今まで、iZotope「Ozone」シリーズを使っていた人に朗報です。
ついに自動マスタリングツールOzoneの精度が、実用に耐えうるレベルにまで飛躍的に向上しました。
早速ですが、どのくらい精度が上がっているのかを知っていただきたいので、まずはこちらのパソコンのスピーカーだけで作った「ドラえもんのうた」をお聴きください。
以前に遊びで、ドラえもんのうた(ラップバージョン)を作ったことがあったのですが、これで、Ozoneのマスタリング精度の検証をしてみることにします。
曲のくだらなさは気にしないでください。パソコンのスピーカーだけを頼りにミックスしているので、音のバランスがあまり良くない、というところが重要です。
これを、1年前にリリースされた「Ozone 9」のマスタリングアシスタント機能を使って処理してみましょう。
極端に出ていた低域は適度に抑えられ、全体のダイナミクスは整ったような気がしますが、これで終わらせてしまうと少し物足りない気がします。人間の手による、さらなる処理が必要ですね。
一方、今月リリースされたばかりの「Ozone 10」を使って、同じくAIによる処理をしてみると・・・
かなり違いが出ています。
Ozone 10ではダイナミクスが整えられつつも、全体のアタック感を損なわないよう処理され、躍動感に溢れたミックスに仕上がっています。Ozone 9のマスタリングでは不必要に潰れてしまっていた低域も、トランジェントを潰さず見事に迫力を出すことに成功していますね。
これらの違いにはAIの進化も大きいとは思いますが、Ozoneにいくつかの新しいマスタリングツールが導入されたことにも関係があります。
今日はそういった新たに追加されたツールを中心に、全く新しく生まれ変わったiZotope「Ozone 10」の紹介をしていきたいと思います。
Assistant Viewによる各パラメーターの調整

こちらは、Ozone 10から新たに追加された「Assistant View」です。
ここからEQやステレオイメージャーといった各モジュールのプロセッシングを、どのくらい適用させるかを1つの画面で調整できるようになりました。
モジュールの細かい設定が面倒、もしくは進化したOzone 10に細かい設定は完全に任せてしまいたい人は、こちらの画面で微調整をしてマスタリングを終了させても良いと思います。それくらいマスタリングAIが進化しているので。
さらに、今まで別モジュールとして存在していた「Tonal Balance Control」がOzoneの画面に表示されるようになったので、画面左側のジャンルターゲットを指定すれば、そのジャンルの理想の周波数バランスカーブが表示され、そのカーブを頼りに全体を整えることで理想的なバランスに近づけることができます。
もっと細かく調整していきたい人は、Assistant Viewを使う必要は特にありません。
今まで通り、モジュールから細かい調整をしていきましょう。
Ozone 10に加わった新モジュール
Ozone 10には、2つの強力なモジュールが追加されました。
これにより、今までにないほど柔軟に楽曲を調整できるようになります。
1. Stabilizer
これはマルチバンドダイナミックEQのようなモジュールで、1秒間に300回以上のEQ処理を行なってくれるAIプラグイン「Gullfoss」にとてもよく似ていますね。
先ほどのAssistant Viewで設定したターゲットジャンルを参考に、周波数バランスを動的に整えてくれます。
出過ぎた周波数は問題のあるタイミング抑制され、足りない部分はダイナミックにブーストすることで、トランジェントまでもスムーズに調整します。
最初の「ドラえもんのうた」で、Ozone 9では潰れていた全体のダイナミクスがOzone 10では潰されず、むしろイキイキした抑揚のあるミックスになっていましたが、それはこのモジュールによる動的な調整が大きいのだと思います。
Ozoneは本当に進化が凄まじいですね。
2. Impact
「Impact」は、マルチバンド対応の「トランジェントシェイパー」のようなツールです。
公式には、「マルチバンド・マイクロダイナミクスコントロール」と書かれていますね。
これを使って、各周波数ごとの「パンチ感」「密度」「グルー感」などを調整していきます。
フェーダーを上げるとパンチが加わり、下げるとパンチ感が抑えられるというシンプルな操作性。「Envelope」を調整することでエンベロープを鋭くしたり、緩やかにできます。
細かな設定はできないですが、楽曲のスピード感やグルーブ感を手早く調整できるので、とても便利なツールだと思います。
その他の気になる新機能
以上の2つが、iZotope 10から加わった新たなモジュールですが、他にもいくつか新たな機能が加わっています。
1. Soft Clipの追加
最近の記事にも書きましたが、Clipperは音圧を上げる上で重要なツールです。
・音圧アップの秘密兵器「Clipper」のすすめ – スタジオ翁
ソフトクリップをうまく使うことで、音を前に押し出し、今っぽいサウンドに仕上げることができます。
ヒップホップやダンスミュージックなどのジャンルでは特に役立つツールですが、これまでClipperが一般に取り上げられることは少なかったかと思います。
これが、人気のマスタリングツールであるOzoneに導入されたことはかなり大きな出来事ですね。
新たにClipperプラグインを購入することなくOzoneで完結できるようになってとても便利になりましたし、さらにはClipperの重要性が広く認識されることで、これからClipperを活用した迫力のある力強い楽曲が増えていくことでしょう。
2. Stereo Imagerの強化
こちらは、Stereo Imagerに加わった新たな機能「Recover Sides」。
ベースやキックなどの低域をモノラル化する時に失われてしまう「奥行き」や「パワー感」を取り戻すためのツールです。
まだあまり使い込んでいないため未知数ですが、デモ動画を見る限りかなり良い感じに機能しているのがわかりますね。
Ozone 10を導入すべきか?
さて、ここまでiZotopeの新しい機能を中心に紹介してきましたが、Ozone 10を購入、もしくはアップグレードする価値はあるのでしょうか?
僕は初心者から上級者まで誰もが、Ozone 10を取り入れる価値があると思います。
特に2つの新しいモジュールである、「Stabilizer」と「Impact」はマスタリングにおいてかなりのインパクトがあるので、買うのならAdvancedがおすすめです。
趣味で音作りをしている人ならOzone 10のAI機能に頼ってマスタリングを完結させても十分ですし、個人で音楽制作からリリースまでを行う、クオリティの高い楽曲を仕上げる必要があるアーティストにおいても、Ozoneの「Mastering Assistant」による処理を参考にしながら細かい音の調整をしていくことで、かなり完成度の高いマスタリングを施すことができるようになるでしょう。
とはいえ、ここまでAIによって完成されたマスタリングを提示されると「みんな似たようなマスタリング」になることは避けられません。
個人的にはミキシングで個性を出していれば、あまりマスタリングで色をつける必要はないと思いますが、そういったAIプラグインによる「みんなと同じ感じ」が好きではない人は、Ozone 10以外のツールでマスタリングをするか、「Ozone 10 + 色付けのためのプラグイン」を使って処理していくのが良いと思います。
まとめ

相変わらず、マスタリングエンジニアという職業は無くならないと思いますが、「1曲、○○円でマスタリングやります!」といった、素人に毛が生えたようなマスタリングエンジニアの需要は減り続けるでしょう。
趣味で音楽を作るぶんには、マスタリングを完全にOzone 10に任せても十分なクオリティですし、個人で音楽制作からリリースまでを行うアーティストにおいても、Ozoneの「Mastering Assistant」をベースに細かい部分の修正をしていけばかなり良いところまで持っていけるでしょう。
いやー、2022年はAIによる画像生成技術の発達もすごいですが、音楽分野でもAIの進化が凄まじいですね。
AIに任せられる部分はサクッとAIに任せてしまい、人間にしか出せないオリジナリティを出すことによりフォーカスしていくことが、これからの時代の音楽制作の鍵だと思います。
新しい技術はどんどん取り入れて、より良い音楽を作っていきましょう。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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