今回は、ミキシングやマスタリングに使える「API Vision Channel Strip」というチャンネルストリップについてご紹介します。
・API® Vision Channel Strip Collection – UAD
「API」というブランド名を聞いて、すぐに僕が思い浮かべるのは、Floating Pointsのこのインタビューです。
スタジオの心臓部となるのが、API 1608というミキシング・コンソールである。状態の良いものなら、4万ドル以上の値段がついてもおかしくない代物だ。Shepherdがこれを購入したとき、彼の部屋にはちゃんと置くスペースすらなかった。
(中略)
これは完全にプロ仕様の卓なんだ。卓を設置してくれた業者は“コントロール・ルームは?”ときいて来たから、“ベッドルームです”って答えたよ。部屋にそのミキサー丁度の大きさの四角いスペースを確保しておいたんだ」
これは常軌を逸していると感じるかもしれないが、Shepherdは長い目で未来を見据えていた。「多額のローンを組んだんだ」と彼は説明する。「“これは一生やりたいことだと解っているし、サウンドを完全に自分でコントロールしたいことも解ってる”って当時、自分に言い聞かせた。その頃すでに何作かリリースしていて、どういうサウンドを手に入れたいかはっきりと解っていたんだ。だから思い切ってクレイジーなことをした。
Floating Points: 労をいとわず、どこまでも – RA
APIは、SSLやNEVEと肩を並べるコンソールメーカーで、その出音の素晴らしさから、多くのプロアーティストに愛用されています。
僕は、友人宅やライブなどでその音を聞いたことがあるくらいですが、APIは特徴的な中域とソリッドでスピード感のある音を持っていて、APIプリアンプにシンセを通すと、音にコシが出てシンセ本来の持ち味が存分に発揮されるのを感じます。
プリアンプ、EQ、コンプのどれもが最高ですね。
今回取り上げるチャンネルストリップは、そんなAPIの真髄が詰まったプラグイン。
積極的な音作りから、API特有の音色を手に入れたい宅録ユーザー、マスタリングで味付けを行いたい人にもおすすめです。
それでは早速、詳しい内容を見ていきましょう。
API Vision Channel Stripは、APIの魅力が存分に詰まったミキシングツール
API Vision Channel Stripは、APIが誇る5つのモジュールが凝縮されたミキシングツールです。
- 212L – マイクプリ
- 215L – フィルター
- 235L – コンプレッサー
- 225L – ゲート
- 560L – イコライザー
これらのモジュールを駆使して「マイクプリで色付けを行い、フィルターで余分な成分をカット、API独自のコンプとEQで音のキャラクターを形作っていく」といった感じで、これ1つあれば様々な音作りのアプローチができるようになっています。
Plugin Allianceからも「Lindell Audio 50 Series」というプラグインが出ていますので、APIのチャンネルストリップが欲しいとなれば、選択肢としてはUADかPlugin Allianceの2つが挙がります。
LindellはBrainworxのトランスモデリング技術を使っており、UAD版とPlugin Alliance版でそれぞれ音に特徴がありますので、一度試してみて好みの方を使うのが良いかと思います。
UADには「API 500 EQ Collection」「API Preamp」という、API Vision Channel Stripから各セクションを取り出した製品としても販売されていますが、「とにかくAPIらしさを楽曲に取り入れてみたい!」ということなら、プリアンプやコンプまでセットになっているAPI Vision Channel Stripの方をおすすめします。
・API Vision Channel Strip Collection
特に使ってみて欲しいのはEQセクション
APIのEQといえば、「プロポーショナルEQ」と呼ばれる独自のEQカーブで有名です。
プロポーショナルEQとは、ブースト/カットするほど帯域幅(Q)が狭まっていくEQで、APIのEQが「音楽的」と言われる所以となっているのですが、僕が使ってみて欲しいのはこちらのEQではなく、
こちらの560 Graphic EQの方なんです。
プラグインが主流のこの時代、ほとんどの人がグラフィックEQなんて使わないと思いますが、このEQは、帯域がはじめから指定されているので、僕らがやることは「コントロールする帯域を選んで、ブースト/カットの量を調整する」だけ。
直感的に操作できるのはもちろん、APIが指定してくれた「音がいい感じに調整できる周波数」をうまく利用することで、簡単にサウンドを磨き上げることができます。
Pro-Qなどの最近のEQなら、いくつでもバンドを増やせて、好きなポイントにEQをかけられるので、とても便利に見えるのですが、選択肢が多すぎることは必ずしも良いことではありません。
もちろん3バンドEQの方もAPIらしさが出るので出るのでおすすめ。
迷わずサクサクと音作りをしていきたいなら、API 560は心強い味方になってくれるでしょう。
API Vision Channel Stripはどんな場面で使えるのか
API Vision Channel Stripは名前の通り、ミキシングコンソールからエフェクト類を抜き出した「チャンネルストリップ」なので、基本的にはキック、シンセ、ベース、キーボード、ドラムといった様々なトラックに使うことができます。
先ほどのグラフィックEQで目立たせたいシンセやギターを積極的にイコライジングしていくのもよし、パーカッションやアタックの強い楽器にコンプをかけて、APIらしいソリッドなサウンドにするのもよいでしょう。
使い方はいろんなサイトで紹介されているかと思いますが、最近、僕はマスターバスの中で使っています。
使い方はすごくシンプルで、
「EQをオンにしたAPI Vision Channel Stripを、マスターに通すだけ」というもの。
これは、こちらのYouTubeで紹介されていた方法です。
UAD版のAPI EQは、通すだけで音量が上がってしまうので、EQをオンにしたら必ずアウトプットのボリュームを調整し、プラグイン前後の音量を合わせます。
API Vision Channel StripのEQを指すことによって、ほんのわずかですがサウンドに変化が起こるのですが、これが吉と出るか凶と出るかはわかりません。通してみて、音がいい感じに変化してくれたらそのまま入れておく、といった感じで最近は使っています。
もちろんコンプも良いし、プリアンプも良いのですが、僕はもっぱらマスターバスに通すだけか、グラフィックEQでシンセを積極的にブラッシュアップするのに使っていますね。
Universal Audioの公式YouTubeにも、詳しい使い方が解説されているので、API Vision Channel Stripをどのように使いこなすのか、どのくらい音が変化するのかを知りたいという人はこちらの動画も参考にしてみてください。
まとめ
アナログモデリングのプラグインは、通すことでアナログの傾向を再現し、「それっぽい」音にしてくれるので、いくつかのアナログモデリングを重ねてみることでより効果がわかりやすく出ると思います。
API Vision Channel Stripには、いろんなモジュールがまとまっているので、組み合わせて使うことで、よりAPIらしさが出てくるでしょう。
最近、API Vision Channel Stripを含むいくつかの製品は、「UAD Spark」として特別なハードウェアなしで誰でも使えるようになったので、いい音を作るためのハードルがさらに下がったように感じます。
このプラグインを全トラックに挿せば、曲全体でより「APIらしさ」が出てくるので、これを自分の曲の「個性」や「スタイル」といて役立てるのも良いかと思います。
API Vision Channel Strip、おすすめです。
・API® Vision Channel Strip Collection