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Eventide「SplitEQ」| トランジェントをコントロールできる画期的なEQ

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Issey
作曲家、音響エンジニア
23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

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総合評価:

帯域をアタック成分とディケイ成分にわけてEQ処理ができる、新感覚のEQプラグイン。これまでにない方法で音のトランジェントをコントロールすることが可能。

リット

デメリット

  • まったく新しいトランジェント調整
  • 帯域ごとにステレオ感を調整できる
  • クリーンな EQレスポンスと音質
  • ダイナミックEQがない
  • バンド数は合計8バンドに限定

Eventideから新感覚のEQプラグインが登場しました。

最近ではSonnox「Claro」というEQを紹介しましたが、SplitEQは「EQ」という名前が付いているものの、どちらかというとトランジェントデザイナーに近いように感じます。

「マルチバンドトランジェントデザイナー」という言い方がしっくりくるかもしれませんね。

SplitEQを使えば帯域ごとのトランジェントを個別に調整することができるので、従来のプラグインではできないような複雑な処理が可能になります。

さっそく、詳しい内容について見ていきましょう。

Split EQがまったく新しいEQプラグインである理由

Split EQでは、合計8バンドのEQを「トランジェント成分」「トーナル成分」にわけてコントロールすることができます。

SplitEQ manual

この「トランジェント」と「トーナル」というのが、僕も初めはしっくりこなかったのですが、簡単に言うとトランジェントは「タンッ!」とか「カンッ!」というような音のアタック部分、トーナルは「ウーン」とか「ボーン」というようなアタック成分以外の音のなまった部分を指します。

文章ではわかりにくいかもしれませんが、これは一度デモってみて「トランジェント」と「トーナル」をそれぞれソロで聴いてみれば一発で理解できるでしょう。

さて、こうやって音を2つの成分にわけて処理することの何が良いのかと言うと、例えば、

  • キックの胴鳴りに影響を与えず、アタック感を出す
  • ボーカルの歯擦音はそのままに、倍音成分だけを持ち上げる
  • サウンドのパンチに影響を与えることなく、楽器の共鳴をカットする

といった複雑な処理をこなすことができます。

こういった特殊な処理は、今までいくつかのプラグインを使って行うようなものでしたが、これがSplit EQひとつでできるというのはかなり画期的ですね。

SplitEQにできること

SplitEQ パラメーター
SplitEQ manual

SplitEQを使うと、具体的にどのようなことができるのでしょうか?

例えば、部屋鳴りによって低域が膨らんでしまったバスドラムは、低域のトーナル成分のみをカットすることで腰にグッとくるようなパンチを損なうことなくスッキリさせることができます。

また「ボーカルの抜けをよくしたいけど、『チッ』とか『スッ』という歯擦音がちょっと気になる」という場合は、高域のトランジェント成分をカットして歯擦音を和らげつつ、同じく高域のトーナル成分をブーストして持ち上げることで伸びのあるクリーンなハイエンドが実現できるでしょう。

Eventideの公式ページには、SplitEQの具体的な使い方を紹介したYouTube動画がいくつか上がっているので、こういったものを観ればSplitEQの便利さがよくわかるかと思います。

Fabfilter「Pro-Q」との比較 – メインEQとして使えるか?

SplitEQは画期的なEQですが、よく高性能なEQとして名前があがるFabfilter「Pro-Q」を打ち負かすような存在ではないと思っています。

参考: Fabfilter「Pro-Q3」が最強のEQプラグインである5つの理由 – スタジオ翁

SplitEQは周波数のレスポンスも自然でクリーンな効きをするので、8バンドの優れたEQとして普通に使うことはできますが、どちらかといえば「サージカル」的な、他のプラグインではどうしても出来ないことがある時に使う特殊なツールだと感じました。

バンド数が限られていたりダイナミックEQが使えなかったりするので、便利さや手軽さで言えばPro-Qの方が圧倒的に有利でしょう。

あとSplitEQはどちらかというと、アタック成分の強い生楽器やボーカルなどの処理で力を発揮するEQだと思います。

なので、電子楽器やドラムマシンなどを中心に作曲するエレクトロニックミュージックのクリエイターは、トランジェントのコントロールもそこまでシビアではないので、こういった人はメインEQとしてSplitEQを購入するより、Pro-Qなどの多機能EQの方が合っているんじゃないかと感じました。

まとめ

最近けっこう話題になっているSplitEQですが、個人的にはあまり必要ないかな思いました。

というのも僕は普段の制作で生楽器の音や録音物を使うことがあまりないので、トランジェントの処理にそこまで苦労しないんですよね。

普段からバンドのミキシングやボーカルの処理をよくする人だったら、SplitEQはかなり役に立つのではないでしょうか。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?