MENU
「週刊 スタジオ翁」ニュースレターの登録はこちら

DJはWAVかMP3どちらの音源を使うべきか?

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

MP3とWAVってどう違うんだろう。DJするならWAVが良いって言うけどほんとなのかなぁ…

こんな疑問にお答えします。

DJするならWAVにするべき!いやMP3で問題なし!とクラブ業界では数々の論争が繰り広げられています。

実際にクラブで音響として働く僕ならではの視点で、結論に迫っていきたいと思います。

DJはWAVかMP3どちらの音源を使うべきか?

結論から書きます。

お客さんがMP3とWAVの違いをクラブ現場で聴き分けるのはほぼ不可能なので、WAVでプレイする必要はありません。

これを言うと「そんなことはない!MP3を使っているDJはとてもひどい音を出してるぞ!」と思う人もいるでしょう。

それは錯覚でもなんでもなく、そのDJは実際にひどい音を出しているのだと思います。

では、MP3は音質が悪くWAVは音質が良いかというと必ずしもそうではなく、「どのような種類のMP3を使っているのかどこでダウンロードしたWAVなのか」などによって音質はまったく違ったものになります。

では、そもそもWAVとMP3にはどのような違いがあるのでしょう?

この2つの違いについて、詳しくみていきます。

WAVとMP3の違いについて

WAVとMP3の違いは、「非圧縮のロスレス音源か、圧縮されている音源か」という部分にあります。

MP3は圧縮されているのでファイル容量は節約できますが、音質はWAVに比べて劣ります。

一方のWAVは圧縮されていないので、原音の細かなニュアンスを残しつつ細部まで正確に表現することができます。

WAV(AIFF): 非圧縮音源

音声信号を圧縮させず、そのまま書き出したもの。

音の情報量はMP3を上回りますが、データ量はMP3の約10倍です。

ちなみに「AIFF」とは、Apple専用の非圧縮音源のこと。

Windowsユーザーなら「WAV」、Macユーザーならアートワークやアルバム情報を書き込むことができる「AIFF」を使いましょう。

MP3: 圧縮音源

MP3の圧縮技術は、人間の耳の特性を利用してデータ量を節約します。

データ量はかなり節約できますが、人間の耳で聴いたときに圧縮音源と遜色ないような音になるよう工夫がなされていますので、大きく音質を損なうことはありません。

ただ、解像度の高いスピーカーやスタジオレベルのモニターで聴くと、やはり物足りなく感じてしまいます。

【実験】WAVとMP3の違いはクラブで聴き分けられるのか?

実際に、クラブの爆音環境で実験をしてみました。

Beatportで同じ曲の「MP3版」と「WAV版」を購入し、交互に流してみて、どれほどクラブでの鳴りが違うのかチェックするという実験です。

結果はどうだったかというと…

大きな音質の差を期待していましたが、その違いは本当に微々たるものでした。

  • WAVの方が低音が増した気がする…
  • WAVの方が高音がよく鳴っている気がする…
  • 何も違いがわからない…

いろんな曲で試してみましたが、いろんな曲で試してみましたが、これはWAVだと確信できる曲はほとんどありませんでした。

この程度の差なら、ミキサーを変えたりケーブルを変えたりする方が遥かに音質の変化が見込めます。

さらには、その曲のミキシングやマスタリングの方が確実に現場での鳴りに影響してくるので、楽曲を購入する段階からクラブでの鳴りを意識して選曲するべきでしょう。

ただし使っても良いのは、最高音質320kbpsのMP3のみです。

冒頭でどのような種類のMP3音源を使うかで音質がまったく異なると書きましたが、128kbpsのような低ビットレートのMP3音源は音質の劣化が顕著に表れます。

必ず「信頼できるサイトからダウンロードした320kbpsの音源」もしくは「自分でWAVからMP3に圧縮処理したもの」を使用してください。

WAVのメリットとデメリット

WAVのメリット

音質が良い

WAVとMP3はクラブでほぼ聴き分けられないと言いましたが、スタジオレベルのスピーカーとなると話は変わってきます。

良い環境で良いモニターを使用すれば、音質の違いは簡単に聴き分けることができます。

例えば普段はDJをするけど自分で作曲もしていて、音の細かい部分まで聴きとってミキシングやマスタリングに役立てたいという人なら、WAVを選んだ方が良いでしょう。

WAVのデメリット

データ量が膨大

DJとなると日頃から大量の曲を購入しますよね。

年月が経つほどHDDは楽曲のデータだけで埋め尽くされ、USBも大容量のものを購入しないといけません。

大容量のUSBというのはCDJで読み込む時に、ロードタイムが長くなることがあります。

些細な差ですが、現場でのちょっとしたストレスになることもあります。

MP3のメリットとデメリット

MP3のメリット

データ量が少ない

USBにたくさんのデータを入れることができます。

安い

WAVは基本的にMP3より値段が上がります。

値段とデータ量はお得なのに、音質はWAVと遜色なく使える

値段は安く、データはWAVの約1/10です。

MP3のデメリット

音質はWAVに劣る

人間の耳でその違いが分かりにくいとは言っても、音質はやはりWAVに劣ります。

クラブでの使用なら問題なしです。

DJがネットの無料ダウンロードサイトを使ってはいけない理由

DJが使う音源はMP3で大丈夫だと言いましたが、「それならネットの無料サイトでダウンロードすればいいや」という方がいたら、それは絶対にやめた方が良いです。

誰がアップロードしたかわからない無料の音源というのはビットレートの低い曲もありますし、WAVであったとしても本来のWAVデータなのかMP3をWAVで書き出したものなのかはアップロードした本人にしか分からないわけです。

WAVは音質がよいと言っても、圧縮したものを再度WAVにしたところで音質が戻るわけではないですからね。

必ずしもWAVだから音がいい訳ではないので、MP3の楽曲をダウンロードする際は、信頼できるストアで購入した320kbpsの曲のみを使うようにしましょう。

結論は著名DJによって、とっくに出ていた!

実は昔から第一線で活躍されているDJのQ’heyさんによって、もう答えは出ているんです。

こちらの記事では、実際に聴き比べて検証されている様子が書かれていますが、僕も完全に同じ意見です。

https://www.mixmag.jp/blog/171027_qhey.html

とても参考になる記事なので、ぜひ読んでみてください。

また、世界的なDJのSashaもWAVとMP3の違いについて同じような意見を述べています。

8:20あたりからMP3の音質について語っているのですが、ざっくり要約すると以下の通りです。

  • Sashaは、ネット環境やファイル容量などの理由からMP3を使っている
  • サウンドシステムがしっかりしていれば、MP3を使っても問題ない
  • WAVとMP3を交互にかけるようなことをしない限り、WAVかMP3かは分からない

まったくその通りだと思います。

おそらくサウンドクオリティの高いクラブだと、MP3とWAVの違いは結構わかるはず。

ただ、セットの最初から最後までMP3を使い続ければ、音質の良し悪しはあまり気にならないでしょうね。

DJはWAVかMP3どちらの音源を使うべきか? | まとめ

クラブの音の良さというのは、本当にいろんな要素に左右されます。

楽曲のミキシングやマスタリングはもちろん、その日のPAのセッティングやミキサーの種類、またPAの音の調整にしてもレコードの音に合わせたものなのか、データでの鳴りを意識して作り込まれた音なのかなど、いろんな要素で音の良し悪しは変わります。

「このDJ音が良くないぞ、MP3を使ってるな。」

こんな簡単に答えが出せるほど単純ではありません。

僕は実際にいろんな音源をクラブで聴き比べて、最高音質320kbpsのMP3ならWAVと遜色なく使用できると判断しました。

音質にこだわる方はWAVを使用していますが、特に初心者のうちはなかなかそこにお金をかけれないだろうし、システムやミキサーといったDJ自身では変えることのできない要素に大きく音質を左右されるクラブという環境において、微々たる音質の向上を求めるのはあまり意味がないと感じます。

結局どこまでこだわるのかという話になってきますが、MP3とWAVの違いをよく理解した上で、自分のスタイルやこだわりに合わせてフォーマットを選ぶようにしましょう。

  • MP3かWAVかにこだわる前に、クラブでの鳴りを意識した選曲をしましょう。
  • クラブにおけるMP3とWAVの音質の差は、DJやエンジニアですら違いがわからないほど微々たるものであることを理解しましょう。
  • ミキシングやマスタリングの参考として購入するならWAVを選びましょう。
  • 音質にとことんこだわり、わずかな音質の向上にでもお金をかけられるならWAVを選びましょう。

サービス・書籍について

<ニュースレター>

週刊「スタジオ翁」beehiiv版

毎週、音楽制作やAIに関する話題、世界の音楽ニュースなどを紹介しています。

<著書>

AI時代の作曲術 – AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

作曲AIに関する書籍を出版しました。

アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。Kindle Unlimitedで読めるので、気になった方はぜひチェックしてみてください。

 

この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?