マルチバンドコンプレッサーの使い方と実践

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マルチバンドコンプレッサーは通常のコンプに比べてより細かいダイナミクスの調整ができるので、ミキシングからマスタリングまで幅広い用途で使うことができます。

人気マスタリングソフトiZotope「Ozone」などにも内蔵されているので、名前を聞いたことがある人も多いかもしれませんね。

この記事では、以下のようなことを見ていきます。

  • マルチバンドコンプの使い方
  • 実際のシチュエーションに応じた使用例や設定方法
  • おすすめのプラグイン

特殊なツールなので慣れるまでは扱いが難しいかもしれませんが、うまく使いこなせれば強力な武器になることは間違いありません!

「なんとなく難しそう…」という理由で今まで使ってこなかった人も、ぜひこの機会にマルチバンドコンプレッサーに触れてみてください。

マルチバンドコンプレッサーとは?

マルチバンドコンプレッサー(マルチバンドコンプ)を使えば、特定の帯域だけにコンプレッサーをかけることができるので、音のトーンやダイナミクスを細かく調整することができます。

Fabfilter「Pro-MB」

通常のEQやコンプでは対応しきれないような場面で、より細かな調整をしたい時に使うことが多いですね。

帯域を2つ以上にわけて、それぞれの帯域でスレッショルドやアタックリリースを設定することで音を調整していきます。(6バンドくらいまで細かく帯域をわけられるマルチバンドコンプもあります)

コンプレッサーが理解できていればそんなに難しい仕組みではないのですが、コンプレッサーの使い方があいまいな人は、こちらの記事もぜひ読んでみてください。

ダイナミックEQとの違い

マルチバンドコンプと似たような機能を持つ、「ダイナミックEQ」というものがあります。

iZotope「Ozone」

EQは通常「静的」なものなので、例えばギターで低い弦をかき鳴らした時の低音のふくらみを抑えようと100Hzをカットすれば、低音が鳴ってようが高音が鳴ってようが一貫して100Hzがカットされます。

ところがダイナミックEQは文字通り「動的」なEQなので、「ギターの低い弦が鳴った時だけ100Hzをカットする」というような、音の変化に合わせたEQが可能になります。

これ実は、仕組みはマルチバンドコンプとまったく一緒で、帯域の分け方が違うだけなんですね。

マルチバンドコンプは帯域全体を2分割、3分割してダイナミクスの処理をしますが、ダイナミックEQは基本「EQ」なので、Qの幅やカーブを細かく設定することができます。

あと、やや細かい話をするとマルチバンドコンプはクロスオーバーを使って帯域をバッサリ分割するので、分割した帯域で何らかの変化が起こっている可能性はあります。

たいていはリニアフェイズクロスオーバーが使われているので位相変化はほぼないでしょうが、 リニアフェイズでもプリリンギングやひずみが発生することもありますからね。

原理的には、ダイナミックEQのほうが音への影響は少ないかなと思います。

マルチバンドコンプレッサーの基本的な使い方と設定例

マルチバンドコンプといっても、基本的な考え方はコンプとまったく同じです。

こちらの動画では通常のコンプの考え方や設定方法が解説されていて、マルチバンドコンプを扱う際にも役立つでしょう。

また、「マルチバンドコンプで具体的にどのように処理しているのか?」を知りたければ、著名エンジニアTony Maseratiのこちらの動画が参考になります。

動画では、ボーカルをWaves「C4 Multiband Compressor」で調整している様子が観ることができます。

マルチバンドコンプの具体的な設定例は、楽器によってもまったく変わってくるのですが、

  • レシオ 2:1〜4:1
  • アタック 遅め(50ms〜100ms)
  • リリース 速め(5ms)

「どうやって設定すればいいのか見当もつかない!」という人は、このあたりから始めてみても良いでしょう。

曲全体ではなく、曲の途中で特定の周波数が目立っていたり、ある音が鳴った時だけ音が大きくなって目立ってしまうというような帯域に、この設定でコンプをかけてみてください。

この時に注意したいのは、4つのバンドがあるからといって4つ全部を使ってコンプをかける必要はないということ。

音を聴いて、問題のありそうな帯域にだけコンプをかけてみるのがおすすめです。

実際にコンプをかけてみて、もっと過激に音をつぶしたければアタックを速めに設定します。

ゆるやかなコンプレッションの方が良さそうなら、レシオを「2:1」や「2.5:1」くらいに設定してみましょう。

マルチバンドコンプレッサーが使える7つのシチュエーション

マルチバンドコンプはいろんな使い方ができますが、どのタイミングで使えばよいのか初めのうちはよくわからないかもしれません。

ここでは、マルチバンドコンプが効果を発揮する5つのシチュエーションを挙げてみたので、ミックスの際のヒントにしてみてください。

1. ボーカルの歯擦音を取り除く

歯擦音とは5kHz〜10kHzあたりの「シュッ」「スッ」といった音のことで、リスナーに耳障りで不快な印象を与えます。

EQでばっさりカットしたいところですが、ここはボーカルの「抜け」や「きらびやかさ」に関わる大切な帯域なので、不快な音が発生する時だけマルチバンドコンプが動作するように設定します。

ダイナミックEQやディエッサーも使っても良いですが、マルチバンドコンプだとより広範囲で不快な音をカットすることができます。

2. ボーカルの低域を安定させる

ボーカルは曲中でトーンが劇的に変化するので、ある時は低域がどっしりして存在感があるのに、ある時は低域が抜けて他の楽器に埋れてしまう、なんてことがあります。

100Hz以下の低域をマルチバンドコンプで圧縮し、メイクアップゲインで少し持ち上げると、ボーカルが高い音を出す時に低域が一気に抜けたような感じを減らすことができ、ボーカルに安定感が生まれます。

3. キックのスペースを確保する

これは、サイドチェーンコンプ(ダッキング)をさらに発展させた方法です。

参考: コンプレッサーのサイドチェイン機能(前編):コンセプトと歴史 – Ableton

サイドチェーンコンプとは、キックのタイミングでベースやシンセの音を圧縮することで、キックが他の楽器に埋れないようにするテクニックですが・・・

マルチバンドコンプでベースやシンセの低域のみをサイドチェーン圧縮すれば、「明らかにサイドチェーンコンプがかかったようなサウンド」にならずに、自然に各楽器の低域の抜けをよくすることができます。

4. マスタリングに使用する

マルチバンドコンプは通常のコンプより細かく調整できる分、より繊細なダイナミクスのコントロールができます。

レシオは、「1.5:1」とか「2:1」くらいを目安にしてみましょう。

暴れやすい低域に曲全体を通して一貫性を持たせたり、ボーカルの存在感を安定させたりいろんな使い方ができそうです。

5. ギターのノイズを減らす

ゆがみすぎたギターの音や、ノイズのように聞こえる中高域の耳に痛い音は、マルチバンドコンプを使うことで柔げることができます。

この場合、ノイズっぽい部分だけにマルチバンドコンプが反応するようスレッショルドを設定し、メイクアップゲインは使わないでおきます。

おすすめのマルチバンドコンプレッサープラグイン

最後に、おすすめのマルチバンドコンプを3つ紹介します。

個人的にはFabfilter「Pro-MB」が一番使いやすいですが、どれも定番のマルチバンドコンプなので自分の使いやすいものを選びましょう。

iZotope「Ozone Dynamics」

iZotopeの定番マスタリングソフト「Ozone」に入っているコンプレッサーです。

通常のコンプとしても使えますが、バンドを追加して最大4バンドのマルチバンドコンプとして使うこともできます。

iZotope「Ozone9」- Plugin Boutique

Fabfilter「Pro-MB」

クリーンな音響処理と圧倒的な使いやすさに定評のある、Fabfilterのマルチバンドコンプ。

最大6バンドまで追加できるので、より細かな調整が可能です。

Fabfilter「Pro-MB」- Plugin Boutique

Waves「C6 Multiband Compressor」

こちらも6バンドまで調整できる、定番メーカー「Waves」のマルチバンドコンプです。

Waves製品は他のプラグインに比べてとにかく安いのが魅力。

性能で他のマルチバンドコンプより劣っているわけではないのですが、「とにかく安く手に入るマルチバンドコンプが欲しい」という人にはもってこいの製品です。

Waves「C6 Multiband Compressor」- Waves

まとめ

マルチバンドコンプはミックスで頻繁に使うものではありませんが、あるととても便利なツールです。

この記事で紹介した方法以外にも使い方はたくさんあるので、いろんなシチュエーションで試してみてください。

マルチバンドコンプの選び方としては、自分でマスタリングもしてみたいならいろんなマスタリング用プラグインがひと通り付いている「Ozone」、とにかく安く購入したいなら「Waves」、見やすく使いやすいマルチバンドコンプを探している人なら「Pro-Q」を選びましょう。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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