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世界のサイケデリックセラピーの現状と音楽の役割

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いま世界中で研究が進められている、新たなムーブメント「サイケデリックセラピー」をご存知でしょうか。

サイケデリックセラピーは簡単に言ってしまえば「ドラッグ(幻覚剤)を使ったセラピー」のことで、日本ではもちろん違法です。

なので、このムーブメントを日本で感じることはほとんどないのですが、世界中で不安やストレスに悩まされ、自ら命を落としたり不安な日々を送っている人がたくさんいるこの時代に、サイケデリックセラピーは長期的に心の傷や不安を癒すためのツールとして密かに注目されつつあります。

カウンターカルチャーの象徴として使用されていた幻覚剤も、ついに一般層にまで浸透し、医療に使われる時代がやってきたのですね。

参考: 非合法化から50年 LSDの今:サイケデリック・ルネサンスはLSDをどう変えたのか – Rolling Stones

でも、「なぜ今まで危険だと言われていた幻覚剤を積極的に活用する流れになったのか?」と、不思議に感じる人も多いかもしれません。

それには、いくつかの理由があります。

なぜサイケデリックセラピーが必要なのか?

まずサイケデリックセラピーは、病院で処方してもらった従来のうつ病やPTSDの薬で症状が改善しない人々の症状を、長期的に和らげる可能性を持っています。

サイケデリックセラピーは「脳をリセットする」とも言われ、従来型の薬が否定的な感情を麻痺させるものであるのに対して、サイケデリックセラピーで使用される薬は「人生の困難や苦悩に立ち向かい、処理することを可能にする」とも言われています。

参考: Psychedelic therapy could ‘reset’ depressed brai – BBC News

薬で一時的に否定的な感情を押さえつけるより、もっと根本的に状況を改善できる方法があるんじゃないかということで、日々研究が進められているわけですね。

もともと1970年まではセラピー目的での使用も行われていたようですが、当時の大統領であるニクソンによって幻覚剤の使用が禁止され、研究もバッタリ止まってしまったという経緯があります。

ところが2021年、米政府がいくつかの大学に4億5000万円という巨額の幻覚剤研究の資金提供をしたことで、再びサイケデリックセラピーの研究が盛り上がりを見せることになります。

参考: 米政府、幻覚剤研究に約4億5000万円の研究資金提供 – Yahooニュース

こういった流れを受けてか、ブライアンイーノやコールドプレイとも関わりのあるイギリス人アーティスト「Jon Hopkins」は、2021年に「Music For Psychedelic Therapy」というサイケデリックセラピーのためのアルバムを発表するなど、最近は音楽シーンにおいてもサイケデリックセラピーの波が広まっているのを感じます。

参考: Music For Psychedelic Therapy – BEATINK

サイケデリックセラピーの方法と使用される幻覚剤について

サイケデリックセラピーの方法は、施設や研究機関によってさまざまですが、

  1. セラピストによるカウンセリング
  2. 経口または注射による幻覚剤の摂取
  3. セラピストによるガイドや音楽体験
  4. 心理療法などの従来型療法との併用

といった流れで行われるのが一般的なようです。

使用される幻覚剤は「DMT」「LSD」「ケタミン」「イボガイン」「シロシビン」「MDMA」と強力な幻覚作用を伴うものも多いので、「マイクロドージング」と呼ばれる少量摂取によるセラピーが行われることもあります。

マイクロドージング

サイケデリックス療法の1つのバリエーションは、マイクロドージングとして知られています。これは、非常に少量の幻覚剤以下の用量のサイケデリックス物質を服用することを含みます。マイクロドージングの支持者は、これらの非常に低用量でさえ、パフォーマンスの向上、エネルギーの増加、うつ病の減少などの有益な健康効果をもたらす可能性があることを示唆しています。マイクロドージングがいくつかの有益な効果をもたらす可能性があるといういくつかの証拠がありますが、より多くの研究が必要です。

What Is Psychedelic Therapy? – verywellmind

参考: 10 Centers for Psychedelic Healing, Therapy, and Exploration – Goop

サイケデリックセラピーが有効な5つのシチュエーション

ではサイケデリックセラピーは、具体的にどのような症状に有効なのでしょうか?

イギリスのニュースサイト「MEDICAL NEWS TODAY」には、サイケデリックセラピーが有効なシチュエーションとして、次の5つが挙げられています。

  1. うつ病
  2. PTSD
  3. 中毒
  4. 摂食障害
  5. 末期症状

参考: What to know about psychedelic therapy – MEDICAL NEWS TODAY

うつ病やPTSDの治療に使えるだけでなく、終末を迎えた末期症状の患者の「絶望感」や「恐怖感」を和らげるのにも使えるというのは興味深いですね。

誰しもが「死にたくない」「死ぬのが怖い」と感じながら死んでいくより、不安や恐怖を和らげ、安らかに死んでいきたいと願っているはずです。

高齢化社会の日本においてはかなりの需要が見込めそうなサイケデリックセラピーですが、いま生きているお年寄りが亡くなるまでに、幻覚剤の使用が日本で認められるのは相当難しい話でしょう・・・

他にも、摂食障害やたばこ・アルコールの中毒症状が改善したという研究結果も出ています。

幻覚剤によって中毒症状がなくなるというのがどういうメカニズムなのかイマイチわかりませんが、これが本当に効果があるならかなりの数の中毒者が救われそうですね。

ただ、中毒症状の改善には「イボガイン」という幻覚剤が使用されるようですが、イボガインには毒性や依存症のリスクがあるので、今のところ、あくまで治療が期待できる「可能性がある」という段階にとどまっているようです。

参考: What to know about ibogaine treatment for addiction – MEDICAL NEWS TODAY

サイケデリックセラピーのリスクについて

いろんな症状に効果のあるサイケデリックセラピーですが、多くの国で禁止されている幻覚剤を使うというだけあって、いくつかのリスクも存在しています。

イボガインに限らず幻覚剤を大量に使用すると、依存や症状の悪化といったさまざまなリスクが出てきたり、最悪死にいたる可能性があるのも事実。

例えば、LSDは精神病の家族歴を持つ人々の精神病反応をさらに悪化させることがあり、MDMAは使用後の極度の疲労や妄想に悩まされてしまう可能性もあります。

参考: How ecstasy and psilocybin are shaking up psychiatry – nature

幻覚剤にはかなりの可能性が秘められており、臨床の現場で専門家の指導のもとセラピーが行われればリスクは最小限に抑えられるものの、まだまだ研究すべき事柄も多く、世界的に普及するには時間がかかりそうですね。

サイケデリックセラピーにおける音楽の役割

セラピー中に音楽を聴くことは、サイケデリック体験を強化することにつながります。

幻覚剤を使った南米のシャーマンによる儀式では「イカロ」と呼ばれる歌が歌われるそうですが、幻覚剤と音楽は昔から切っても切り離せない関係であることがわかります。

音楽を聴く理由としては、音楽に反応する脳の箇所と幻覚剤によって反応する脳の箇所は部分的に重なっており、音楽との相乗効果で幻覚剤による脳の変化を強化するため。

他にもセラピー中のリラックス効果を高める目的だったり、サイケデリックトリップを円滑に進めるためのガイドとして活用するためだったり音楽を使用するメリットはかなり多いようです。

ただし人によっては、音楽そのものに嫌悪感を抱いてしまったり、音楽によって恐怖心が煽られたり、良くない想像や妄想をしてしまうこともあるようで、すべての状況で上手くいくわけではありません。

音楽の好みは人によって違いますし、同じ音楽を聴いていても「気持ちいい」という人もいれば「不気味・不快」という人もいたりするので、これは当然といえば当然の結果ですね。

セラピストが行う音楽の選定や、セラピーに使う音楽への理解がとても重要になってくると思います。

いずれにしても、音楽はうまく扱うことができれば、体験を強化して人々をリラックスさせる素晴らしい効果があるので、今後サイケデリックセラピーがより盛んになってくれば、この種の音楽の研究もさらに進んでいくことでしょう。

参考: The hidden therapist: evidence for a central role of music
in psychedelic therapy

まとめ

さて、簡単にサイケデリックセラピーの効果や現状などを見てきましたが、はたして私たちが生きている間に日本にサイケデリックセラピーはやってくる日は来るのでしょうか?

サイケデリックセラピーはまだまだ発展途上のセラピーであり、世界的に見ても一般的ではありませんが、現代人の精神状態や今の世界情勢を見渡せば、このようなセラピーを待ち望む人々が多くいるのは確かでしょう。

この先、サイケデリックセラピーは日の目を見ることができるのか、それとも再び規制されてしまうのか、そして精神病大国日本にサイケデリックセラピーが輸入されることはあるのか、今後の流れに注目です。

くれぐれも日本では違法なので、セルフサイケデリックセラピーは行わないようにしてください。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?