「1176」は、Universal Audioの伝説的なコンプレッサーです。
今ではいろんなメーカーがモデリングプラグインをリリースしているので、使ったことがある人も多いのではないでしょうか。
・UA 1176 Classic Limiter Collection – Universal Audio
コンプレッサーはどのDAWにも付属していますし、FabfilterやiZotopeなどの大手メーカーが高品質なコンプレッサープラグインを出していることもあり、「今さらビンテージのコンプなんて使う必要ないよ」と考える人もいることでしょう。
確かに現代的なコンプレッサーの方が多機能で使い勝手も良いですが、1176のようなビンテージコンプを使うことで、
- アナログ独特のキャラクターを与えられる
- 機能が限定されることによって、意思決定のスピードが上がる
といったメリットも得られます。
今日の記事では、このようなビンテージコンプを使うメリットも紹介しつつ、1176系コンプの特徴や使い方について解説していきます。
実機「Universal Audio 1176」の特徴
1176コンプと聞いて、まず最初に思い浮かぶのは、FET回路による「素早いアタック」ですね。
通常のDAWに入っているコンプならアタックタイムを最大300m秒くらいまで設定できるのですが、1176のアタックタイムは20μ(マイクロ)秒から800μ秒までの速い設定しかありません。(1μ秒は0.001m(ミリ)秒)
1176は、ドラムやパーカッションといったアタック感の強い音を、しっかり叩くことに特化したコンプレッサーです。
ちなみにリリースタイムは、50m秒〜1100m秒(1.1秒)まで設定できます。
あと、通常のコンプはスレッショルドを下げることでコンプがかかる位置を調整しますが、1176にはスレッショルドが付いていないので、INPUTノブでボリュームを上げてスレッショルドまで音を押し上げることでコンプがかかる位置を調整していきます。
ハードウェアだとINPUTノブとOUTPUTノブに両手をかけて、レベルを変えずにコンプのかかり具合を調整できるのですが、プラグインだとどうしてもレベルが変わってしまうのでちょっと不便ですが、慣れれば問題なく使えるでしょう。
1176はドラムやパーカッションだけでなく、アタック感の強いギター・ベース・ボーカルなどにも幅広く使えます。
ビンテージコンプを使うメリット
次に、ビンテージコンプを使うメリットについて見ていきます。
ビンテージコンプといっても実機を使う必要はなく、各メーカーが出しているモデリングプラグインを使うことで、ビンテージコンプのメリットを生かすことができますよ。
アナログ機材特有のキャラクター
1176のようなアナログコンプのキャラクターは、DAW付属のコンプや別のコンプではなかなか再現できないところがあります。
たとえば1176とアタック・リリース・ゲインリダクション・レシオなどを同じ設定にしても、他のコンプでは1176ほど音に厚みが出なかったり、ほどよいひずみが得られなかったりしますね。
最近のデジタルコンプはかなり機能も多くいろんなことができるのですが、こういった機材特有のキャラクターを得ようとするなら、やはりモデリングプラグインを使ったほうが早いでしょう。
いろんなメーカーがモデリングプラグインを出していますが、1176はUniversal Audioの製品なので、UADプラグインがうまく実機を再現できているんじゃないかと思います。
ワークフローの効率化
ミキシングのプロは、「この楽器にはこの機材をこの設定で使えばうまくいく」というようなルーティーンを持っていることが多い気がします。
もちろん演奏する人や録音する場所によっても、適切な機材は変わってくるかと思いますが・・・
「アデル」「ケイティ・ペリー」「ミーカ」などを手がける著名エンジニアのGreg Wellsは、1176を使う時のセッティングは毎回「一番遅いアタック・一番速いリリース」と一貫しています。
この後に紹介する「ドクターペッパー」と呼ばれる設定でアタックリリースを調整するエンジニアも多いようですが、彼は先ほど紹介した設定がボーカルなどのエネルギーを損なわないベストな設定だと考えているようですね。
1つのコンプレッサーですべてのシーンに対応しようとするよりも、それぞれの機材の特徴を理解し、「この場面にはこの設定でこの機材を使う」というマイルールを構築していくことで、作業を効率化できるのでしょう。
1176系コンプを使った3つのミキシングテクニック
ここでは、1176系のコンプを使った3つのテクニックを紹介します。
プラグインでも再現できるので、1176系のプラグインを持っている人はぜひ試してみてください。
1. オールボタンモード
オールボタンモードとは、4つのレシオボタンを全押しする方法です。
「Led ZeppelinやBeastie Boysが愛したワザ」らしいですが、この方法でコンプレッションをかけることで、荒々しいひずみや強めのコンプレッションを得ることができます。
さらにアタックとリリースを最速にすれば、かなり強烈なひずみを得ることができるので、ディストーションをかけたような荒々しいサウンドが欲しい時に使えます。
2. ドクターペッパー設定
これは、毎日10時、2時、4時にドクターペッパーを飲んで糖分補給しようという、昔の広告キャンペーンに由来しています。
アタックを10時、リリースを2時、レシオを4:1にセットすれば良い結果が得られるというこの設定は、エンジニアの間では有名だそうですね。
3. ボーカルコンプレッション
伝統的なボーカルコンプレッションの手法として「1176 + LA-2A」というコンビネーションがあるそうです。
1176とLA-2Aのどちらを先にするかというのはエンジニアによって違いますが、僕としてはこちらの動画にもあるように、1176で強いトランジェントだけを潰し、LA-2Aで全体をなめらかに整えるという使い方がしっくりきます。
Matt Ross-Spangというアメリカの著名エンジニアは、先にLA-2Aを入れる方がしっくりくるとのこと。
・UA 1176 Classic Limiter Collection – Plugin Boutique
UA 1176 Classic Limiter Collectionの使い分け
1176コンプは色んなメーカーから出ていますが、オリジナルのハードウェアがUniversal Audio(UA)なので、プラグインもUAのものを使えば、まず間違いないでしょう。
UAからは、以下の3つのエディションが出ていますが、それぞれ微妙に音の傾向が違うので、こだわりたい人はそれぞれの特徴を理解して棲み分けをしてみましょう。
「いっぱいあって選ぶのめんどくさい!」という方は、オールジャンルに対応するクセの少ない「LN REV E」を使うと良いと思います。
簡単にそれぞれの特徴をまとめておきますので、参考にしてみてください。
REV A
オリジナルの1176回路を再現するREV Aは、コンプレッションだけでなく適度なディストーションも与えてくれます。
このモデルは、オリジナルの“Putnam” FETリミッターデザインを表し、高いディストーション
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値と独自のFETゲインアンプのキャラクターを備えています。
サウンドに、アグレッシブさを加えたい時に使いましょう。
逆に、ほかのトラックに馴染ませたい時には、主張が強すぎて扱いづらくなってしまうかもしれません。
AE
アニバーサーりモデルのAEは、最小レシオが4:1ではなく2:1になっています。
10msという、1176にしては”スーパースロー”なアタックも大きな特徴の1つでしょう。
あまりコンプ感を目立たせたくないトラック、例えばボーカルなどとの相性はとても良いです。
LN REV E
こちらは1176の一般的なバージョンで、滑らかで馴染みの良い音に仕上げることができます。
どんな楽器にも対応できる、優等生的なポジションですね。
このモデルは、70年代前半のBrad Plunkett “LN”(ローノイズ)時代の1176サーキットを再現
https://hookup.co.jp/assets/upload/support/attachments/2022/05/4469/ua-1176-classic-limiter-collection_B.PDF
しており、より多くのリニアコンプレッションレスポンス、トランジスタゲインアンプとプログラム
依存の変化を含むバリエーションを持っています。
1176系コンプの特徴と使い方 | まとめ
1176は時代によって少しづつ違うモデルが販売されていますが、UADプラグインならそれぞれ独自のサウンドキャラクターを持つ3つのモデルを使うことができるので、本格的なエミュレーションが欲しいならUADが一番良いのではないかと思います。
僕は今のところ、いろんなタイプの1176を使えるほど熟練していないので、UADのレガシーバージョンか、Slate Digitalの1176モデリングプラグインを使っていますね。
Wavesは使っているエンジニアも多く、コスパもかなり良いのでこちらもおすすめ。
どのモデリングでも似たような空気感は得られるので、デモ版を試してみて気に入ったものを使ってみると良いでしょう。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
・UA 1176 Classic Limiter Collection – Plugin Boutique