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Pulsar Audio「Massive」

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以前は、マスタリング時やミックスの最終段にUAD「Manley Massive Passive」を使っていたのですが、最近、M1 Macに変えたことでDSPを手放してしまい、Massive Passiveを使わない日々が続いていました。

Massive Passiveはとても滑らかなEQカーブを持っていて、大ざっぱにブーストやカットをしてもミックスが破綻しないので重宝していたんですよね。

そんな中、フランスの「Pulsar Audio」というメーカーがUAD版よりも使いやすい製品をリリースしていまして、なかなか使い心地が良かったので、今回はこの製品の特徴や使ってみた感想を書いていきたいと思います。

Massive – Pulsar Audio

Pulsar Audioについて

Pulsar Audioは2017年に創業された比較的新しいメーカーで、これまでに1176やManley Vari-Mu Compといった名機をプラグイン化して販売しています。

創業は2017年ですが、開発者は15年以上の開発経験を持つ方々だそうです。

ここのプラグインはとにかく使いやすさを重視している印象で、パラメーターの細かい調整ができたり、自分好みの設定にカスタマイズできたりと、UADやその他のビンテージモデリングプラグインにはない機能が詰まっています。

僕なんかは、とにかくEQのカーブやコンプのゲインリダクションといった視覚的な要素に引っ張られて音の調整を誤ってしまうことが多いので、あまり音の動きが視覚的にチェックできる機能は必要ないのですが、それでも細かく作り込まれたUIはとても使いやすいやすく便利さを感じる場面も多々あります。

Pulsar Audio「Massive」の3つの特徴

これまでにもいろんなメーカーからMassive Paasiveをモデリングしたプラグインが販売されていますが、Pulsar Audioのプラグインは何が優れているのでしょうか。

数あるEQプラグインの中で、Pulsar Audio「Massive」を選ぶ理由は3つあります。

  • 実機のパッシブ回路を忠実に再現
  • 使いやすさを重視したUI
  • サチュレーターやオリジナルトランス回路などの追加機能

このプラグインの元になっているManley Massive Passiveは、名前の通り「パッシブ」と呼ばれるタイプのEQで、EQの滑らかさやその挙動に大きな特徴があります。

参考: パッシブ・イコライザー – Umbrella Company

パッシブタイプはQ幅を最小にしてもかなり広い範囲でEQがかかるので、ミックスが大きく破綻することがなく音楽的な調整が可能です。

逆に、Fabfilter「Pro-Q」のような細いQでのカットには向いていないので、サージカルEQと呼ばれるレゾナンスや不要な帯域を取りのぞくための使い方をしたいなら他のプラグインを購入する方が良いでしょう。

とにかく使いやすさを重視しているのがPulsar Audio「Massive」の特徴で、以下のようにいろんな設定を追い込めたり、音作りのための細かな機能も充実しています。

  • 最大8倍のオーバーサンプリング
  • ゲインのステップ幅の調整
  • オートゲイン
  • M/Sモード
  • EQカーブとメーターの表示/非表示
  • Commandキーを使ったパラメーターの微調整

さらには実機にはない機能も積まれていて、トランス回路を「オリジナルの回路」と「Pulsarが設計した回路」から選択できたり、「Drive」ノブでサチュレーションを与えたりすることもできます。

特にこの「Drive」は、Pulsar Audio「Massive」の重要なパラメーターで、これによって実機のような音の厚みを出すことができます。

「明らかなひずみが出るまでDriveノブをブーストし、そこから6dB下げる」という使い方を、Pulsar Audioは推奨しています。

Driveを使うことで適度な倍音が生まれ、さらに低域のコンプレッションによって音の厚みや温かみを生み出します。

※ただし、Driveノブを使ってガッツリ倍音を乗せるなら「オーバーサンプリング」を高めに設定しておくことをおすすめします。高周波から「折り返しノイズ」という不要なノイズが生まれるので、オーバーサンプリング機能によってそれを取りのぞく必要があるからです。

アナログ回路を再現した独特なEQカーブについて

最後に、かなり特徴的なPulsar Audio「Massive」のEQカーブについて見ておきましょう。

一応、マニュアルを見ればプラグインの挙動は全てわかるのですが、英語で書かれているので、大事なところを抜粋してご紹介します。

まず他の一般的なEQと大きく違うところは、「Q幅を変化させるとゲイン量が大きく変化する」というところ。

下の画像は、Q幅のみを変化させた時の周波数応答の変化を表したグラフです。

例えば、Qを狭くしてもEQのかかる範囲は狭まらず、シェイプが微妙に変化しつつゲイン量が大きく上下します。

なので普通のEQの感覚で触っていると「ん?」と感じることもありますが、これは実機の特性を忠実に再現した結果なので、とにかく「音の変化を聞いて判断する」ということが大切だと思います。

高域のシェルビングEQに関しても、Bandwidthを最大に設定した場合、8.2kHzからブーストしたつもりでも実際は8kHzあたりにディップができてしまうので「あれ、8kHzあたりを上げたつもりなのに下がって聞こえるぞ?」となることがあります。

なのでシェルビングEQを使うときは、かけたい周波数の少し手前にEQポイントを設定してあげると良いのですが、これも「数字にとらわれず耳で聞いて判断することを心がける」クセをつけておくとより良いでしょう。

あと個人的に気になったのは、一番左のEQだけ特性が違うということ。

EQカーブは他と同じですが、一番左のEQでブーストすると大きく倍音成分が発生します。

これはマニュアルに載っていなかったのですが、実機の特性なのでしょうか。

サチュレーションノブを回したときよりも大胆に倍音が乗るので、音を大きく変化させたいならこの一番左のノブをうまく使うと良いかもしれません。

まとめ

Massive Passive系のEQはかなりクセがありますが、うまく使いこなせば強力な武器になってくれるでしょう。

音を細かく調整するというよりは、全体のトーナルバランスを整えるという使い方が合っている感じがします。

各楽器を大まかに整えるのにも使ってもいいし、サチュレーションもとても自然にかかってくれるのでマスタリングやミックスの最終段に使っても問題ないと感じました。

いろんなシーンで活躍する便利なEQなので、気になった人はぜひ試してみてください。

Pulsar Audio「Massive」- Plugin Boutique

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?