ミキシングに「倍音」を生かすための3つの方法

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音楽制作をしていると「倍音」という言葉をよく見かけることでしょう。

「この機材を入れると倍音が付加されて…」

「あの人の声は倍音成分が豊かで…」

なんて記事を見たり、音楽好きの友人から話を聞いたりするかもしれません。

今回はこの「倍音」についてのお話ですが、「そもそも倍音って何?」という疑問から「倍音を制作やミキシングに役立て、曲のクオリティを高める方法」まで解説していきます。

この「倍音」をうまく使えば、

  • クリアすぎてつまらないミックス
  • 1つ1つの音が埋もれてしまっているミックス

このようなミックスから抜け出し、よりプロの楽曲に近づけるようになるはず!

まずは倍音の基本について、簡単に解説していきます。

倍音とは?

ピアノの「ド」を弾いた時を例にあげてみましょう。

この時、もちろん「ド」の音が鳴るのですが、実は同時に、実際には触れていないはずの「ソ」や「ミ」の音なども鳴っているのです。

(「え!?」と思った方は、こちらの動画がわかりやすいので参考にしてみてください)

【初心者歓迎】超わかりやすい、楽典解説〜倍音編〜

これはピアノ内部の弦の共鳴によるものですが、例えば人間の声にも倍音成分は含まれており、その成分の違いによって声にバリエーションが生まれます。

同じ「ド」の音でも、それがバイオリンの音なのか、ピアノの音なのか、ギターの音なのかを聞き分けられるのは倍音のおかげとも言えます。

偶数倍音と奇数倍音の違い

もう少し掘り下げていくと、倍音は「偶数倍音」「奇数倍音」という2種類の倍音に分かれています。

これらを理解しやすいよう、「100Hzのサイン波にディストーションでゆがみを与え、倍音を発生させる」という例を見ていきましょう。

倍音付加 1

100Hzのサイン波

サイン波には倍音成分が含まれておらず、100Hz以外の周波数ではいっさい音が発生していません。

これにディストーションプラグインを入れて、倍音成分を与えてみましょう。

倍音付加 2
ディストーションプラグインでゆがませる

するとこのように、今までなかったはず音(倍音成分)が発生しているのがわかりますね。

倍音の基本原理として、基音(100Hz)に対して、2倍, 4倍, 6倍…と偶数倍の倍音が発生していれば「偶数倍音」、3倍, 5倍, 7倍…と奇数倍になる倍音が発生していれば「奇数倍音」と呼びます。

(今回の例では、300Hz, 500Hz, 700Hz…の奇数倍音が発生していますね)

「偶数倍音と奇数倍音の音の違いを聴き比べてみたい」という人は、下の動画の2:05あたりをご覧になるとよくわかるかと思います。

Mixing With Saturation (Essential Tips) 

それぞれの倍音の特徴として、偶数倍音は「調和がとれていて、温かみがある」、奇数倍音は「エッジが効いて荒々しい」などと言われていますが、どちらかが優れているというものではありません。

このバランスによってさまざまな音が成り立っているのです。

倍音がミックスに欠かせない理由

ここまで倍音について簡単に説明しましたが、なぜ倍音は重要なのでしょう?

それはズバリ!

倍音はサウンドに「深み」「キャラクター」「存在感」「温かみ」を与えてくれるからです。

もしあなたのミックスが、クリアすぎて温かみがなかったり、音に深みが感じられなかったり、特定の音に存在感がなかったりするようなら、「倍音」がそれらの問題を解決してくれるかもしれません。

倍音の重要性がよくわかる記事が、Wavesのサイトに載っていたので紹介しておきます。

ハーモニックディストーション(高調波歪み)によって発生する、倍音成分についてのお話です。

歴史を遡って…

プロ用のデジタルオーディオ録音機器が1980年代にスタジオに登場したとき、ほとんどのエンジニアは、録音してミックスした音楽にハーモニック・ディストーションを足すことの重要性を理解していませんでした。当時、すべての録音とミキシングはアナログであり、すべてのアナログ機器は様々なハーモニック・ディストーションを含むため、録音されたオーディオのサウンドには常にアナログ特有の成分が含まれていました。それはまるで、魚に対して「水の中で暮らすのってどんな感じ?」と尋ねるようなものです。

当時、デジタル録音機器は、アナログテープのハーモニック・ディストーションを避けていただけで、レコーディングやミックスで使用されるアナログ機器の持つハーモニック・ディストーションを享受していました。テープのヒス、クロストーク、プリントスルーの除去は歓迎された改善でしたが、デジタル記録は依然として多くのエンジニアには受け入れられていませんでした。デジタルミキシングコンソールが市場に参入したとき、それと同様の反響が起こりました。多くの場合、単純に「アナログの方が音が良い」と揶揄されていました。

デジタル技術の進歩に伴って、クロック、変換器、サンプリングレートが向上するにつれて、デジタルオーディオの品質は大幅に向上しましたが、依然として「特別な何か」が欠けているように感じられました。エンジニアは、アナログ技術が持っていたハーモニック・ディストーション特性こそが、この「特別な何か」ではないかと次第に気づき始めました。

デジタル機器の黎明期ではそれほど必要とされていなかった、アナログ機器特有の「特別な何か」。
今日、技術的なブレークスルーによって、この部分がエミュレーションという形で実現されたことで、私たちがよく知っている、あの親しみやすいアナログサウンドが戻ってきました。

次から、この「倍音」を具体的にミックスに生かすための方法を紹介していきます。

ミックスに倍音を与える3つの方法

どんな音の中にも「倍音」は存在しているのですが、この倍音をミックスに応じて増やしてあげることで、よりミックスの完成度を高めることができます。

音に倍音成分を与えるには、「ハードウェア機材」「ディストーション・サチュレーションプラグイン」「ハードウェアの挙動を再現したプラグイン」などを使います。

実機がプラグインより優れている理由の1つに、「サウンドに適度な倍音を与えてくれる」ということが挙げられますが、最近はこれを再現するプラグインがたくさん販売されているので、高額なハードウェアを購入せずとも倍音成分を与えることができます。

ここから、いくつかの倍音を与えるための方法を見てみましょう。

ディストーション

ディストーションは、倍音を与えるためのもっとも簡単な方法です。

ロックのギターなどはディストーションがたっぷりかかっているので、サウンドが荒々しくかなり存在感がありますよね。

ただ、ディストーションはどちらかと言えば「積極的な音作り」のために使われるものであり、「音に温かみを与える」「倍音を与え、音に自然な存在感を出す」といった使い方をメインにすることはあまりないように思います。

「音に自然な存在感を出す」のなら、これから紹介する「プリアンプ」や「テープマシン」などが良いでしょう。

プリアンプ

NeveやAPIなどのプリアンプを再現したプラグインは、音量をツッコむと「音のキャラクター」が変化します。

「APIはクリアで明るいサウンド」「SSLは中域がふくよかでパンチのあるサウンド」というようにそれぞれ特徴があり、EQやコンプを使ってうまく音圧が上がらなかったり音のバランスが整わないという時は、プリアンプの自然な音の変化をを利用することで問題が解決することが結構ありますね。

「UAD」「Slate Digital」「Plugin Alliance」「Waves」といった多くのメーカーが、ビンテージモデリングプラグインを販売しています。

コンプレッサー

ビンテージ機材を再現したコンプレッサーを使えば、それぞれ独特のキャラクターを与えることができます。

通常のコンプレッサーでも強めのコンプレッションを行えば、ディストーションをかけた時のような倍音を発生させることが可能ですが、「あまり強めにコンプをかけたくないけど、少しだけ倍音成分を足したい(ディストーションは変化が大きすぎので使いたくない)」という時もあるかと思います。

そんな時はパラレルコンプレッションを使って「強めにコンプをかけた音を、うっすら原音に足す」という方法を使えば、コンプで発生するひずみをうまく利用しつつ、原音が大きくくずれるのを防ぐことができるでしょう。

参考: 【保存版】コンプレッサーを理解する – スタジオ翁

テープマシン

テープマシンを使えば、ソフトクリッピングと奇数倍音によって、「適度なコンプレッション」「エッジの効いた中高域」「太いローエンド」などの効果を得ることができます。

暖かくパンチのある音を求めているなら、テープマシンをどんどん使っていきましょう。(実際のテープマシンは高すぎるので、これもモデリングプラグインを使うべし!)

このタイプのハーモニックディストーションは、ミックスに立体感, 厚み, 深みを与えてくれるので、個人的にもとてもおすすめです。

マスターバスに入れれば、ミックスにまとまりや分離感を与えてくれますよ。

倍音を生かした3つのミキシングテクニックと使用プラグイン例

最後に「倍音」を生かしたミキシングテクニックを紹介します。

1. ドラムにパンチとまとまりを与える

ドラムにサチュレーターなどで倍音を与えることにより、アグレッシブでパンチのあるサウンドに仕上がります。

テープマシンを使えば、テープ独自のサチュレーションによって、ドラム全体のまとまりを出すこともできますよ。

例: Fabfilter「Saturn 2」, UAD「Studer A800」

2. ベースに存在感を与える

シンセで作られたベースラインは太くで丸みがありますが、ベースギターのような中高域の存在感が欠けていることがあります。

家庭用スピーカーやスマホだとそこまで低域を再生できないので、このようなベースラインは埋もれてしまう可能性もあるのですが、ディストーションなどで倍音成分を与えることにより、中高域にもベースの存在感を出すことができるでしょう。

例: Soundtoys「Decapitator」

3. ボーカルやシンセの響きを豊かにする

ボーカルやシンセにサチュレーターなどで倍音を加えることにより、「温かみ」「太さ」「キャラクター」などを与えることができます。

「キレイだけど少し存在感のないボーカル」「クリアすぎてつまらないソフトシンセの音」などにテープマシン, プリアンプ, 真空管コンプなどをかけてあげると、一気に存在感が増してミックスで映える音になります。

以下の動画では、Soundtoys「Decapitator」を使用してボーカルに厚みを出していますね。

Mixing With Saturation (Everything You Need to Know)

例: Soundtoys「Decapitator」, Sonnox「Oxford Inflator」

ミキシングに「倍音」を生かすための3つの方法 | まとめ

倍音を意識せずとも曲はつくれますが、他の人より抜きんでたミックスを作ったり、世界に通用する音を作ろうとすると、こういった1つ1つの楽器の存在感を出したり、音にパンチを出したりする作業はとても重要になってくると思います。

ここらへんまで気になりだすと、どうしてもアナログ機材に手を出したくなってしまいますが、高品質なプラグインがたくさん出ているので、まずは気になったものをいろいろ試してみると良いでしょう。

「なんで自分の曲はプロと比べてパンチがないんだろう…」「楽器1つ1つの音が薄っぺらく感じる…」という人は、ぜひこれらの方法を試してみてください。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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