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DAWのソロボタンはなぜ使ってはいけないのか?

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突然ですが、今日からミックス時にソロボタンを使用することを禁止します。

いきなり何を言いだすんだ、ソロボタンを使ってチャンネルごとに楽器を調整していかないとキレイなミックスができないだろ!

そんな声が聞こえてきそうです。

ちなみにソロボタンというのはどのDAWにも必ずある、各トラックをモニターするためのボタンです。

「S」と表記されていることが多いですね。

冒頭がちょっと煽りみたいになってしまいましたが、今日は「普段ミキシングがうまくいかない人はソロボタンの使用を減らすことで、ミックスの腕が上がるかもしれない」というお話をします。

DAWのソロボタンはなぜ使ってはいけないのか?

さっそく結論からいきますと、

ソロボタンを使ってはいけない理由、それは・・・

「ミックスはコンテキストだから」

です。

これでは何のことかさっぱり分からないと思うので、詳しく説明していきましょう。

ミックスはコンテキスト…とは

コンテキストというのは日本語で「文脈と訳されます。

要するに、音楽はそれぞれの楽器のメロディが複雑に絡み合うことで成り立っていますが、ミキシングにおいてはこの「コンテキスト」を意識しないと、最終的によいミックスにはならないよということです。

ミックスがうまくいかない人は、ソロボタンを使ってひとつひとつの楽器を納得いくまで調整しがちです。

ところがこの方法だけで処理をしてしまうと、「それぞれの楽器が単体で鳴っていると素晴らしい音だけど、全体で再生した途端にバランスが崩れてしまう」となる可能性があります。

なぜ、こんなことになってしまうのでしょうか?

ミックスにおけるソロボタンの弊害

これは、具体例でみてみるとわかりやすいです。

例えば、ボーカルをソロボタンを使って単体で調整するとしましょう。

EQやコンプレッサーの他に、リバーブやディレイも使って最高のボーカルに仕上げます。

低域から高域までキレイに再生され、リバーブやディレイをふんだんに使ってリッチな空間を作り上げました。

さあ、全体で再生して聴いてみましょう。

すると完璧に仕上げたはずのボーカルの低域はにごり、どこか遠くから聴こえる感じがする。さらに楽器とボーカルが団子になり全体的にモワッとしている

これは一例ですが、ソロボタンを使ったミックスはこのように悲惨な結果になる可能性があります。

なぜなら、コンテキストを全く無視してミックスをしようとしたからです。

曲全体を再生しながらコンテキストを重視したミックスを行えば、これは解決できます。

低域がにごっている

→EQで低域をカットしましょう。単体で聴くと気にならなくても、全体で聴くと他の楽器の低域と被っていてミックス全体の輪郭をぼやけさせる要因になっています。

なんか遠くから聞こえる

→コンプかけすぎです。うまくダイナミクスを調整したつもりでも、全体で聴くとハリがなく迫力が感じられません。アタックを遅めに設定するかスレッショルドを緩めてボーカルが前に出てくるまで調整してみましょう。

他の楽器との分離がわるくモワッとしている

→リバーブが長過ぎたりやディレイがかかり過ぎているかもしれません。他の楽器の邪魔にならないようにかつ最大限ボーカルを気持ちよく聴かせられるようコンテキストを意識しながらエフェクトの値を調整してみましょう。
リバーブにコンプをかけたりボーカルをトリガーにしてサイドチェーンをかけたりすると、リバーブが引き締まってミックスとうまく混ざり合う可能性があります。

ソロボタンを使用するメリット

ではソロボタンは全く意味のないボタンかというと、そうではありません。

ソロボタンを使った方が良いのは、どんな場合なのでしょうか?

それは、

チャンネルごとの不必要な帯域をカットする時

です。

特に録音した音などは、全体のバランスに関わらず不必要な帯域が存在することがあります

ボーカルを例にとってみると、環境によって超低域が入っていたり歯擦音と呼ばれるサシスセソの耳に痛い帯域がある場合ですね。

これはミックス以前の問題で、あっても何の意味もありませんし全体で聴くと他の音と重なってどこが不必要なのか聴きとりづらい場合が多いです。

なので、不要な帯域をカットするためにEQを使用する分にはソロボタンを使ってもOKです。

DAWのソロボタンはなぜ使ってはいけないのか? | まとめ

ちょっと煽りタイトルですみませんでした。

ソロボタンというのはうまく使えばとても便利な機能で、むしろ無いとミックスなんてできません。

ところがソロボタンに過剰に頼りすぎるミックスをしてしまうと、全体で聴いた時に他の楽器とうまく馴染まないことがあるんですよね。

ソロボタンを使って普段からうまくミキシングできている人は大丈夫ですが、全然うまくいかないなという人は、ソロボタンの使い方を見直してみてください。

今よりもっと、ボーカルが楽曲に馴染むミキシングができるようになるかもしれませんよ。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?