最近、「映画ロケの録音」という新たな仕事に取り組んでいます。
昨年から映画のMAを行っているのですが、やはり自分で録音した音の方が整音もしやすいですし、風の音や衣擦れが入りまくっていたとしても、100%自分のせいなので諦めがつきます。(誰かのせいにすることもなく、精神衛生上とてもよいです)
とはいえ、今までパソコンとにらめっこで音に取り組んでいたインドアな男が、いきなりフィールドに出てカメラマンたちと戯れながら華麗に録音を行えるのかといえば、全然そんなことはありません。
PA現場で少しばかり鍛えられているとはいえ、映画の撮影となると、監督の意向やカメラマンの動きに柔軟に対応しないといけないのでなかなか難しいものです・・・
そんな中、2023年、フィールドに本格的に出陣するにあたって何か良い指南書はないかと探していたところ、こちらの「Production Sound Mixer: notes & thoughts (location sound recording)」という、2022年に発売されたばかりの本を見つけたので、一通り読んでみることにしました。
・Production Sound Mixer: notes & thoughts (location sound recording) – Amazon
(海外ではロケに同伴するタイプのレコーディングを「location sound recording」と呼ぶそうです。)
日本の書籍では、いまいち現場の雰囲気が感じ取れる良書が見当たらなかったのですが、さすがは洋書!
スティーブン・スピルバーグと一緒に仕事をするレコーディング技師のインタビューなども出てきて、「ハリウッドの最新レコーディング事情」を垣間見れるのはとても勉強になりました。
本の内容は、計7人のレコーディング技師にインタビューを行うというもので、ゴツめのカートを持ってハリウッドスターたちと華麗に仕事を行うエンジニアから、インド映画の最前線で活躍する受賞歴のあるエンジニアまで、さまざまな国の人々にレコーディング技師という仕事の「面白さ」「苦労」、そして「どのような機材を使っているか」といったことを聞き回り、一冊にまとめたものとなっています。
参考になったところ
参考になったのは、やはり「どのような機材を使って録音をしているか」という部分。
現在のハリウッドの主流は、「ワイヤレスシステム」らしいです。
ワイヤレスと聞くと、「音が悪いんじゃないか…」と思ってしまいそうですが、最近の機材はワイヤレスとわからないくらい機材の品質が上がってきているらしく、それよりも「ワイヤレスシステムにして機動性を上げないと、スピルバーグのタフな撮影環境についていけない」という納得のお話も出てきました。
確かにロケーションレコーディングの現場は時間との戦いになるので、モタモタとケーブルを介錯していると、現場のノリを崩してしまうのだと思います。
さっそく、僕も「ワイヤレスシステムを構築したい!」となったので、色々調べてみることにしました。
ワイヤレスのマイクシステムに使うのは、こういったトランスミッターのようですね。
このワイヤレス送信機だけで20万円もするので、「さすがに買えないよ…」と悲しくなってしまったのですが、困ったときはYouTubeです。
いろんな方がワイヤレスシステムを構築する方法を紹介していて、中でも「これは使える!」と思ったのが、こちらの動画で紹介されているシステム。
彼はXLRケーブル内蔵型のブームポールを使い、ワイヤレスマイクシステムを作り上げています。
さらには、ワイヤレスモニタリングシステムも構築し、レコーダーが入ったカバンのそばであれば、完全にケーブルフリーで録音ができてしまうという優れたシステムとなっています。
僕もこれを参考に、さっそくオールワイヤレスフリーのシステムを構築してみたので、書評からは少し話が逸れてしまいますが、そのプロトタイプをメモがてらご紹介していきます。
本を参考にワイヤレスレコーディングシステムを構築してみる
動画の方とは持っている機材が違うので、僕なりに手元にある機材を組み合わせて良い環境を作ってみました。
使用機材は、以下の通りです。
- Sennheiser MKE600(マイク)
- Sound Devices MixPre-6(レコーダー)
- Sennheiser AVX-ME2 SET(ワイヤレスシステム)
- Twelve South AirFly Pro(Bluetoothトランスミッター)
- Apple AirPods(モニター用イヤホン)
- K-Tek KE-79CCR(ブームポール)
まず、ブームポールの先に、MKE600を取り付けます。
そして、AVX-ME2セットのトランスミッターをブームポールの音の出口に、レシーバーをMixPreレコーダーのインプットに入力します。(セットのラベリアマイクは使いません)
AVX-ME2のトランスミッターにはファンタム供給できる機能がついていないため、MKE600に電池をいれて、マイクのファンタム電源をオンにしておきます。(本当は、Sound DevicesのA10トランスミッターを使えばファンタムが供給できるのでMKE600以外のマイクも使えるようになるのですが、値段がプロ向けすぎるので購入は諦めました。)
これでワイヤレスのブームマイクシステムは完成です。
次にモニター環境ですが、動画ではRode Wireless Goをヘッドフォンと組み合わせてモニタリングシステムを構築していますね。
この方法でも良いのですが、Wireless Goを使うと、どうしても遅延が出てしまい違和感があります。
さらに致命的なことに、音質が良くないのです。(ここ、重要!)
なので、僕はまず普段から使っているAirPodsを使うことにしました。
Appleストアで販売されている、Twelve South AirFly Proを使えば、音をBluetoothでAirPodsに送れるので、ヘッドフォンよりもコンパクトな環境でモニタリングできるようになります。
「モニタリングはヘッドフォンじゃなくて大丈夫なの..?」
と感じる方もいるかもしれませんが、実際に試してみたところ、音楽スタジオの定番ヘッドフォンである「SONY MDR-7506」と「Rode Wireless Go」の組み合わせよりも、「AirPods」と「Twelve South AirFly Pro」の方が遅延が少なく高音質でした。
このTwelve South Air Fly Proは、さすがAppleストアで取り扱いがあるだけあって、10mくらいなら平気で繋がりますし、一度接続が途切れても近づくと自動的に繋ぎ直してくれるので、とても便利です。
AirPodsにストラップでも取り付ければ、取り外しも容易になるので、このシステムを使わない手はありませんね。(本格的な映画の現場だと怒られちゃうんですかね…? でも、SonyのMDR-7506なんてそこまで高音質でもないので、AirPodsの方が絶対いいと思います)
書評のつづき
さて、こんな感じで素人ながら、ハリウッド並みのワイヤレスレコーディングシステムを構築することができたので、書評に戻ります。
本書は7人のレコーディング技師が、著者の質問に答える形で進んでいくのですが、どんな内容の話をしているのか、いくつかトピックを取り上げてみましょう。
- ポストプロダクションチームとの関わり方
- 台本を受け取ってから録音のアプローチを考えるまでの過程
- サウンドカートの中身
- ロケーションエンジニアの芸術的な側面
- レコーディング技師のやりがいと苦悩
レコーディング技師としての技術的な側面はもちろんですが、仕事への向き合い方から周りのスタッフや監督との向き合い方といったリアルな事情も書かれているので、参考になる部分がとても多かったです。
今からレコーディング技師を目指す人から、世界レベルで仕事をしているレコーディング技師の考え方やテクニックを学びたい人まで、幅広い層におすすめできる内容でした。
英語なので、ざっくり読んでみただけなのですが、それでも多くの学びがありましたね。
ロケーションレコーディングに関するこういった日本の本はなかったので、興味のある人は多少英語が苦手でもぜひ読んでみてください。
・Production Sound Mixer: notes & thoughts (location sound recording) – Amazon
今日は音楽制作の話ではなかったですが、僕の最近の取り組みについてご紹介しました。
自分の楽曲制作にはフィールドレコーディングや録音物も取り入れていきたいので、この経験が今後、作曲にも生きてくると思います。
今後も、音楽制作や音に関する新たな取り組みを続けていくので、懲りずにお付き合いくださいませ。