今日は、ミキシング手法のひとつである「MS処理」について紹介していきます。
MS処理を使うと、どんなことができるのかと言うと・・・
- キックやベースをタイトにする
- ボーカルにきらびやかさを与える
- 他の楽器のためのスペースをつくる
- ミックスのにごりを取り除く
このようなこともできますし、応用次第では他にもいろんな使い方ができます。
もちろん、通常のEQやコンプを使っても似たようなことはできますが、MS処理を使えばより細かいミックスの調整が可能になります。
使いどころが難しいかもしれませんが、覚えておいて損のないテクニックなので、MS処理のやり方, 応用方法, MS処理に使えるプラグインなどを一緒にみていきましょう。
MS処理とは?
MS処理とは、ステレオ信号を「Mid(中央)」と「Side(サイド)」という2つの信号に分けて別々に処理するミキシング手法です。Midには、左右のチャンネルに共通する情報だけが含まれ、Sideには、左右のチャンネル間で異なるすべての情報が含まれています。
えっと、つまりどういうこと?
これは「LR(左右)」とは、少し違った考え方なのですが・・・
イメージとしては、こんな感じ。
真ん中から聞こえる音(Mid)と、左右に広がっている音(Side)をいったん分離して、それぞれをEQやらコンプを使って調整することで、
- Midだけを上げて音の芯をつくる
- Sideだけを強調して音に広がりを出す
こういったことが簡単にできるようになります。
そもそも僕たちの耳は、左右のスピーカーから全く同じ音が出ていれば「音が正面から聞こえている」ように感じ、同じ音でも左右で「タイミング」や「位相」が少しでもずれていれば「音が左右に広がっている」ように感じる仕組みになっています。
この耳の仕組みをうまく利用して、音をコントロールしていくというわけですね。
さて、この音をMidとSideに分ける処理は、専用のプラグインを使えば簡単に行うことができます。
ここからはMS処理に使えるプラグインを、無料と有料でそれぞれ紹介していきますよ!
MS処理に使えるプラグイン(無料あり)
MS処理は、主にEQやコンプレッサーを使って行います。
まずは、無料のプラグインからみていきましょう。
Voxengo「MSED」(無料)
「MSED」は、完全に無料で使うことができます。
これをチャンネルに挿せばMid/Sideの情報を「L/R」として扱えるので、それぞれのチャンネルに好きなプラグインを挿して、音の調整ができるというスグレモノ。
EQやコンプだけでなく、あらゆるプラグインを使ってMid/Sideごとに細かい処理をしたいという人に向いています。
DAW付属のEQ
ほとんどのDAWには、Mid/Side機能のついたイコライザーがついています。
なのでDAWさえ持っていれば、特に新しいプラグインを買わなくてもMS処理は可能です。
もちろんEQのかかり方や性能はプラグインによって違うので、より高性能・多機能なものを求める人は、有料のものを検討しても良いですね。
Fabfilter「Pro-Q」「Pro-C」
Fabfilterの「Pro-Q」は、有料EQプラグインの大定番です。
かなり多機能で使い勝手がよく、もちろんMS処理にも対応しています。
同じくFabfilterの「Pro-C」というコンプレッサーもMS処理に対応しているのですが、DAW付属のコンプではMS処理にまで対応していないことが多いので、Mid成分やSide成分のみコンプで処理したいという人にはこちらがおすすめですね。
参考: Fabfilter「Pro-Q3」が最強のEQプラグインである5つの理由 – スタジオ翁
iZotope「Ozone」
「Ozone」はマスタリング用ソフトなので、EQやコンプだけでなくあらゆるマスタリングツールが一つのプラグインに入った便利なツールです。
EQとコンプはどちらもMS処理に対応していて、コンプに関しては「マルチバンドコンプレッサー」という複数の周波数を別々にいじれるタイプなので、「高域○○kHzのSide成分だけにコンプをかける」といったかなり細かい調整まで可能となっています。
Fabfilterがミキシングの定番ツールなら、iZotopeの「Ozone」はマスタリングの大定番ソフトで、最近ではAIによる自動マスタリング機能なんかもついているので、高機能なマスタリング用プラグインを探している人はぜひ試してみてください。
Waves「Center」
「Center」はシンプルなパラメーターで、誰でも手軽にMS処理ができるプラグインです。
値段も安いので、「MS処理で音の広がりをコントロールしたいけど、なんか難しそうだな…」と感じている人は、試してみる価値があるでしょう。
MS処理を応用する5つのアイデア
さてここでは、MS処理を使ってワンランク上のミキシングをするための5つのアイデアを紹介します。
気になるアイデアが見つかれば、実際にやってみてその効果を確かめてみてください。
ボーカルのスペースをつくる
ボーカルが他の楽器に埋もれているなら、問題はボーカルチャンネル以外にあるかもしれません。
その場合、ボーカルのメインとなっているおいしい帯域を特定してから、他の楽器のMidチャンネルでその帯域をカットしてみましょう。
ボーカルを無理やりブーストするよりも、良い結果になることがあります。
キックをタイトにする
キック、特にダンスミュージックのキックは、ステレオではなくモノラルであることがほとんどです。
キックに余分なステレオ帯域があると音に締まりがなくなるので、キックをタイトにするためにも100Hz以下のSide成分はバッサリとカットしても良いかもしれませんね。
ミックスの濁りを取り除く
ステレオで聴くといい感じなのに、モノラルで聴くとミックスが少し濁って聴こえるという場合は、ステレオ成分(Side)が多すぎる可能性があります。
低域のSide成分のみをカットしてみるか、中高域のリバーブ成分が目立ちすぎている帯域のSide成分のみをEQでカットすると、いい結果が得られるかもしれません。
ドラムのオーバーヘッドに使う
ドラムのオーバーヘッドに適度な部屋鳴りをプラスしたいなら、Mid成分の高域のみをブーストしましょう。
単に高域をブーストするよりも、自然に広がりや空間を意識させることができますよ。
ダイナミックEQを使ってMS処理を行う
これは、Wavesのブログで紹介されていた方法です。
「F6」というプラグインを使って、ボーカルが再生されている間だけ他の楽器のMid成分のみをダッキングさせると、ミックスのステレオ感に影響を与えることなくボーカルを目立たせることができるというもの。
ちょっと上級者向けですが、気になる人はこちらの動画を観てみて下さい。
MS処理を使って「空間」をコントロールする方法 | まとめ
MS処理は頻繁に使うテクニックではありませんが、ミックスの低域を整えたり高域の空間の広がりをコントロールしたりするのには、かなり使える便利なテクニックだと思います。
もし「どうしても狙った音にならないな…」「もっと自然なカタチで音を調整したい!」という場面があれば、ぜひ「MS処理」のことを思い出してみて下さい。
今日の記事が、みなさんの参考になれば嬉しいです。