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海外のDJはオートシンク(SYNCボタン)を使っているのか?

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Issey
作曲家、音響エンジニア
23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

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CDJには「オートシンク」という便利な機能がついていますが、どのくらいのDJがこの便利な機能を使っているのでしょうか?

東京のクラブで音響として働き、毎週末にアメリカやヨーロッパのDJを迎えていた経験をもとに、海外DJがどのくらいオートシンク機能を使っているのかをお伝えしていきます。

オートシンク(SYNCボタン)とは?

オートシンクとは、Rekordboxと呼ばれるPioneerDJのソフトウェアを使って事前に曲情報を解析することで、各トラックのBPMが解析され、DJは曲同士のテンポを合わせる必要がなくなるという便利な機能です。

意外とこの機能を知らない人も多いですが、これは機材や技術に詳しくないというより、昔からレコードなどでミックスしていたので「オートシンクを使う必要がない」という人に多いですね。

曲同士のテンポを合わせるというのは慣れないと難しい作業ですが、この機能があれば初心者でも簡単にDJを行うことができるようになります。

どのくらいのDJがオートシンクを使っているのか?

現場でいろんなDJをみていると、オートシンクを使っているDJは全体の約1割にも満たない印象です。

ほとんどの人がオートシンク機能を使っていませんね。

ただこれはハウスやテクノに限定した話なので、EDMのDJなんかだと全く違う結果になるかもしれません。

ではなぜ多くのDJがこんなに便利な機能を使っていないのか、

その理由に迫っていきましょう。

DJがオートシンクを使わない理由

クラブで働き始めた当初、多くのDJがオートシンク機能を使わず自分でテンポを合わせているのを見て不思議に思っていました。

「なぜ機械が自動でやってくれるのにわざわざ時間をかけて、時には失敗してまで自分の耳でテンポを合わせているんだ」と。

しかしいろんなDJを見ているうちに、オートシンク(SYNCボタン)を使わない理由は主に5つあるという事がわかりました

1. 昔から自分でテンポを合わせてDJすることに慣れているから

2. 機械の解析は正確でないから

3. レコードから取り込んだデータを使用しているから

4. テンポが一定でない、特殊な曲を多用するから

5. 人間の手で合わせることによるBPMの微妙なズレが心地よいから

順に紹介していきましょう。

1 .昔から自分でテンポを合わせてDJすることに慣れているから

CDJなんて便利なものがなかった時代からDJをしている方は、当然レコードのミックスに慣れています。

だからCDやUSBを使ってDJする時も、今まで通りのやりやすい方法でDJしているだけです。

2. 機械の解析は正確でないから

Rekordboxは、正確にテンポや拍を読み取ってくれないことがあります。

オートシンクを使うことで逆にテンポが合わないまま同期されているということが稀にあるので、そんな時に自分でテンポを合わせる技術がなければミックスすることができません。

そういった技術的なトラブルが起こる可能性があるのなら、自分でテンポを合わせてミックスできる技術を身につける方がそういった事態にも対応しやすくなります

ただ、Rekordboxがちゃんとデータを読み取ってくれていないと事前に分かっていれば、ソフトウェア上で解析し直したり手動で拍の位置などを設定することもできます。

ところが専業DJだと、月に数百曲ダウンロードする人もいるでしょう。

わざわざ事前にその全ての曲がちゃんと解析できているかどうか確認するというのは大変な作業なので、それなら現場で聴いて自分の耳でテンポを合わせてしまおうという考え方もあります。

また生演奏が多い曲は人間の手で演奏していることによるグルーブが発生しているので、ある楽器が微妙に拍からズレているということがあります。

グルーブによるズレは機械による解析では対応できないので、その場合も自分の耳を頼りにミックスする方が良い結果になることが多そうですね。

3. レコードから取り込んだデータを使用しているから

レコードプレイヤーというのは、必ずしもテンポが一定ではありません

なのでレコードから取り込んだ音源はソフトウェアでは正確なBPMが読み取れず、オートシンクを使ったところでテンポが合わないのです

レコードから取り込んだ音源を使用するならオートシンクは使わない方がよいでしょう。

https://studio-okina.com/why-dj-play-vinyl/

4. テンポが一定ではない、特殊な曲を多用するから

まれに曲の途中でテンポが変わる曲があります。

ビートが少ない、または変則的な曲もあります。

こういったトリッキーな曲には、オートシンクは対応できないことがあります

なのでそういった曲を多用するDJなら、自分でテンポを合わせてミックスする技術を身につける方がよいでしょう。

5. 人間の手で合わせることによるBPMの微妙なズレが心地よいから

これはレコードにおける、BPMのゆらぎのようなものでしょうか。

微妙にズレていることが、人間らしさを表現しているという考えのDJの方もいます。

完璧にふたつの曲が同期したミックスは、機械的でつまらないという意見です。

確かにDJの緊張感がミックスのズレに現れてしまうことはあります

その緊張感がリアルに伝わるのが、人間の手によるミックスの魅力の一部でもあるという考えは分からなくもありませんね。

オートシンクを使う理由は単にDJが下手だからではない!

「オートシンクを使うなんてDJじゃない」みたいな、オートシンクを使うDJをバカにする風潮はよくあります。

確かにオートシンク機能を使う人は初心者に多いですが、世界を股に掛けるトップDJでもオートシンクを使っていることがあります。

それは単にミックスが出来ないということではなく、別の理由があるのですが・・・

オートシンク使えば、よりクリエイティブなプレイができる

こちらは著名DJの「Richie Hawtin」です。

大の日本酒好きであることも知られており、イビサでは「ENTER.SAKE」というパーティーを開催したり、日本の酒蔵を巡ってオリジナルの日本酒を作ったりと日本酒への愛が感じられます。

たまに来日しては、プレイしていますね。

彼はPCを使っていて、PC上でオートシンクを使用しています

PCで最大4曲ものトラックを同時再生し、別の機材でリアルタイムに音を重ねていくというライブ形式のDJをしています。

彼はAllen&Heathというメーカーと共同で「Model 1」というミキサーまで作ってしまうほどの機材オタクでもありますが、彼ほど多種多様のソフトや機材を使わないまでも、CDJのオートシンク機能を使って2曲以上を同時に再生しながら他の機材を操るというDJはたくさんいます。

オートシンクによってテンポを合わせる時間が省かれた分、他のクリエイティブな作業に時間をかけることができるというわけですね。

DJはオートシンクを使うべきか?

そもそもオートシンクが使えるようになったのはCDJ-900nxsという2013年に発売されたモデルからですが、それから5年以上たった2020年現在でもCDJ-900nxs以前のモデルを導入しているクラブやバーは数多くあります

小さなDJバーなどはオートシンクどころが、2機のCDJをリンクさせることすら出来ないモデルが入っている場合もあります。

DJ初心者が、最新機器が導入されたクラブでいきなりガンガンDJできるというのは考えにくいので、どんな機器にも対応できるよう自分の耳でテンポを合わせられるようにしておくのが良いでしょう。

もしDJ歴もそこそこあって、現場には必ず最新機器が導入されているという方ならオートシンクを使ってクリエイティブなDJプレイをすることを考えてみても良いですね。

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アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。

この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?