最近、映画の整音(MA)のお仕事をしているのですが、その関係でiZotope社のRXをかなり使い込んだので、RXについて色々書いていこうと思います。
昔からノイズ処理ソフトの大定番として君臨しているRXですが、ボーカルの録音時に入ってしまう「リップノイズ」や「ブレスノイズ(息継ぎの音)」を取り除けるのはもちろん、「こんなものまで取れるのか!」とびっくりしてしまうようなノイズまで取り除くことができます。
RXには「Elements」「Standard」「Advanced」と3種類あって、今回は高度なボーカルの処理や、ポストプロダクションで使われる「Advanced」に焦点を当ててお話していきます。
一般の音楽制作をしているユーザーは「Standard」でも十分なのですが、例えばフィールドレコーディングに活用したいとか、ボーカルや楽器の録音時のノイズをもっと細かく取り除きたいという人は「Advanced」を購入することをおすすめします。
この記事では、「今回のアップデートで追加された新機能」「StandardとAdvancedの違いについて」「そもそもRXでどんなことができるのか」などを中心にご紹介していきます。
RX10で追加された新機能
まずは以前からのRXユーザーに向けて、RX10で追加された新機能をいくつか紹介します。
新機能
- テキストナビゲーション
- リペアアシスタントプラグイン
- 複数話者の検知
- ユーザーツアー
機能の向上
- リペアアシスタント(RX app)
- De-humダイナミックアダプティブモード
- スペクトラルリカバリーの改善
- 周波数ベースの範囲選択
RX10になって一番変わったのは、こちらのリペアアシスタントプラグインでしょう。
これまでのRXにもAIによるリペアアシスタント機能がついていましたが、RX10からこちらのモジュールで一括調整できるようになり、さらにスタンドアロンのアプリを開くことなくDAW内でプラグインとして気軽に使えるようになりました。
他にもDe-Humの機能が向上していたり、複数の話者を検出して個別にノイズ処理ができたりと細かい改善はたくさんありますが、リペアアシスタントでサクッとノイズ処理ができるようになったことが大きな変化ですね。
細かいアップデートの内容は、こちらの動画でも紹介されています。
RXにできること
いきなり新機能からご紹介しましたが、「そもそもRXで何ができるのかよくわからない」「RXにできることを詳しく知りたい」という人もいると思うので、そのあたりを詳しくご紹介していきます。
音楽制作者がRXを使うメリット
主に「ボーカル」や「ギター、打楽器、管楽器」などを扱う音楽制作者は、RXを使うとより精度の高い録音ができるようになります。
例えば、音楽制作をする人なら、
- Breath Control (息継ぎの音を取り除く)
- De-click (リップのくちゃくちゃ音を取り除く)
- De-ess (高域のエスを取り除く)
- De-Hum (ギターなどのハムノイズを取り除く)
- Music Rebalance (ボーカルやベース、パーカッションを分離させてリミックス素材として使える)
- Spectral De-noise (録音時の環境ノイズを取り除く)
これらの機能が役に立つでしょう。
RXはノイズの種類によって細かくモジュールが分かれているので、ピンポイントで狙ったノイズを取り除くことができます。
もちろん上記以外のノイズも、周波数や時間を指定し、特定の部分のノイズだけを取り除くことが可能です。
「ギターの良いフレーズが録音できたのに、聞き返してみるとハムノイズが入っていた」という時や、「ボーカルを録音したのに足音や物音が入ってしまった」という時に、わざわざもう1テイク録り直す必要がなくなるのはとても嬉しいですね。
これらの機能を中心に使いたいなら「Standard」を選びましょう。
ポスプロ
映画やドラマなどを仕上げるためのポストプロダクションでは、野外などの劣悪な環境で録音をすることもあり、さらに高品質なノイズ処理が必要になります。
ポスプロならではの機能として、
- De-wind (風の音を取り除く)
- De-Plosive (ポップノイズを取り除く)
- De-rustle (衣擦れ音を取り除く)
- Dialogue Isolate (声以外のノイズを取り除く)
- De-reverb (リバーブ音を取り除く)
といったものが挙げられます。
こういった特殊なノイズは、専用のモジュールでないと完全には取りきれないので、こういった特定の状況に対応する各モジュールを使い分ける必要があります。
こういった特殊なモジュールはAdvancedにしか入っていないこともあるので、ポスプロ系の仕事をするならAdvancedの購入が必須になるかと思います。
あとは、音楽制作者であっても「もっと綺麗にボーカルのノイズを取り除きたい」「フィールドレコーディングで風の音を取りたい」という人ならAdvancedを購入する方が良いでしょう。
StandardとAdvancedの違いについて
さっきの話で結論は出ましたが、
音楽制作に使うなら「Standard」、ポスプロ業務に使うなら「Advanced」と考えてOKです。
Standardでもかなりノイズは取れるので、ノイズ処理を仕事としていない人なら、とりあえずStandardを購入すれば事足りるでしょう。
あと「Elements」も、下記の基本的なモジュールはついているので、「とりあえず簡単なノイズ処理を行いたい」「セールなので一番安いElementsを買っておいて、後で必要な時にアップグレードしたい」ということならElementsを選ぶのもアリかと思います。
- De-click
- De-clip
- Voice De-noise
- De-reverb
あくまでElementsは超簡易なので、最低でもStandardは揃えたいところです。
RXの使い方のコツ
RXには本当にたくさんのモジュールが用意されているので、全ては解説しませんが、使い方のコツをちょこっとメモしておきます。
まずは、iZotopeの公式マニュアルで、各モジュールの大まかな機能を理解しておきましょう。
どの場面でどのモジュールを使えば良いか、を知ることはとても大切です。
そしてRXを使うにあたって覚えておきたいのは、次の3つです。
- 複数モジュールを組み合わせてノイズ処理を行う
- 各モジュールの特性をよく理解する
- 原音を崩しすぎないよう気を付ける
RXは特定のノイズに対して細かくモジュールが分かれているので、例えば「De-windで風の音を取ってから、De-plosiveでマイクにぶつかってしまった時のノイズを取り除く」というようにいくつかの段階に分けて処理を行うことで、ノイズを効果的に取り除くことができます。
あと、各モジュールの特性をよく理解しておくと、低域のノイズがうまく取れない時に「風は吹いてないけどDe-windを使ってみる」といったワザで乗り切れることがあるので、マニュアルの熟読は必須。
原音を崩しすぎないようにするのは当然といえば当然ですが、Ambience Preservationという原音を保護するためのフェーダーがついているモジュールもあるので、そのあたりを意識するのもうまくノイズを取り除くための秘訣の1つですね。
ノイズ処理は「どこまでノイズを取り除くか」という塩梅がとても難しく、慣れが必要な部分もありますが、以上の3つを意識するだけでもノイズ処理の技術はグンと上がるのではないかと思います。
まとめ
最近の記事にもよく書いていますが、ここ数年はAIの進化が凄まじいので、僕もできるだけRepair Assistantなどを使ってAIに任せられるところは任せ、時短作業できるようにしています。
ノイズ処理は突き詰めれば芸術的な側面もあるのだと思いますが、正直こういった作業は完全にAIに任せられるようになって、はやく人間の手が不要な領域まで達して欲しいものです・・・
ノイズ処理プラグインといえばDAWに付属しているものもありますが、さすがに高性能なプラグインには敵わないところもありますので、お金で買える技術はササッと買ってしまって、少しでもクリエイティブな作業に時間をかけられるようにしたいものですね。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。