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Universal Audio「Minimoog」を手に入れて、アナログシンセを手放した話

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Issey
作曲家、音響エンジニア
23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

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AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?
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Moogといえば、音楽を作っている人なら誰もが知る有名ブランドであり、いつか手に入れたいアナログシンセとして憧れられている存在だと思います。

僕も、音楽を作り始めた頃からずっとMoogは気になっていて、音楽制作を始めて何年か経った頃、Moogの中でも手が届きやすいベース専用のアナログシンセ「Minitaur」を手に入れました。

それまでは、Arturia「Mini V」やNative Instruments「Monark」といった、Moogプラグインを使っていましたが、「アナログは全然音が違う!最高!」とベースには必ずMinitarを使っていました。

ところがその数年後、Universal Audioが「Minimoog」のプラグインを発表します。

Moog Minimoog – Universal Audio

Universal Audioといえば、アナログ機材の名機をプラグインとして現代に復活させているメーカーで、今でこそ様々なメーカーがクオリティの高いプラグインをリリースしていますが、Universal Audioはアナログエミュレーションの走りとして先端を行くメーカーです。

参考: UADって何? – 5年以上UADを愛用する僕がおすすめプラグインと共に解説していく – スタジオ翁

そのUniversal Audioが初めてシンセサイザーのプラグインを出したということで、発売当初すぐに使ってみたのですが、そのクオリティの高さに衝撃を受けたのを覚えています。

Minimoogと同時期に発売された、PolyMAX SynthOpal Morphing Synthといったシンセも素晴らしく、今でもメインで使っています。

曲のベースには必ずMinitarを使っていたのですが、UA版Minimoogを使い出してから、Minitarの使用頻度が徐々に減っていきました。

そして、ついには「毎回電源を入れて、USBを繋ぐ、ケーブルを繋ぐ」というのが面倒になり、手放してしまいました。

こんな経緯があってMinitaurを手放したのですが、最近見つけた記事で、著名アーティストのTychoが同じようなことを言っていたので「やっぱりそうだよな」と納得してしまいました。

Tycho:”道具や楽器に相当するソフトウェアがあれば、何があってもハードウェアの代わりにそれを使う”

Tychoは生粋のアナログシンセマニアで、いくつものビンテージシンセを所有しており、もちろんMoogのシンセサイザーも所有しています。

その彼が、前作のアルバムで、アナログのMinimoogではなく、Universal AudioのMinimoogを使っていたというのですから、いかに最近のプラグインの音が良いのかがわかります。

そして話題はハンセンのお気に入りの楽器、Minimoogに移る。しかし、Universal Audioが独自のソフトウェア・バージョンをリリースしたとき、ハンセンは本物よりもMinimoogの方が好きかもしれないと気づいたという。

それが悲しいことなんだ。Universal AudioがMinimoogのエミュレーションを発表したんだ。結果的に、このアルバムで役に立ったよ。

https://musictech.com/news/tycho-software-vs-hardware/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=tycho-software-vs-hardware

Tychoは最近、100以上ものアナログシンセやエフェクターを売り払ったことも話題になりましたね。

このように第一線で活躍するアーティストですら、最近のプラグインシンセの進化を認めざるを得ない状況ということで、アナログギアは一部のマニアや、アナログの音にとことんこだわるアーティストのみが使用しているというのが現代の状況だと思います。

そして最近は、アナログシンセサイザー離れを加速させるような、こんなニュースもありました。

inMusicがMoogスタッフの大部分を解雇、シンセ業界にとって悲しい日 – SYNTH ANATOMY

これまでMoogはアッシュビルという場所で、ハンドメイドで作られていましたが、親会社であるinMusicが製造スタッフの大部分を解雇したというニュースです。

公式には発表されていませんが、Facebookに投稿されているスタッフの言葉が、事態の深刻さを物語っています。

Moogは永遠に変わろうとしており、彼らのチームと我々全員にとって悲しい日だ!
今日、inMusicへの売却について話をしにムーグの工場に行ったんだ、
そして、彼らのチームのほとんどが駐車場で動揺していた。彼らは解雇されたばかりだったのだ。
しかし、彼らは何かが起こることを知っていた。Moogの
Moogのストアは開いていて、来週までかもしれないと言っていた。
写真を撮ってもいいって。Moogは閉鎖されそうだったから、売るしかなかったんだ。
と言っていました。アッシュビルの店舗は、今のところ限定された高級品だけを作って営業しています。
アッシュビルの店舗は今のところ営業を続け、限られた数の高級品だけを製造する。
そして品質も低くなる。いずれにせよ、彼らはそう考えている。とても悲しい日だ。
とても悲しい日だ。
これまでMoogはすべてノースカロライナ州アッシュビルで手作りされており、最高品質だった。
Moogのことを知らない人は、彼らの歴史を読んでみてほしい。
最高だよ。moog @madeinasheville
(投稿者: Forrest)

関税の問題や半導体の供給不足などから、メーカーが安定して高品質な機材を作れなくなっている現状があったり、さらには最近だと、Pro Toolsの大元であるAvidが買収されたニュースを見てもわかる通り、プロユースの高価な機材がどんどん売れなくなってきています。

Moogがアジアに拠点を移せば、今後は高品質で音にこだわったシンセサイザーが出にくくなることが予想されるので、そうなるとわざわざケーブルを接続したり場所を取ったりと、何かと面倒なアナログシンセサイザーを購入するよりも、高品質なソフトシンセサイザーを購入する人が増えていくのは目に見えています。

あと、先ほども書きましたが、Universal Audioといった老舗メーカーだけでなく、他のメーカーもかなりクオリティの高いソフトシンセをリリースするようになってきています。

僕が、Minimoogの後に衝撃を受けたのは、皮肉にもinMusicが親会社である「AIR Music Technology」というメーカーの「Jura」というソフトシンセで、これは今まで使ってきた、どのRoland Junoエミュレーションよりも完成度の高いプラグインだと思います。

Jura – AIR Music Technology

Arturia「Jun-6」、u-he「Diva」、TAL「TAL-U-No-LX」などの定番Junoプラグインと聴き比べると、すぐに違いがわかるくらい存在感のある煌びやかな音がします。

付属のエフェクターもかなり優秀で、プリセットをそのまま制作にも使えるレベルです。

Junoサウンドが欲しい時は、TAL「TAL-U-No-LX」を頻繁に使っていたのですが、JuraがあればもうTAL-U-No-LXを使うことはなくなるでしょう。

そんなわけで、時代はどんどんアナログからプラグインに向かっています。

ミキシングやマスタリングに関しても、プラグインだけで処理してグラミー賞を獲ってしまうようなエンジニアも登場してきているので、僕もこちらの方向をどんどん突き詰めていこうと思います。

アナログシンセにはたくさんの魅力があり、まだまだ「生々しい有機的なサウンド」や「ソフトウェアにはできない操作性」という意味では、ソフトシンセが敵わない部分があるのも事実です。

今後、ますますプラグインへの移行の流れは加速すると思いますが、こういった事実をふまえた上で、今後アナログシンセを買おうとしている人には、「そのアナログシンセは本当に必要なのか?」「本当はプラグインシンセで代用できるのではないか?」といったことを考えてみていただければと思います。

Moog Minimoog – Universal Audio

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アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。

この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?