Overloud「Dopamine」| 自然な形で音にプレゼンスを与えるプラグイン

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1960年代後半から1970年代前半というアナログ全盛の時代、エンジニアたちの間で「Dolby A Trick」というテクニックが使われていました。

昔はテープで録音をしていたため、「ノイズリダクションシステム」を使ってノイズを抑える必要があったのですが、このノイズ除去に使われた機材を「音の色付け」に活用したのが「Dolby A Trick」です。

ノイズリダクションシステム「Dolby A-361」

Dolby A Trickは、「エンコード」という信号がテープに入力されるまでの前処理と、「デコード」という後処理によってテープノイズを取り除く仕組みで、エンコードには上の動画のような「Dolby A-361」といった機材が使われます。

これは本来、テープのヒスノイズなどを取り除くために使われていたのですが、このエンコード時に高域が強調される特性を利用し、そのままミキシング時の味付けとして利用されるようになりました。

参考: 連載「テープ録音機物語」その66 ドルビー ノイズリダクション

このエンコードによって生み出される音は、単純にイコライザーなどで高域が強調されるわけではなく、マルチバンドコンプレッサーのような仕組みで、音のダイナミクスまでも調整します。

エンコード段階では、入力信号を4つの帯域に分割(最高帯域はオーバーラップ)してダイナミックに圧縮し、ドライ信号と合算して戻します。各帯域の圧縮量は、帯域の音量に反比例します。静かな音はより明るくなり、大きな音はほとんど変化しません。
これにより、新たな高調波成分や歪みを発生させることなく、明るさと空気感を追加し、一般的なエキサイターと比較して、より快適で自然なエンハンサーを実現しています。

マルチバンドコンプといえば、設定次第であらゆる音色のコントロールができる優れたエフェクターですが、設定次第で音色が大きく変化してしまうため、かなり使う人を選ぶ機材でもあります。

ところが、このDolby Aというテクニックに使われる機材は、通すだけでカラッとした透き通るような音色に変化させてくれるため、小難しい音の調整をする必要がありません。

最近、著名なミキシングエンジニアであるJaycen Joshuaが「The God Particle」というプラグインをリリースしましたが、こちらも簡易マルチバンドコンプレッサーを内蔵したプラグインですね。

そんな、インサートしてササッと設定するだけで、ボーカルやシンセの抜けを良くしてくれる機材をプラグイン化したのが、今回紹介するOverloud「Dopamine」になります。

Dopamine – Overloud

Dopamineを通すと、どんな音になるのか?

Dopamineのモデルになっているのは「Dolby A-361 」と「Teac AN-180」という機材ですが、これらの機材を通すと、帯域ごとのダイナミクスが変化し、カラッとした抜けの良いサウンドになります。

ジョンレノンもこのDolby A Trickを使用していたと言われていますが、こちらの動画では、実際にエンコーダーにボーカル音源を通して、音がどのように変化するのかを聞くことができます。

Mixing Tips the “John Lennon” Dolby A Trick Effect. – YouTube

かなり高域が強調されて、抜けが良くなっていますね。

また、動画の後半ではダイナミックEQを使ってDolby Aテクニックを再現していますが、単純にEQでハイを上げるだけではDolby A Trickで得られるサウンドにならないことがわかります。

他にも、Dolby A Trickが使われている楽曲をみてみましょう。

こちらの曲は、誰もがどこかで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

Dolby A Trickによって、かなりわかりやすく高域がエンハンスされており、オケに埋もれない抜けの良いボーカルになっていますね。

実機と同じように、Overloud「Dopamine」はエキサイターやエンハンサーにありがちなアーティファクトを発生させず、「空気感」や「音楽的な明るさ」が加えることができます。

Dopamineはエンハンサーではなく、あくまでEQやマルチバンドコンプレッサー/エキスパンダーによって、元のサウンドを引き締めるためのツールなので、不自然なノイズっぽい音になることがないというわけです。

Dopamineの使い方

Dopamineはシチュエーションに応じて、3つのタイプのエンコーダーを使い分けることができます。

それぞれキャラクターが違うので、楽曲に合わせて使い分けてみましょう。

まず、ボーカルやギターなどの高域のプレゼンスが足りないと感じた時は、361 A-TYPEという最初に表示されるパネルを試してみるのがおすすめ。

361 A-TYPE

基本的には、「DRY(原音)」にDopamineで処理された「WET(エフェクト音)」を足していくことで音質を整えていきます。

「COMP」でコンプレッションをかけると、ダイナミクスの変化とともに周波数のバランスも変化するので、その辺りも注意しつつ調整してみてください。

361 NOISE STRESSOR

次に、右側のパネルをクリックすることで使える「NOISE STRESSOR」モードですが、こちらは中低域の処理にフォーカスした、ボーカル用に設計されたモードです。

中低域をしっかり潰して持ち上げてくれるようなイメージですが、同時に、高域もかなり持ち上がる印象です。

中低域のガッツを出しつつ高域のきらびやかさを出したいなら、このモードを使用してみましょう。

180

最後は、「dbx180」というエンコーダーを再現したモード。

確かにこれを通すと、dbx系コンプのような、中域がグッと前に出てくるガッツのあるサウンドになりますね。

上の2つに比べると、高域の持ち上がりはゆるやかです。

Dopamineを使う際に気をつけること

Dolby-A Trickは、1960年代〜1970年代に流行ったテクニックです。

この時代の録音は、聴いてすぐにわかると思いますが、高域があまりはっきり出ていません。(いわゆるLo-Fiってやつですね)

その時代の録音の弱点を補うために使われていたテクニックなので、現代のデジタル環境であまりに過激に処理してしまうと、不必要に高域を目立たせてしまうことにもなりかねません。

なので処理はほどほどに。ボーカルの歯擦音が目立ったり、キンキンして耳が痛いトラックにならないよう十分に気をつけましょう。

また、エンコード処理によって、音の小さい部分の高域はかなり強調されますが、音の大きな部分では高域はあまり強調されません。

単純にEQで高域を上げるような処理ではないため、こういった特性もしっかり理解して使う必要がありますね。

まとめ

Dopamineは難しい設定なしでサクサク使えるので、僕もボーカルだけでなく、シンセトラックなどに挿してサウンドをカラッとさせたい時にも使っています。

先ほど紹介した動画にもありましたが、やはりEQで単純に高域を持ち上げたものと、「Dolby-A 361」を使ったものでは音が違ったように、Dopamineを使うとEQだけではなかなか出せないサウンドの伸びや輝きを与えられます。

「難しい処理をせず、簡単に音を良くしたい」という人には、ぜひ使ってみてほしいプラグインですね。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Dopamine – Overloud

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