックスのバランスが崩れやすくなってしまうため注意が必要です。個人的には、ミックスがしっかり整っていればあまり破綻することはないと感じていますが、ミックスを聴きながら調整していくのがおすすめです。
次にトランジェントシェイパーですが、これは失われてしまったトランジェントを、自然な形で取り戻すためのツールです。そもそも、Elevateのリミッターはトランジェントが失われにくい仕組みになっているのですが、もとのミックスにアタック感が少ない場合、トランジェントシェイパーを使うことで、音にメリハリやパンチを出すことができます。ここにも「ADAPTIVE TRANSIENT」という特殊なパラメーターが付いていますが、先ほどの「ADAPTIVE GAIN」と似たようなもので、これを上げることでより個々の帯域にフォーカスしたトランジェントコントロールが可能になります。
最後にクリッパー。録音や作曲において「音がクリップすること」はあってはいけないものですが、マスタリングでは意図的に音をクリップさせることで、音に迫力を出すことがあります。過去には、クリッパーに関してまとめた記事もありますし、愛用している「Gold Clip」というクリッパーも紹介したことがあります。
音圧アップの秘密兵器「Clipper」のすすめ – スタジオ翁
Schwabe Digital「Gold Clip」| あの名機を再現したクリッパープラグイン – スタジオ翁
Newfangled Audioは「Saturate」という質の高いサチュレータープラグインを出していることもあり、クリッパー部分にも信頼がおけます。個人的にはGold Clipが大好きなので、Elevateのクリッパーはあまり使っていませんが、Saturateはサウンドのディテールを失うことなくクリップさせられる、「Clip Without Clipping(クリップさせずクリップする)」というコピーのもと販売されています。Elevateに付いているのは、Saturateの簡易版になります。
Elevateを通すと、独特な音質になる
ポール・マッカートニー、ケイティ・ペリー、ザ・ローリング・ストーンズなどのエンジニアであるアダム・アヤンは、Elevateのホームページの中で、
Elevateは本当に気に入っている。ちょっとユニークなサウンドで、僕のリミッターツールセットに加えるには最高だよ。
Elevate – Newfangled Audio
と言っていますが、特殊な処理をしているからか、Elevateを通すと確かにユニークなサウンドになります。
動画の最後の方に聴き比べがありますが、ラウドネスが変わってしまっているので、変化が聴き取りづらいかもしれませんね。実際に使ってみるとわかるのですが、既存のリミッターとは違ったサウンドになります。アナログ味のある柔らかい感じ…ではなく、どちらかといえばパンチの効いたタイトなサウンド。でも、デジタルすぎる味気ないサウンドでは決してなく、とにかくバランスよく音圧が上がってくれるイメージです。
個人的なElevateの使い方とまとめ
これまではOzoneのマキシマイザーを使うことが多かったのですが、Ozoneは、やはりOzoneの音になります。4つのアルゴリズムから曲に合ったものを選べるのでとても使いやすいのですが、他の人との差別化を図りたいという理由と、より自然で広がりのあるサウンドに仕上げたいという理由で、今はElevateを多用しています。
先ほど言ったように、Elevateを使うと独特なサウンドになるので、Fabfilter Pro-Lと組み合わせることが多いです。
Pro-Lはクリーンで味付けのないサウンドなので、Elevateで音にキャラクターをつけ、Pro-Lで希望の音圧まで持っていく、といった使い方をしています。
Pro-LやOzoneだけでも十分といえば十分なのですが、Elevateを使うことで、今までなかなか出せなかったミックスの迫力が出せるようになったと思います。マスタリングの品質を、今よりも一段と向上させたい人にはぜひ試してもらいたいですね。
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