YMOは1974年、坂本龍一, 細野晴臣, 高橋幸宏らによって結成された日本の音楽グループです。
まだシンセサイザーが今ほど一般に広まっていなかった時代に最先端のサウンドをいち早く取り入れていたYMOは、ファーストアルバムをリリースしたあと海外ツアーを成功させ、日本に逆輸入される形で一躍人気となりました。
そんなYMOは、当時としてはとてつもない値段のシンセサイザー(今でも数百万円するような機材)を数多くライブに持ち込んでパフォーマンスしていました。
当時は、初任給が5〜8万円ほどの時代だったらしいわよ。
1970年代の初任給が今の1/4程度だということを考えれば、数百万円の楽器がどのくらい高価なものなのか理解できるでしょう。
「タンス」と呼ばれていた、壁一面を覆うような巨大なMoogシンセは有名なので知っている人も多いかと思います。
「Moog 3C」というシンセサイザーじゃな。
彼らが使っていたシンセは名機揃いなので、今でも新しいモデルとなって販売されているか、ビンテージものは「ソフトシンセ」として再現されていたりしますね。
そんなYMOが使用していた名シンセを紹介し、新しいモデルとして購入できるものやソフトシンセとして使えるものがあれば一緒に紹介していこうと思います。
YMOの大ファンの人も最近DTMを始めてYMOのことを知らないという人も、シンセの名機というのは世代を超えても共通なので、どちらの人も楽しんで見ていってくれると嬉しいです。
YMOが使用していたシンセサイザーの名機10選
YMOは本当にたくさんのシンセサイザーを使っていたので、ここで全てを紹介することはできないのですが、「これは!」といった時代を映し出すシンセや、現代も改良を重ねて定番となっているシンセなどを紹介していきます。
それでは早速みていきましょう。
1. Prophet-5
こちらの動画では、坂本龍一の手元に「Prophet-5」が映っていますね。
ライブ時のステージプロットがたまにネットに落ちてたりしますが、それを見るとProphet-5が何台もステージ上に並んでいることもあり、このシンセはYMOのライブの中でもかなり重要な役割を果たしていたことが分かります。
次の動画では、坂本龍一が「Prophet-6」というProphet-5の後継機を演奏しています。
「Prophet-5」は現在では中古しか手に入らない上、値段は100万円近くします。(古いと状態が悪いものもあってメンテナンスが大変だったりしますが…)
「Prophet-6」は純粋なアナログシンセとしての後継機なので、あの懐かしい音色を最も状態の良いシンセで再現したいということなら「Prophet-6」を購入するのが良いでしょう。
・Prophet 6 / Sequential(Dave Smith Instruments) – サウンドハウス
Prophetシリーズは有名なので、いくつかのメーカーがソフトシンセでも再現しています。
Arturiaはビンテージ機材のモデリングを数多く行っていることで知られていて、Prophet-5もバッチリ再現されていますよ。u-heの「Repro-5」も、同じくProphet-5を再現していて音質も抜群に良いソフトシンセです。
気になる人は、こちらのページでチェックしてみて下さい。
・Prophet V / Arturia – Plugin Boutique
・Repro-1 / u-he – Plugin Boutique
2. Moog 3C
こちらの「SleepFreaks」さんの動画で、あの有名なタンスシンセ「Moog 3C」が紹介&演奏されています!
演奏しているのは、4人目のYMOメンバーと言われていた「松武秀樹」さん。
YMOのライブで使われていたものMoog 3Cは、なんと松武さん個人の所有物だったといいます。
Moog 3Cの実機をわざわざ会場に持ってきて、丁寧に解説しながら実演されていますね。さらに動画内では、このタンスシンセをソフト上で再現したArturiaの「Modular V」でも音作りをしている様子を見ることができます。
松武さんも藤井さんも「モジュラーシンセがソフトとして登場したときはビックリした」「最近のソフトシンセは完成度が高い」ということを話されていますね。ソフトシンセはアナログの質感を完全に再現できるわけではありませんが、日本の音楽シーンを築いてきた二人の発言はとても参考になりますね。
・Modular V / Arturia – Plugin Boutique
3. YAMAHA DX-7
「Yamaha DX7」は当時としては画期的なFM方式のデジタルシンセで、1980年代の音楽業界を席巻したシンセサイザーです。
Moogのような野太いシンセサウンドを出すことは苦手ですが、切れのあるシャープなサウンドや金属音っぽいきらびやかなサウンドで人気を博しました。
DX7は現代ではわりと安く購入できるので僕も持っていたのですが、音源ROMを別で購入しなければいけないので正直面倒なんですよね。
実機は処分しましたが、DX7の音は大好きなのでソフトシンセ版を今も愛用しています。
・DX7 V / Arturia – Plugin Boutique
4. Fairlight Series III
本物の楽器をソフト上で再現するために作られたサンプラーの走りで、当時は1,000万円以上したそうです。
楽器の「リアルさ」でいえば現代のサンプラーには敵わないでしょうが、「タッチペン」を使った操作もできたということで、当時としてはかなり画期的な機材だったことでしょう。
Arturiaからモデリング音源が販売されていますが、リアルさを追求した「楽器のサンプラー」として使うのではなく、80年代っぽいサウンドが欲しい時にポイントで使うのがいいかと思います。
・CMI V / Arturia – Plugin Boutique
5. Roland Jupiter-4
「Jupiter-4」は柔らかい音から野太い音, サイケデリックな音まで「幅広いサウンドが出せるシンセ」といったイメージで、YMOはワールドツアーにもこのシンセを持ち運んでいたようです。
テクノまわりでもたまに使っているアーティストがいますね。
参考: 【GEAR SUNDAY】Petar Dundovのスタジオ機材にせまる – スタジオ翁
Jupiterシリーズは今もいろんな後継機がリリースされ続けている人気のシンセサイザーで、最近ではローランドがBoutiqueシリーズとして「JP-08」という格安のアナログモデリングシンセをリリースしています。
ソフトシンセならArturiaの「Jup-8 V」または、u-heの「Diva」が定番どころです。
・Jup-8 V / Arturia – Plugin Boutique
・Diva / u-he – Plugin Boutique
6. Oberheim 8 Voice
YMOのツアーには「矢野顕子」さんがサポートメンバーとして参加されていたそうですが、上の動画では彼女が「Oberheim 8 Voice」を演奏している様子を観ることができます。 こちら、著作権の関係で削除されています。
8 Voiceと言っていますが、同じモジュールを8個搭載しているだけなのでかなりの大きさになっていますね。8個並んでいるのは「SEM」というモジュールなのですが、これについてRockoN Companyさんのブログに詳しい説明があったので引用します。
SEMというのは「Synthsizer Expander Module」の略です。つまり拡張音源という事ですね。では何の拡張音源かというとMoog minimoogやARPのシンセサイザーの拡張音源です。
Oberheimの第一号製品はDS-2というデジタルシーケンサーでしたが、DS-2でminimoogなどをコントロールする際に、拡張用の音源として用意されたのがSEMなのです。そのため、SEMには鍵盤がありませんでした。
もともとMoogやARPのシンセと併用で使う事が想定されていたため、それらのシンセとは違う個性を持たせる必要がありました。そこで採用されたのが、-12dB/Octのマルチモードフィルターだったのです。
当時MOOGやARPなど有名アナログシンセのフィルターは-24dB/Octが主流だったため、SEMの-12dB/Octのフィルターが生み出すサウンドは重宝されました。加えてマルチモード(LP/HP/BP/Notch)だった為、LPF一本のminimoogよりも幅の広いサウンドが創り出せたとも言えます。
Rock oN Staff Blog!Synthsizerの深層世界! : Part.3 Tom Oberheim編
Oberheimの創設者であるトム・オーバーハイムはもともとMoogのリペアなどを行っていた楽器ディーラーだったようですが、そんな彼だからこそMoogとは違った個性を自分のシンセサイザーに盛り込むことができたんですね。
このモジュールはトム・オーバーハイムによってリメイクされたものが再販されていたようですが、今では生産完了となっていて中古しか手に入りません。
ソフトシンセだとこちらが定番ですね。もちろん8Voiceにも対応しています。
・SEM V / Arturia – Plugin Boutique
7. Roland VP-330 Vocoder Plus
これは主に、ロボットボイスを出すために使用されていた楽器です。
YMOの曲だと「テクノポリス」や「Behind The Mask」で、このボコーダーを使用していますね。
数年前にROLAND Boutiqueシリーズで、このVP-330を再現した「VP-03」というシンセが販売されていましたが、現在はどこも売り切れています。
あまり売れなかったのでしょうか…
8. KORG PS-3100
このシンセは、最近KorgやBehringerなどいろんなメーカーが復刻版アナログシンセをリリースしている「MS-20」のもとになっているポリフォニックシンセサイザーで、「ライディーン」の曲中でも使用されていたようです。
鍵盤一つ一つにオシレーターが内蔵されているという特殊な作りになっていて鍵盤も重く、総重量はなんと50kgもあるのだとか!(その複雑な構造ゆえ故障も多いそうな…)
ちなみに、この動画でビブラートなどのエフェクトをかけるために使われているのは、こちらのTuche Expressive Eというタッチコントローラーですね。
僕も気になっている機材の一つで、アナログシンセの音色をさらに豊かに表現するのにもってこいのMIDIタッチコントローラーです。古いアナログシンセはベロシティやピッチホイールなどが付いていないので、こういったコントローラーはかなり重宝するんですよね。
9. Moog Polymoog
このシンセは「PS-3100」と同じく、YMOの使用機材の中では数少ないポリフォニックシンセサイザーです。
「Polymoog」は、YMO時代にはかなり使用頻度が高かったそうですが、坂本龍一いわく現在はもうポリムーグを所持していないそう。
いちばん気に入っているか……。いまだに「プロフェット5」かな。
いまは最近のキーボードを使ってますけど、あれはいわゆるシンセサイザーとはちがっている気がして、最近のはプリセットでたくさんの音が入っていて、一から音をつくっていくもんじゃないんです。シンセサイザーは音をつくっていくものなので、そのなかではプロフェット5がいちばん使いやすい。
ポリムーグはYMOのころによく使っていました。とてもいい楽器だった記憶があって、去年の夏のワールドハピネスのリハーサルで使ってみたんだけど、弾いてみたらよくなかった(笑)。ちょっと使えない音だった。いい記憶のまましまっておけばよかった(笑)。
第19回 「テクノ」について言いきる – OPENERS
なんと最近になって弾いてみたら微妙だったと…笑
歳とともに好きな音も変化していくだろうし、音楽によって合う合わないもあるのでしょう。
Polymoogをエミュレートしているソフトシンセなら、XILS LABから「PolyM」という名前でリリースされているものがありますね。
10. ARP Odyssey
「ARP Odyssey」は数年前にKorgが復刻版のアナログシンセを販売し、最近ではBehringerも復刻版を作っています。
ARPのホームページにもあるように「千のナイフ」のライブで、ARP OdysseyのRev2とRev3が使用されていたようです。
僕は、数年前にKorgが復刻した「ARP ODYSSEY Rev3 復刻版
やっぱり買うならオリジナルモデルのARP Odysseyだなと感じました。
YMO愛用のシンセサイザーを格安で手に入れる方法【ソフトシンセで再現】
ここまでYMOが使用しているいろんなシンセサイザーを紹介してきましたが、使われているのはわりと今も「名機」と呼ばれ続けている機材が多いんですね。
YMOが使っていたビンテージ機材を中古で購入しようとするとかなりの金額になってしまいますが、上記でもいくつか紹介している「ソフトシンセ版」なら実機よりも格安でYMOの使用していた機材を手に入れることができます。
中でも「Arturia」は名機と呼ばれるシンセサイザーを幅広く再現していて、上記でも紹介している通りかなりおすすめです。
個別で買うのは少し割高なので、Arturia製品の中でいくつか気になったものがあるなら全てのソフトシンセが入っている「バンドル」を購入する方が良いと思います。
・V Collection 9 – Plugin Boutique
このバンドルには上記で紹介したシンセに加えて、坂本龍一が愛用している「Minimoog Model D」「EMI Synthi」「ARP 2600」「Buchla」などの名シンセも入っています。
EDMやエレクトロのような激しく鋭いサウンドには向いていませんが、ビンテージアナログシンセの温かみのあるサウンドを求めている人にはぴったりですよ。
YMOのシンセサイザー演奏をライブ映像で観るには?
YouTubeではいくつかのライブ映像を見ることができます。
こちらの動画は、武道館でのライブの様子。 こちらは、著作権の関係で削除されてしまったようです。
YMOの動画はたくさんネットに落ちていますが、このように1時間以上のライブ映像が落ちているのは珍しいですね。
たいていの動画は1曲単位だったり画質が悪かったりするので、もっとちゃんとYMOのライブ映像を楽しみたいという人ならライブDVDを購入しましょう。昔の映像から近年の再結成ライブの映像など、数多くのDVDやブルーレイが販売されていますよ。
YMOが使用していたシンセサイザーの名機10選 | まとめ
YMOが使用していた著名なシンセサイザーをざっくりとまとめましたが、機材などに関してもっと知りたいという人は、こちら「YMOのONGAKU」という本により詳しく書かれています。これは上記のSleepFreaksの動画にも出演されていた「藤井丈司」さんの著書ですね。
YMO誕生の歴史なども書かれているので、「YMOのことをもっと知りたい!」という人はぜひ手にとってみて下さい。
今回YMOの機材をいろいろ調べてみて感じたのは、いいシンセというのは今も昔も変わらないなということ。
「Jupiter」「Prophet」「ARP Odyssey」などは今でも多くのアーティストが使用していますし、「Moog」や「Korg」もカタチを変えながらそのDNAを引き継ぎ、現代まで脈々と生き残っていますよね。
ソフトシンセもこれらの名機を再現したものが、いろんなメーカーから販売されています。
最近はアナログシンセの熱がまた徐々に高まってきていることによって、各メーカーがハードウェアの復刻版をどんどんリリースしています。
オリジナルモデルの購入は価格面やメンテナンス面を考えると難しいという人は、復刻版やソフトシンセ版などを手に入れて、あのYMO黄金時代のサウンドを味わってみてはいかがでしょうか。