Andrew Schepsの「Rear Bus Technique」をマスターする

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先月、イギリスの音楽雑誌「SOS Magazine」を読んでいると、パラレルコンプの特集記事が載っていました。

Sound On Soung Magazine

正確には「Multi-Stage Compression」というタイトルの記事でしたが、要はコンプレッサーをチャンネルだけでなくバスで使ったりセンドで送って使ったりすることで、ミックスにまとまりを出したり厚みを与えたりするテクニックのことです。

みなさん、よく耳にするであろう「パラレルコンプレッション」もMulti-Stage Compressionのひとつですね。

この記事にはいくつかの手法が載っていましたが、今回はRed Hot Chili PeppersやAdelなど数えきれないほどの著名アーティストのミキシングを手掛け、グラミー賞にも輝いた経歴をもつAndrew Schepsの「Rear-Bus Technique」という手法について解説していきます。

Rear-Bus Techniqueとは?

「リアバステクニック」と、なんだかカッコいい名前がついていますが、簡単に言えばパラレルコンプレッションの応用です。

参考: 【保存版】コンプレッサーを理解する – スタジオ翁

パラレルコンプレッションとはAuxチャンネルにコンプを用意し、そこに音を送って原音と混ぜ合わせることで、アタック感を保ちつつ音圧やグルー感を与える手法のこと。

「音に厚みを出したいけど、コンプで叩くと、音が奥に引っ込んで迫力がなくなってしまう…」

といった時にこの手法を使うと、音のピークは維持されたままにコンプで潰された厚みのある音が加わり、肉厚でアタック感もしっかり残ったサウンドが出来上がるというわけです。

Andrew Schepsの手法ではドラム以外のすべての音に、このパラレルコンプレッションを行います。

Rear-Bus Techniqueで得られるメリットはいくつかありますが・・・

  • 全体の音がまとまる(グルー感)
  • 全体に厚みとパワーが加わる
  • なのにコンプ感を感じさせない

といったことが挙げられます。

「全体の音をまとめたいから」と安易にミックスバスにコンプを入れると、アタック感が損なわれてイマイチ迫力に欠けてしまうことってありませんか?

そんな時に、このテクニックは大いに役立つでしょう。

使用するプラグイン

さて、このテクニックで使われるのは、「1176」というタイプのコンプレッサーです。

これはFET方式と呼ばれるアタックの早いコンプで、ドラムやボーカルに使うコンプの定番として昔から存在しています。

オリジナルの1176はなかなか手に入らないですが、WavesやUADを始めとする様々なメーカーがプラグインとして販売しているので、気に入ったものを使うと良いでしょう。

Logic Proユーザーなら「FET」というタイプのコンプレッサーを選べるはずなので、そちらを使ってもOKです。

ちなみに1176は、Universal Audioからアナログの実機が今も販売されているので、UADプラグインなら再現性がかなり高いのではないかと思います。最近はUADxというCPUベースで動くタイプのUADプラグインも販売されており、その中に「1176 Classic Limiter」があるのでこちらを使うのでもいいですし、「Arturia」「Pulsar Audio」「Waves」「Slate Digital」などから出ている1176系プラグインを使うのも手ですね。

エンジニアやアーティストの中には、「1176を使わなくても、Rear-Bus Techniqueは使えるよ」という人もいて、この動画の人なんかはWavesのSSLバスコンプを使用してRear-Bus Techniqueを再現しています。

基本的な考え方さえ理解していれば、どんなコンプレッサーを使うのも自由だと思います。

ただAndrew Schepsが1176コンプを使っているというだけなので、慣れてくれば自分の好きなコンプを入れてどれがしっくりくるのか探ってみるのも良いかもしれませんね。

具体的な方法とポイント

そんなわけで「ドラム以外の音をAuxバスに送る」という基本ルールさえ理解できていれば、どんなやり方でも自由なのですが、一応ここではAndrew Schepsさんが行っているという基本的な手順を押さえておきましょう。

  1. アタック遅め、リリース速め、レシオ低めのコンプをAuxバスに用意する
  2. コンプはマルチモノで使う
  3. ドラム以外のすべての音をAuxバスに送る

以上です。とても簡単ですね。

1つポイントとしては、「コンプはマルチモノで使う」という部分でしょうか。

これは、コンプのLRがそれぞれ独立して作用する設定のことで、コンプによってはこれを設定できるものもあれば、設定できないタイプもあります。

こちらの動画ではRear-Bus Techniqueの具体的な方法に加え、Studio Oneの機能を使って「マルチモノ」に対応していないコンプをマルチモノで使うための方法が解説されています。

なぜマルチモノを使うのかというと、左右のコンプレッサーが別々に動作することで、ステレオ感が増すからです。

「ステレオ感」は左右の音の差で表現されますが(左右の音が完全に同じならモノラル)、コンプレッサーがLRどちらかの信号に対してLR同時に圧縮されれば、その分ステレオ感は少なくなってしまいます。

これを避けるためにマルチモノでコンプを動作させる必要があるのですが、ここを細かく調整するなら、以前に紹介した「Unisum」がおすすめです。

Tone Projects「Unisum」| プラグインコンプの1つの到達点 – スタジオ翁

Unisumなら「Channel Link」というノブを使って、このあたりの設定を細かく調整することができます。

あと、本物かどうか定かでないのですが、Andrew Schepsがどこかのオンラインセミナーで公開していたという1176の設定をgearspaceで見つけました。

UADプラグインの1176を使っており、アタックは最も遅く、リリースは早め、レシオは2:1を使っているようですね。

以上が、Rear-Bus Techniqueの具体的な方法です。

まとめ

Sound On Sound Magazineによると、Andrew Schepsは現在、ドラムを含むすべての音をRear-Busに送っているそうです。

ミキシングの巨匠と言えど、常にいろんな手法を試してテクニックをアップデートしているのですね。

必ずしも全員がAndrew Schepsの音を求める訳ではないので、Rear-Bus Techniqueのエッセンスは取り入れつつ、コンプの種類や設定などを自分なりにアレンジしてみて、自分だけのオリジナルバス設定を作ってみましょう。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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