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【音楽理論】ユークリッドリズムをつかって音楽に不思議な魅力を生み出す方法

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ダンスミュージックのリズムは「4/4」、つまり1小節にキックが4つ、ドンドンドンドンと入るものが一般的ですよね。

とくにテクノやハウスではこの傾向は顕著けんちょで、ダンスミュージックの基本となるリズムです。

ところが世界の伝統音楽などをみてみると、必ずしもこのリズムで音楽が作られているわけではありません。地域によってそのリズムはさまざまで、楽器の音色だけでなくリズムそのものが各地域の土着性を生み出していることもあります。

「変拍子のリズム」はメロディの始まりと終わりが分からなくなるような浮遊感や異世界感、独特な魅力を作り出します。

そんな変拍子の魅力に数学的見地からせまろうとするのが、この「ユークリッドリズム」という考え方です。

ユークリッド・リズムとは

ユークリッド・リズムは、数学におけるユークリッドの互除法を実世界で表現したもので、2004年にゴッドフリード・トゥーサンにより初めて理論化されました。この理論は、数々の伝統音楽に固有のリズムの多くは拍間の等距離間隔を計算するアルゴリズムを用いて生成可能であり、それ故に、従来の8または16ステップのリニアなシーケンサーでは不可能でも、環状に動作するシーケンサーに適用することは可能だと仮定しています。

なんだかよく分からないわ…

ユークリッドという数学者の名前は、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

『ユークリッドの互除法』というのはセンター試験にも出るほど一般的だそうですが、要はそのユークリッドの数学的な考え方を音楽に応用しようと考えた人がいるということです

ユークリッドリズムとは何かということを動画で説明している人がいたので、こちらをご覧になると理解が深まるかと思います。

英語ですが、イラスト付きで比較的わかりやすいです。

ユークリッドリズムを日本語で一番わかりやすく解説しているのは、こちらのAbletonの公式ホームページでしょう。

Don’t DJは「開始点のない音楽」と表現していますが、まさにこの開始点がどこかよく分からないというような複雑性がユークリッドリズムには存在しています。

英語がわかる人なら、こちらのPDFにユークリッドリズムを応用した音楽制作に関する詳細がまとめられているので、一度読んでみるのがおすすめです。

参考: http://cgm.cs.mcgill.ca/~godfried/publications/banff.pdf

複雑性は音楽制作においてとても重要で、単純すぎるものはすぐにリスナーを飽きさせてしまいます。

かといって複雑すぎるのも、反復性という音楽の重要な要素からみると考えものです・・・

ユークリッドリズムというのは「一見複雑に見えるが、きちんとした規則性を持ったアルゴリズムで生成可能なもの」です。

つまり、数学的な法則を今から理解する必要はなく、ユークリッドリズムに対応したシーケンサーを使うことで簡単にこの複雑性をあなたの音楽に応用することができるんです

次に、ユークリッドリズムに対応したシーケンサーを2つ見ていきましょう。

ユークリッドリズムに対応する2つのシーケンサー

上記のAbleton公式ページの記事中で紹介されていた「Euclidean MIDI Patternsアプリ」は現在ダウンロード出来なくなっているので、ここでは「ソフトウェア」と「ハードウェア」の2つの解決策をご紹介したいと思います。

ひとつはAbletonのMax For Liveで使用可能な「Euclidean SEQ for Ableton Live」というソフトウェアです。Max For LiveはAbletonの最上位版に付いてくる機能で、残念ながらAbleton Live Suiteを持っていない人は使うことができません。

Ableton Live内でしか使用出来ないというデメリットもありますが、ソフトウェアとしてユークリッドリズムが使用できるものはあまり市場に出ていないので、Max For Liveを使っている人にはぜひこれをオススメします。

もうひとつはハードウェアシーケンサーを使用するもの。

Squarp Instrumentsから出ている「Pyramid Sequencer」というシーケンサーで、数年前に大きく話題になったハードウェアシーケンサーです。

公式ページ: Pyramid

AskAudio: Squarp Pyramid Hardware Sequencer in Action

AskAudioに商品の詳細な紹介ページがあったので、あわせてリンクを紹介しておきます。

こちらはハードウェアなのでDAWを選ばず使うことができ、ハードシンセにも対応しています。

ハードウェアシーケンサーというのは、良質なものだと数十万円するものもあるので、その中では比較的購入しやすい製品だと言えます。(とは言っても音楽を始めたばかりの方にとってはかなり高額ですが・・・)

ユークリッドリズムを使用した音楽

最後に、このユークリッドリズムを使って制作された音楽をご紹介しましょう。

Petar DundovというDJ/プロデューサーが制作したものです。

Petar Dundovは理論や機材にも非常にこだわっていて、下に紹介するページではアルバム1曲ごとの制作過程が丁寧に解説されています。

音楽制作をする人にとってはとても有益な記事なので、英語の記事ですがあわせて紹介しておきますね。

単純なビートに飽きてしまったという人、音楽に不思議な魅力を加えてみたいという人は、このユークリッドリズムを制作に取り入れてみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?