音圧戦争を終わらせ、音楽業界の新しいスタンダードをつくった「ラウドネスノーマライゼーション」について解説します。
この新たなラウドネスの基準を理解すれば、アーティストは自分の作品を最適な音量&音圧でリスナーに届けることができるようになるでしょう。
この記事を読めば、以下のことがわかります。
- ラウドネスノーマライゼーションとは何なのか?
- なぜラウドネスノーマライゼーションが必要なのか?
- 各ストリーミングサービスのラウドネス(LUFS)基準は?
- アーティストはラウドネスノーマライゼーションにどう対応すべきか?
- ラウドネスの計測と調整のためのプラグイン
個人で音楽を配信できる時代に、全アーティストが覚えておきたい知識です。
さっそく、詳しい内容を見ていきましょう。
ラウドネスノーマライゼーションとは?
ラウドネスノーマライゼーションとは、SpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービスにおいて、各楽曲の音の大きさを一定にするための自動ラウドネス調整機能のことです。
各サービスによって基準となるラウドネスや測定方法は違うので、音楽の作り手にとっては結構やっかいな問題だったりします。
なぜラウドネスノーマライゼーションが必要なのか?
では、なぜ各サービスがこのような面倒な仕組みを取り入れているのかというと・・・
Spotifyのようなサービスでいろんな曲を聴いている時に、例えばロックやダンスミュージックは音が大きくジャズやクラシックは音が小さいなんてことが起こると、曲が変わるたびにリスナーが音量調整をしないといけなくなりますよね。
EDMなんかだとものすごい音圧なので、いきなり爆音で再生されるということにもなりかねません。
こういった事態を防ぐために、すべての音楽ストリーミングサービスにはラウドネスノーマライゼーションという処理がなされているのです。
また人間の耳は、音が大きい方が良い音に聴こえる傾向があるので、ラウドネスの基準がなければ「とにかく音を大きくして目立たせよう!」というアーティストが大量発生し、音の抑揚によって生まれる音楽の豊かさが失われたり、多少音を大きくする過程でひずんでしまったとしても「音を大きくして目立ったもん勝ち」という音楽性のかけらもない事態になってしまいます。
ラウドネスノーマライゼーションを取り入れることによって、CD時代の音圧爆上げ戦争の時代も終わり、「音は大きければ大きい方が良い」というのも過去の話となりました。
ラウドネスの基準となる「LUFS」について
ラウドネスの基準として「LUFS」という基準を取り入れているサービスがほとんどです。
Spotifyは「-14LUFS」、Apple Musicなら「-16LUFS」という具合に決まっていて、もしアップロードした曲がこの基準より大きいと自動的に音量が下げられるという仕組みです。
ラウドネスが基準より低いとどうなるのかというと、サービスによっては基準に達するまで自動的に音量があげられるものもあれば、アップロード時のラウドネスのまま配信される場合もあります。
ちなみに「1 LUFS = 1dB」です。
のちほど紹介しますが、「Loudness Penalty」などのサービスを使えば、自分の曲がどのプラットフォームでどのくらい音量を変えられるのかを知ることができて便利です。
音量を下げられるということは、それだけダイナミクスを犠牲にしているということなので、各サービスの基準をあまりにもオーバーしていると、他の曲に比べて抑揚のないつまらない音になってしまいます。
ラウドネスの測定方法
ラウドネスの測定には基本的に「LUFS」を使いますが、プラットフォームによっては「RMS+LUFS」で測定していたり、「Integrated LUFS」という1曲を流し切った時のLUFSの平均値で判断していたりとさまざまです。
今や個人でも「Tunecore」などを使って、いろんなサブスク音楽サービスで同時にリリースすることができるので、音楽制作をしている人は、ある程度こういったラウドネスノーマライゼーションの知識を持って曲をアップロードするべきでしょう。
次からは、各プラットフォームのラウドネス規定や測定方法、アップロード時に気を付けるべきことなどを紹介していきます。
プラットフォームごとのラウドネス規定
各プラットフォームのラウドネス規定を理解することで、どうすれば自分の曲が圧縮されずに適切な形でアップロードされるのかがわかります。
せっかく作った曲を台無しにしないためにも、ラウドネス規定をしっかり理解しておきましょう。
Amazon Music
Amazon Musicのラウドネス規定は「-13 LUFS」です。
これよりラウドネスが高いと音量を下げられますが、低い場合はそのままです。
YouTube
YouTubeのラウドネス規定は「-14 LUFS」で、Amazon Musicと同じくラウドネスが高いと音量を下げられますが、低い場合はそのままです。
アップロードされた曲はLossy圧縮という方法で変換されるので、変換時に音量が変わってしまう場合があります。
こういった場合に備えて、曲のトゥルーピークは-1dBTP〜-2dBTPくらい余裕を持たせておいた方が安全だと言われています。
ちなみにトゥルーピーク(TP)は、iZotopeやFabfilterといった定番マスタリングソフトで簡単に調整することができます。
Spotify
Spotifyのラウドネス基準は「-14 LUFS」ですが、ReplayGainというソフトを使って測定されているので、他のサービスの-14 LUFSと音が一致しない可能性があります。
これはRMS値をもとにしたラウドネス測定の方法ですが、基本的にはあまり細かい部分まで気にする必要はないと思います。
Bandcamp
Bandcampにはラウドネスノーマライゼーションの仕組みはなく、アップロードしたそのままのラウドネスで再生されます。
ニコニコ動画
ニコニコ動画のラウドネス基準は「-15 LUFS」です。
YouTubeと同じくAACに変換されるので、ひずみが発生しないようトゥルーピークに-1dBTP〜-2dBTPの余裕を持たせておくと安心です。
SoundCloud
SoundCloudのラウドネス基準は「-14 LUFS」です。
プラットフォームごとにラウドネスを調整する必要はあるか?
プラットフォームによって微妙にラウドネスが違いますが、1つ1つのプラットフォームに合わせてラウドネスを変えてアップロードする必要はあるのでしょうか?
これに関して僕は、「ラウドネスはプラットフォームに合わせるのではなく、その曲が一番輝くラウドネスに設定すべき」だと思います。
ヒップホップやダンスミュージックならある程度コンプ感のあるギュッと詰まったサウンドが好まれるでしょうし、クラシックなら抑揚のあるダイナミックな演奏の方が好まれます。
ラウドネス値というのは時代によっても変化していくので、プラットフォームに合わせていると、時代によってコロコロ変わる基準に翻弄されてしまうでしょう。
もしある程度の基準が欲しければ、多くのプラットフォームで採用されている「-14 LUFS」が適切だと思いますが、プラットフォームごとの違いをそこまで気にする必要はないというのがこの記事の結論です。
ラウドネスノーマライゼーションに使えるプラグイン
曲のラウドネスを測定するためのソフトはいくつかありますが、過去にラウドネスが計測できるメータープラグインをまとめているので、自分の曲のラウドネスを計りたい方はこちらの記事で紹介しているメーターを活用してみてください。
参考: 【2021年版】ラウドネスが計測できるメータープラグイン8選 – スタジオ翁
また、ラウドネスはリミッターやマキシマイザーで上げるのが一般的ですが、おすすめはiZotope「Ozone」です。
これはターゲットとなるLUFSを打ち込んで曲を読み込ませると、自動的にそのLUFS値に合わせてくれる優れもの。
オーディオ変換時に起こるひずみを防ぐための「トゥルーピーク調整」もついているので、これ1つでラウドネスの問題を解決することができるでしょう。
・iZotope「Ozone 9」- Plugin Boutique
まとめ
結局、ラウドネスにはそこまでこだわる必要はないという結論になりましたが、アーティストはある程度こういった知識を知っておいた方がリリースの時に得をすると思います。
特に最近はマスタリングエンジニアに頼らず、自分でマスタリングをする人も増えてきているので。
あと音楽とは関係ないですが、YouTubeを観ているとやたら声が小さくて何をしゃべっているのかわからない、電車で聴いても騒音でまったく声が聞こえない人がたくさんいるので、僕としてはむしろYouTuberの方にこういったラウドネスに関する知識を知ってもらいたいですね。
PremiereやDaVinciにもラウドネスを測定する機能は付いているはずなので、ちょっと気にするだけでリスナーの反応も変わってくると思います。
今日の記事がひとりでも多くのYouTuber・・・アーティストに届きますように。