AIを搭載した新世代のプラグインを次々とリリースしているTechivaionですが、中でも最近アップデートされた「M-Clarity 2」がとても良かったのでご紹介します。
Techivationに関しては、以前にも「AI-Loudener」と「AI-Clarity」を記事にてご紹介しました。
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M-Clarity 2 は、ミキシングやマスタリングの工程で音の「濁り」や「こもり」を取り除くためのダイナミック・レゾナンス・サプレッサー(動的な共振抑制プラグイン)で、不必要に突出した周波数成分(例えば低域のモコモコや中域の箱鳴り、高域の耳障りなピーク)を自動的に検出して抑制し、トラックをクリアに整えるツールです。
Oeksound社のSoothe2などに似たコンセプトのプラグインですが、Techivation独自のスペクトラル処理アルゴリズムによって、原音のキャラクターを損ねず自然に不要成分だけを削減できる点が特徴とされています。
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従来のEQと違うのは、音を読み込ませると自動でパラメーターを最適化し、処理を行ってくれること。ボーカルの「モワッ」とした低域などをピンポイントで抑えられるのがとても便利なのですが、僕のフローだとマスタリングで活躍してくれることがかなり多いです。
マスタリングで真価を発揮するM-Clarity 2
もちろん、ミキシング時にモワッとした中低域を取り除くのに重宝するM-Clarity 2ですが、最終段のマスタリングチェーンにかけるのも最高なんです。
マスタリングAIといえば、iZotopeのOzoneが真っ先に思い浮かぶと思いますが、Ozoneでマスタリングした後でも、M-Clarity 2を差すことで、より全体が引き締まってバランスが良くなり、パンチがでることが多いです。
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マスタリング時に中低域の濁りを取り除きたい場合、自分の耳を頼りにEQで調整するには、絶妙なコントロールが求められるため、「濁りを取り除くつもりが、キックやベースのパンチ、迫力まで取り除いてしまった」なんてこともよくあるんですよね・・・
適切なモニター環境だとEQで整えることももちろん可能なのですが、M-Clarity 2を使った方が、モニター環境にも左右されにくく、何よりも曲に応じて最適化されたパラメーターにより、簡単に「濁りを取り除く ↔︎ 低域のパンチを残す」のバランスを整えることができて、とても便利なんです。
最近は、ほとんどの曲のマスターチェーンにM-Clarity 2を入れています。
AI-Clarityとの違いは?選ぶべきはどっち?
Techivationには「AI-Clarity」というプラグインもあります。名前が似ていて紛らわしいですが、実はアプローチが少し異なります。
M-Clarity 2は多彩なパラメータを備えているのに対し、AI-Clarityはシンプルに「Clarity」という一つのノブだけ。つまり、M-Clarity 2は細かく調整したい人向け、AI-Clarityは手軽さ重視という棲み分けがあるんです。
「どっちを買えばいいの?」と悩む方も多いでしょう。僕は、M-Clarity 2の音がとても好きなのでこちらをおすすめしたいのですが、AI-Clarityも難しいパラメーター操作なしで簡単に音を整えることができるので、「面倒な操作は一切したくないから、ワンクリックで音を整えてほしい!」という方におすすめ。
この2つは、けっこう仕上がりの音が違うので、両者のデモ版を使ってみて、自分のミックスに合った音作りができる方を選ぶのがベストだと思います。
基本的な使い方の流れ
「Mix Assist」で音楽の一番盛り上がるところを数秒読み込ませれば、パラメーターを自動調整してくれるので、基本的には数値を細かく操作する必要はありません。
でもマスタリングなどのシビアな調整になると、細かいところまで微調整したい!ってこともありますよね。なので、以下の3つのパラメーターの役割は、理解しておくと良いでしょう。
Suppression
中央の大きなノブで、プラグインが検出した共振をどれだけ下げるかを決めます。
メーカーは“音量で言えばフェーダーを握る感覚”と説明しています。レビューでは多くのエンジニアが 45〜65 %あたりを常用すると述べており、これ以上上げると輪郭だけ残して熱量を奪いがちなので注意。
Intensity
この値は「共振を狙う幅」を広げたり狭めたりします。低くすると針の穴ほどの鋭いピークだけを抑え、高くすると帯域ごと丸めます。
エレクトリックベースで一音だけブーミーになるときは 30 %程度にして狭く狙うと低域の肉付きは保てます。一方、アコースティックギターのストロークで中域が耳に刺さる場合は 70 %付近まで広げると、コード全体が滑らかにまとまります。
Focus
Intensityが「幅」なら、Focusは「狙いの鋭さ」です。高くすると最も強い共振だけに反応し、低くすると弱い山にも作用します。
スネアの箱鳴りを消したいときはFocusを 70 %以上に上げ、打面のパンチはそのままにします。逆にパッド系シンセのモワッとしたベールを剝ぎたいときは 30 %付近で広く働かせると空気感が透けてきます。
M-Clarity 2の実用的な使い方
具体的にどんな場面で使えるのか、いくつか例を挙げてみましょう。
ボーカルの明瞭化:ボーカルのこもりや鼻腔共鳴、サ行の耳障りな部分を抑えられます。「なんか歌声がボヤっとする」と悩んでいた方には特におすすめです。
ドラムの箱鳴り解消:スネアやタムの「ボンッ」という箱鳴り感を自然に抑えられます。部屋の響きが入りすぎたドラム録音も救えます。
ベースやギターの濁り取り:低域のモヤモヤを取り除いて、キックとバッティングしないクリアなベース音にできます。「ミックスが濁る」と感じていた方は、これで解決するかも。
マスタリングでの周波数バランス調整:全体の中低域が過剰な場合に、ほんの少し使うだけでクリアさが増します。「もう少しだけ抜けが欲しい」という時に便利です。
「この音はEQだけで処理できそうだな」と思ったらEQで処理してしまった方が早いと思いますが、EQを試してみてもなかなか思うように濁りが取り除けない場合に、M-Clarity 2を使うのが良いと思います。
M-Clarity 2は買いなのか?

というわけで、M-Clarity 2について色々とお話ししました。
かなり良いプラグインなので、毎回ミキシングで中低域の濁りに悩んでいる人は買って損ないと思いますが、以下のような方に特におすすめです。
- ミックスの作業効率を上げたい方
- 音の濁りや共振に悩んでいる方
- 原音のキャラクターを損なわず音を整えたい方
- EQで細かく調整する時間を節約したい方
「M-Clarity 2でできる調整を、EQだけでできないのか?」と言われれば、決してそんなことはないのですが、
- モニター環境に依存しない
- 時間効率が良い
- 熟練の技術を必要としない
といったメリット考えると、わざわざ時間をかけて技術を磨くより、頼れるところはテクノロジーに頼ってしまうのが良いと思います。
「ミックスの濁り」を正確かつ瞬時に処理したい人は、ぜひM-Clarity 2を検討してみてください!