「Teenage Engineering」「Ableton」の元スタッフである、 Svante StadlerとRikard Jönssonがタッグを組んで立ち上げた新会社「Forever 89」から、初めてのプラグインが登場しました。
以前、ニュースレターvol.53でも少し取り上げましたが、2つの有名な会社の元スタッフが立ち上げたということもあって、発売当初からとても気になっていました。
さすが、この2人が作る製品だけあって、今までにない特別なプラグインに仕上がっています。
Viscoは「サンプル・モデリング・ドラム・マシン」と呼ばれるドラムマシンの一種ですが、既存のプラグインにはなかったアプローチでドラムを作り出すことができます。
通常ドラムマシンは実際に録音されたサンプルを使う「サンプリング方式」と、 シンセシスによりドラム音を作り出す「シンセシス方式」の2つに分けられますが、Viscoが特殊なのは、このどちらの要素も取り入れている点にあります。
この特殊な処理が可能になったことで、今までのドラムマシンではできなかった、バラエティーに富んだサウンド作りができるようになりました。
Viscoの特徴としては、以下が挙げられます。
- 読み込んだ音を再合成して、シンセサイザーのように編集できる
- 2つの音を合成したり、モーフィングして音と音を行ったり来たりできる
- ステップシーケンサー、モジュレーション、エフェクターを搭載
これらを順に見ていきましょう。
1. 読み込んだ音を再合成して、シンセサイザーのように編集できる
Viscoの内蔵音源、または自分のお気に入りのサンプルを読み込んで、 これをシンセサイザーのように、切ったり引き伸ばししたり、反転させたりと柔軟に編集することができます。
これはViscoにサンプルを読み込ませた時、サンプルをそのまま読み込むのではなく、プラグイン内でサウンドを再構築しているためです。
機械学習による処理のおかげで、全く異なるサンプル間であっても機械的なノイズなどが発生せず、とても自然にモーフィングを行うことができます。 ただ、Forever 19の2人は「AI」や「機械学習」といった言葉を製品説明に全く使っておらず、最近、やたら製品に「AI」や「機械学習」といった言葉がマーケティング的に使われているのを嫌っているようにも見えます。
プラグインの真ん中にあるスライムのような物体は「ブロブ」と呼ばれ、これをハンドツール、磁石、消しゴムツール、クロスフェーダーなどを使って編集します。サウンドを掴んだり、引っ張ったり、押したり、ブレンドしたりするという、今までになかったアプローチで編集することができます。
2. 2つの音を合成したり、モーフィングして音と音を行ったり来たりできる
サンプルはキック、スネア、ハイハット、サムなどに各2種類ずつ別々のサンプルを読み込むことができます。 クロスフェーダーを使うことにより、2つの音を合成して同時に出したり、モーフィングして各サンプルを行ったり来たりすることで、ドラムに単なるエフェクターではない特殊なエフェクトをかけることができます。
実際に、808のドラムをモーフィングするサンプルが、サウンドクラウドで公開されています。
全く異なる音を行き来することで、このように他のプラグインではなかなか再現できないような、特殊なサウンドが構築できます。
3. ステップシーケンサー、モジュレーション、エフェクターを搭載
簡易的ではありますが、Viscoはシーケンサーも備えているので、プラグインの中でドラムパターンを作ることも可能です。また、モジュレーションを使ってプラグイン内の様々なパラメーターに動きをつけたり、内部エフェクターによる各ドラムの処理も簡単にできます。
個人的にはモジュレーションはプラグイン内のものを使い、シーケンサーとエフェクターはDAWのものを使う方が、柔軟性が高いと感じました。
もし特定のトラックにだけリバーブやディレイなどのエフェクトをかけたいなら、Vsicoから一度、特定のドラムの音をDAWに吐き出し、エフェクトをかけてまたViscoの内部に戻すといったルーティングも可能です。
詳しくは、説明書をご覧になってください。
どんな人におすすめか?
Viscoは、内蔵されているサンプルや自分のお気に入りのサンプルをロードし、通常のドラムマシンとして使うこともできますが、ドラムマシンの機能としてはそこまで多いわけではないので、単にドラムマシンとして使いたいなら他のプラグインをおすすめします。
音の加工や、二つの音を行き来するモーフィングにこそViscoの本当の魅力があるので、先ほどのSoundCloudのサンプルのように、音を加工して自分だけのオリジナルドラムを作りたい方、またモーフィング機能を使うことで、ドラムの音に動きを出したい方におすすめです。
また、モーフィングスライダーをMIDIコントローラーなどにアサインし、リアルタイムでモーフィングしてライブで使うのも良いかもしれませんね。
出来合いのサンプルを使ったドラムシーケンスの生成に飽き飽きしている人は、ぜひ一度、Viscoを試してみてはいかがでしょうか?