今日は、少し変わった視点から音楽制作について考えてみようと思います。
音楽制作をするとき、作る時間帯によって、全然違う結果になった経験はありませんか?
そんな音楽制作における「時間帯の影響」について、深掘りしていきたいと思います。よく「クリエイティブな仕事は夜にやるべき」とか「アーティストは夜型が多い」なんて言いますよね。でも実際のところ、これって本当なのでしょうか?
時間帯と創造性の不思議な関係
まず科学的な話から入りましょう。人間には「サーカディアンリズム(概日リズム)」という体内時計があります。これは、およそ24時間周期で、体と脳の働きを調整するしくみのこと。たとえば、睡眠と覚醒のリズム、集中力や反応速度、体温、ホルモンの分泌など、私たちの一日のパフォーマンスをリズミカルに変化させています。
ざっくり言うと、「一日の中で、体と脳の調子がじわじわ変化する流れ」みたいなものです。
このリズムによって、一日の中で僕たちの気分や注意力、そして創造性まで変わるんです。例えば、ポジティブな気分は昼から夕方にかけてピークになり、夜はちょっと落ち込みがち。
ある研究によると、音楽家は一般の人より夜型の傾向が強いそうです。作曲する人はさらに夜型が多いとか。2019年の調査では、音楽家は朝型夜型度を測るMEQスコアが一般の人より低く、より「夜型志向」だったそうです。特に演奏だけでなく作曲もする人は、さらに夜更かし傾向が強いようです。
参考: Musicians: Larks, Owls or Hummingbirds?
ちなみにMEQテストはこちらでも受けられるのですが、僕は、「中間型」という結果でした。

でもベートーヴェンやモーツァルトは朝型だったという記録もあります。モーツァルトは朝から精力的に作曲していたそうですし、ベートーヴェンは朝の散歩でインスピレーションを得ていたとか。
朝方か夜型、一体どちらが音楽制作に有利なんでしょうか?
夜型クリエイターの強み
アーティストのインタビューなどを見ていると、夜の方が制作が捗る!って人をよく見かけます。
多くのプロデューサーが夜に制作する理由として「誰にも邪魔されない」を挙げています。あと個人的には、「世間一般のみんなは寝静まっているんだ」と感じるととてもリラックスできますし、夜はみんな電気を使わなくて電力消費が少ないから、音がいいなんて噂も聞きます。夜作曲のメリットすごい!
カナダのビートメイカーCH4INS4Wさんは「夜は創造性を邪魔されないから好き」と語っています。SNSの通知も少ないし、電話も鳴らない。そりゃ集中できますよね。
英国のダブステップDJ/プロデューサーであるYoungstaも「夕方から深夜にかけて制作する方が性に合っている」と言っていて、毎日午後3~4時に起きて夜通し活動する生活リズムを続けているそうです。彼は「創造的プロセスである以上、気分が乗らないときは何も生まれない」とも語っていて、自分が最もノれる時間帯に合わせた生活をしているんですね。
ただ夜型制作の注意点もあります。夜のテンションで作った曲を翌朝聴くと「あれ?こんなはずじゃなかったのに…」となることが多いんです。これには科学的な説明があって、夜は感情が高ぶる一方で客観的判断力は下がるんです。だから「これイケてる!」と思って作った曲が、冷静になった朝には「うーん…微妙かも」と感じることになる。つまり夜の高揚感と引き換えに客観性を失っているんですね。
朝型クリエイターの強み
一方で、朝型のクリエイターも少なくありません。スペインの電子音楽作曲家アイタール・エチェバリアさんは朝7時半起きで、コーヒーを淹れてすぐスタジオに向かうそうです。
彼は、以前は夜に制作していたのですが、「実は自分は昼間に作業する方が向いている」と気づいたそうです。自然光がたっぷり入る新しいスタジオに移ってから朝型に切り替え、朝から夜8~9時まで働く健康的なルーティンを確立したそうです。このサイクルで「100%音楽に集中する生活」を実現していると語っています。
朝型制作の最大のメリットは「頭がクリア」なこと。睡眠でリセットされた脳は判断力も集中力も高いんです。だから細かい調整や編集作業には朝の方が向いています。日本のソングライターのCarlos K.さんも「アレンジ作業は朝~夕方に行う」と言っています。彼によれば「朝に作業したほうがすごく進む」そうです。
インスピレーション・パラドックス – 不調の時こそひらめく?
心理学では「クロノタイプ」という概念があります。これは「朝型」か「夜型」かの個人の傾向のことで、自分のクロノタイプに合った時間に作業すると創造性が高まるという研究結果があります。つまり朝型の人は朝、夜型の人は夜に最もクリエイティブになれるというわけです。
何を当たり前のことを・・・と思ったかもしれませんが、
面白いことに、2011年、WiethとZacksという研究者がとある実験をしました。朝型の人は夜に、夜型の人は朝にパズルのひらめき問題を解かせたら、なんと「その人にとってベストではない時間帯」の方が成功率が高かったんです!これを「インスピレーション・パラドックス」といいます。
なぜこんなことが起こるのでしょう?研究者たちは「ピーク時は注意力が高いけど思考が固くなりがち、反対にオフピーク時はぼんやりしているからこそ自由な発想ができる」と説明しています。なんだか禅問答みたいですよね。「上手くなろうとするな、上手くなるな」みたいな。
とはいえ、最新の研究では「自分に合った時間帯」で創造性が高まるという「同期効果」も示されています。ややこしいですよね。
自分に合った制作スタイルを見つけるには
じゃあ僕たちはどうすればいいのでしょうか?
一つのアプローチは「朝と夜の両方を活用する」こと。例えば夜にアイデアを出して、朝に冷静な頭で仕上げる。こうすれば夜の創造性と朝の判断力、両方の良いとこ取りができますよね。
とはいえ、無理に早起きしたり夜更かししたりするのは体に良くありません。自分の自然なリズムを知り、それを尊重することが大切です。もともと朝型なのに「アーティストだから夜に作らなきゃ」なんて思う必要はないんです。最初にご紹介したテストだったり、日々の生活の中で、自分のリズムを知ることが大切です。
例えば、バリ島の現代ガムラン作曲家デワ・アリットさんは「一晩中作曲して朝に子供を学校へ送り、昼前に起きてまた作曲」という生活をしているそうです。これは極端な例ですが、彼のリズムでは最高の創造性が発揮できるんでしょうね。本当に、人によって様々なので、自分の理想の制作時間帯をどうしても知りたければ、実験的に色々な時間帯で作ってみることをおすすめします。朝作った曲と夜作った曲を比べてみると、自分でも「あ、確かに違う!」と気づくはずです。
僕は、最近アンビエントを作ることが多いので朝の作曲が捗りますが、やはりダンスミュージックは深夜に作った方がいい曲が作れるなと感じますね。
まとめ
というわけで、結局は「自分のリズムを知ること」が一番大切なんだと思います。夜でも朝でも、自分が最も集中でき、アイデアが湧き出る時間に作るのがベスト。それがクオリティの高い音楽を生み出す秘訣なのではないでしょうか。
僕はたまに「世界の一流は「休日」に何をしているのか」みたいな成功者の本を読むのですが、こういうのって結局、人によって向き不向きが全然違うから、多少参考にはなるものの、そのまま真似するのは違うよなあ、といつも思っています。
例えば、好きなアーティストがこんな時間帯に作曲しているから僕も真似しよう!と思って、いったん真似してみるのは良いですが、そこで自分が無理しているのであれば何の意味もありません。
「なかなかアイデアが浮かばないな」「もっと効率的に作曲したいな」と思っている方は、ぜひ自分に合った制作時間帯を見つけ、創作時間帯の魔法を取り入れてみてはいかがでしょうか。