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ボーカルが浮いてしまう7つの原因とその対処法

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ボーカルを処理していて、「なんかボーカルがうまく馴染まないな」「ボーカルだけ浮いて聞こえるな」と感じたことはありませんか?

ボーカルは音楽のメインとなる存在なだけに、ほんの少し調整のずれがあるだけでも不自然に聞こえてしまいがちです。

今日は僕の経験談も含めて、ボーカルが浮いてしまう原因や対処法、ボーカルを馴染ませるためのプラグインなどをご紹介します。

ボーカルのミキシングがうまくいかないと悩んでいる人は、ぜひ参考にしてみてください。

1 .ボーカルを単独で調整している

まず、しっかりミックスしたつもりでもボーカルが浮いてしまうなら、ボーカルを単独(ソロ)で調整していることが原因かもしれません。

DAWには各トラックをモニターするための「ソロボタン」がありますが、あまりにもボーカルトラック単体での処理を意識しすぎてしまうと、曲全体で再生した時にうまくまとまって聞こえないことがあります。

参考: DAWのソロボタンはなぜ使ってはいけないのか? – スタジオ翁

もちろん不要な帯域を削ったり微調整をする場合はソロで聞いた方が処理しやすいのですが、あまり細部にこだわりすぎず、全体での調整を心がけてみてください。

2. ボーカルが大きすぎる

ボーカルは曲の中心的存在なので、気がつくとボーカルの音量だけ上がりすぎているというのはよくあること。

音量を上げればもちろんよく聞こえるのですが、ボーカルだけ音量が大きいと、他の楽器との馴染みが悪く全体として不自然なミックスになリます。

「でも音量を下げるとボーカルが聞こえなくなるし…」ということなら、EQやダイナミクスの処理が詰めきれていない可能性が高いです。

これにはボーカル自体のEQ処理も大切ですが、ボーカル以外の楽器をEQしてボーカル用にスペースを空けてあげたり、サイドチェーンコンプを利用してボーカルが入るところだけ他の楽器の音量を下げたりといった工夫をすることで対処できる場合もあります。

3. 録音の時点で失敗している

スタジオでエンジニアの手によって録音されたものならあまり問題になりませんが、アーティスト自身がマイクを使って家でボーカルを録音している環境だと、場合によってはその後の処理がかなり難しくなることがあります。

例えば、録音中に外の車のエンジン音が入ったり、部屋が吸音処理されておらずリバーブがかかったような声になったりすると、その後のミックスの処理だけでは完璧に補正しきれない場合が多いです。

「iZotope RX」などの補正ソフトを使えば、部屋鳴りっぽいリバーブを取り除いたりノイズを取ったりすることはできますが、それでもしっかりした環境で録られたボーカルにはとても敵いません。

Adoは自宅のクローゼットでボーカルを録音していたそうですが、部屋全体を吸音処理しようとするとかなりの費用がかかるので、クローゼットなどの狭いスペースに吸音材を貼って録音するのは理にかなっています。

もしあなたが歌も歌ってミックスもするのなら、こういった録音のための環境づくりに積極的に取り組んでみると良い結果が得られるかもしれません。

4. EQが適切でない

素晴らしい環境で録音されたボーカルならEQ処理を最小限に抑えられますが、それでもトラックとのなじみをよくするためには他の楽器に合わせた適切なEQ処理が必要です。

何がいい音なのか?というのは経験を積まないとなかなか判断しにくいところだと思いますが、こういった周波数の感覚をまとめたチャートは慣れないうちはかなり参考になります。

  1. Low-End Noise – 20Hz〜80 Hz
  2. Boominess – 80Hz〜300 Hz
  3. Muddiness – 250Hz〜500 Hz
  4. Nasal Honk – 800Hz〜1.5 kHz
  5. Presence – 4.5kHz〜9 kHz
  6. Breathiness – 10kHz〜15 kHz

https://ledgernote.com/columns/mixing-mastering/how-to-eq-vocals/

「中低域が濁っていてボーカルが抜けてこないな」という時は、2~3の80Hz~500HzあたりをEQで削ってスッキリさせることでボーカルがより前に出てくることが多いですし、それでもボーカルが抜けてこないなら5~6の4.5kHzあたりからシェルフEQで持ち上げることによってボーカルの音量を上げずに存在感を出すことができるかもしれません。

ボーカルによって処理がまったく異なるのでワンパターンの正解はありませんが、経験を積むことで「このボーカルにはこの処理が良さそう」といったパターンを自分の中に増やしていくことが大切だと思います。

5. 声の抑揚がありすぎる

ミックスにおいてEQと同じくらい大切なのが、コンプレッサーによるダイナミクスの処理です。

声は他の楽器と比べてもかなりダイナミクスが大きいので、軽くコンプをあてるくらいでは他とうまく馴染まなかったりするんですよね。

他の楽器と比べて声が薄かったり前に出てこないなら、コンプが足りていない可能性があるので、以下の方法を試してみましょう。

  1. VocalRiderでの前処理
  2. シリアルコンプレッション

Vocal RiderはWavesから販売されている自動音量補正ツールですが、あまりにダイナミクスの多い音源はコンプを通す前にこれで音量感を整えておくと、コンプをかけた時の馴染みが良くなることが多いです。

次にコンプをかけるわけですが、「シリアルコンプレッション」というのは複数のコンプを重ねがけすることを言います。

同じ5dBのコンプレッションでも、1つのコンプで5dBコンプをかけるより、2つのコンプで2.5dBづつかけた方がなめらかなかかり具合になったりします。

さらに1176系のアタックの速いコンプと、LA-2A系の緩やかなコンプを使ってより自然なコンプ感を出すといったテクニックもあるので、そのボーカルに合う方法をいろいろ試してみてください。

参考: 1176系コンプの特徴と使い方 – スタジオ翁

6. 空間が曲とマッチしていない

ボーカルが他の楽器と馴染まなかったり浮いて聞こえるのは、ボーカルがドライ過ぎることが原因かもしれません。

リバーブはかけ過ぎると輪郭がぼやけて遠くで鳴っているように聞こえますが、あまりにもかかっていないと馴染みが悪く、浮いて聞こえます。

この「ちょうどいいリバーブ感」を探すのが難しいところなんですが、空間処理が苦手な人はここらへんを永遠に行き来してしまいます。

リバーブのかけすぎでボーカルが前に出てこない ⇆ リバーブかけなさすぎで他の楽器とうまく馴染まない

対処法として、リバーブ量ばかりを調整するのではなく、リバーブ音自体を処理して馴染みをよくするのがおすすめです。

リバーブは、プリセットによってはそのまま使うと不自然になってしまうことがあるので、ローカットに加えて、他の楽器に馴染むようにハイカットもしてみましょう。

さらにリバーブ音にコンプをかけることで、リバーブが不必要に前に出てくることを防ぎます。

同じように、ディレイもEQやコンプで調整すると楽曲にうまく馴染むことが多いですね。

7. 曲がボーカルをマスキングしている

先ほども少し紹介しましたが、ボーカルの抜けが悪い場合は、ボーカル以外のトラックを処理することで抜けを良くできるかもしれません。

例えば、こちらの動画で紹介されているマルチバンドコンプを使ったサイドチェーンテクニックを使えば、ボーカルの帯域だけを効率よく目立たせることができます。

最近は、歌ってみた系のミックスで2mixとボーカルを混ぜる作業をする人もいるかと思いますが、すでにマスタリングされた2mixだとボーカルの入る余地がまったくないので、2mix側に何かしらの処理をしてボーカルのためのスペースを空けてあげる必要があります。

マルチバンドコンプを持っていなければ、EQで2mixにスペースを作ってあげるだけでもかなり仕上がりが変わってきますよ。

まとめ

ボーカルのミキシングではボーカルそのものの調整も大切ですが、ボーカル以外のオケや楽器などを調整することでも、ボーカルを引き立たせることができます。

ミックスの状態によっても処理の仕方は変わってきますし、今回ご紹介した方法で必ずしもボーカルミックスの問題が改善するわけでありませんが、まだ試していない方法があればぜひ試してみてください。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?