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リッチなボーカルをつくるためのミキシングテクニック7選

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「自分で録音したボーカルは、プロの楽曲に比べると薄っぺらくて物足りないな…」と感じたことはないでしょうか?

声質や歌い方によっては、どうしてもボーカルが細くなってしまうこともあリますが、ミキシング段階でうまく処理できれば、薄っぺらいボーカルを太くしてグッと前に出すことも可能です。

もちろん高価なマイクやプリアンプを使えば良い結果を得やすいのですが、スタジオにあるような機材を使わなくても、ミキシングの基本的な考え方を知り、適切なプラグインを使用することで自分の求めるクオリティに近づけることができるでしょう。

今日は、そんな太くてリッチなボーカルを作るための7つのテクニックをご紹介します。

1. そのローカットは本当に必要?

ボーカル処理では、「まずローカットで余分な周波数を取り除きましょう」「女性ボーカルなら120Hzでローカットしましょう」といった記事をよく見かけると思います。

もちろん録音で入ってしまう余分な低域のノイズを取り除くことで、最終的に迫力のあるミックスに仕上げることができるのですが、この段階で低音をカットし過ぎてしまうとボーカルはかなり薄くなってしまいます。

「100Hzでカット」といっても、12dB/octの緩やかなフィルターでカットするのか、48dB/octの鋭いフィルターでカットするのかでも低音の削れ方がまるで変わってくるので、安易に教科書通りのローカットをすると失敗してしまうかもしれません。

いったんボーカルをソロで聴いてみて低域の余分なノイズをカットし、それからオケとの混ざり具合なども確認してみてボーカルの低域が薄いなと感じたら、フィルターのカーブを緩めてみたりフィルターの周波数を下げたりしてみてください。

ローカットが過剰になっていたなら、この処理によってボーカルに芯が出て、存在感のある音になるでしょう。

2. ノイズ処理をきっちり行う

自宅で録音したものだと、

  • 部屋鳴り
  • 外の電車や鳥の声
  • パソコンのファンの音

このようなノイズが入ってしまうことが多いです。

最近は自宅に防音室を入れる人も増えてきているようですが、値段が高いのと、けっこう場所をとるので誰でも気軽に導入できるわけではありませんよね。

どうしてもこういったノイズが入ってしまう場合は、iZotope「RX」などを使ってきっちりノイズ処理を行なってからミキシングの工程に入りましょう。

ノイズが多いボーカルだと、いくら処理をしてもノイズも一緒にリッチになってしまったり、部屋鳴りを取ろうとEQをかけると部屋鳴りと一緒にボーカルのおいしいところまで削ってしまったりと、なかなか良い結果が得られません。

RXのようなノイズ処理専用のプラグインは、部屋鳴りを軽減する「De-Reverb」や、特定の種類のノイズを除去する「Mouth De-Click」「Spectral De-Noise」など豊富な種類のエフェクトが入っているので、気になるノイズをピンポイントで取り除くことができます。

もちろん録音の段階からノイズが入ってないのがベストなので、防音室を持っていないのなら、録音時にノイズや部屋鳴りを防ぐためのこのようなアイテムを使うのもおすすめです。

Kaotica「Eyeball」- サウンドハウス

3. サチュレーションをうまく活用する

「倍音」という言葉はよく耳にするかと思いますが、サチュレーションを使えばボーカルの倍音を強調させて音をリッチに仕上げることができます。

参考: ミキシングに「倍音」を生かすための3つの方法 – スタジオ翁

サチュレーションプラグインも色々あるのですが、僕が実際に使ってみて好感触だったのは、UAD「Oxide Tape Recorder」です。

上の記事では、Soundtoys「Decapitator」やSonnox「Oxford Inflator」なども紹介していますが、Inflatorは極端に原音の雰囲気を変えることなく自然に倍音を与えることができるので、こちらもおすすめです。

4. リバーブは用途に合わせて複数つかう

リバーブは「ホール」「ルーム」「チャンバー」「プレート」などいろんな種類がありますが、1つのボーカルに1つしか使ってはいけないというルールはありません。

例えば、短いディケイタイムに設定したプレートリバーブはボーカルに適度な厚みを与えてくれるので、ホールリバーブと一緒に使うことで、よりリッチなサウンドに仕上げることができます。

他にもモノラルとステレオの2つのリバーブを使うことで、「まずドライなボーカルが聞こえ、次に真ん中からモノラルリバーブ、そして最後に左右にステレオリバーブが広がる」といった特殊な広がりを与えることもできます。

応用方法はいくらでもありますが、音が良ければそれでOK。

ボーカルや楽曲に合わせて、いろんなリバーブの方法を試してみてください。

5. シリアルコンプレッションで自然なコンプ感を与える

シリアルコンプレッションとは2つ以上のコンプを使って段階的にコンプレッションを行うことで、より自然にコンプ感を与えることができるテクニックです。

参考: コンプレッサーを理解する – スタジオ翁

よくあるボーカルコンプの使い方としては、アタックタイムの速い1176系コンプを使ってピークを抑え、次にアタックタイムの遅いLA-2A系コンプでボーカル全体を緩やかに整えるといった方法があります。

ボーカルのようにダイナミクスの大きい音だと、1つのコンプで一気に圧縮するより複数のコンプで徐々に圧縮した方が、自然な結果が得られることが多いんですよね。

これらは定番のコンプレッサーなので、Waves, UAD, Native Instrumentsなどいろんなメーカーからプラグインが出ていますね。

6. アナログエミュレーションプラグインを使う

スタジオで使われるマイク、マイクプリ、コンプレッサー、EQなどは、それぞれの機材が独特の質感を持っています。

プラグインが物足りないと言われる原因はここにあることが多いですが、プラグインでもアナログ機器の挙動や特性を再現したものが多く出ているので、そういった製品をうまく使うことによってリッチな質感を得ることができます。

例えばボーカルの処理で有名なNeve「1073」マイクプリは、WavesUADなどのメーカーがエミュレーションを出していますし、Knif Audio「Soma」というアナログEQはPlugin Allianceからリリースされています。

こういったプラグインは数えきれないほどたくさん販売されていて、実機を使ったことが無いとなかなか自分に合ったものを選ぶのは難しいかもしれませんが、純粋なデジタルEQなどでは再現できないような独特なかかり方をするので、ここらへんを探求してみるのも面白いでしょう。

7. 楽曲とのバランスを考える

アカペラの楽曲でない限り、ボーカルと楽曲とのバランスを考慮した音づくりをする必要があります。

ボーカル単体で聴いて最高だと思える音でも、実際に楽曲と鳴らしてみるとイマイチということは多々あるかと思いますが、例えばボーカルと同じ帯域に楽器が密集していると、いくら処理してもボーカルを前に出すのは難しくなってきます。

そういった時は、逆に楽曲のほうにEQをかけてボーカルのスペースを作ることでボーカルが自然と前に出てくるようになります。

EQでの処理が面倒なら「Trackspacer」のような、自動でボーカルのためのスペースを作ってくれるプラグインを使うのも良いかもしれません。

ボーカルは単体ではなく、常に楽曲とのバランスを考えてミキシングすることで、ボーカルの抜けや押し出し感が得やすくなるでしょう。

まとめ

ボーカルに関するテクニックはたくさんありますが、一番はやはり楽曲に合わせたボーカルの音づくりだと思います。

「どのくらいコンプをかければいいのか」「EQでどのようなバランスにすればいいのか」「サチュレーションはどれぐらいがベストか」というのは、どれも後ろで鳴っている楽曲に大きく左右されますからね。

そして、いろんなプラグインを差してもなかなかリッチな仕上がりにならない時は、何かを引いてみることも大切です。

ボーカルは、録音環境によってはかなりレゾナンス(周波数のピーク)が含まれているので、それを丁寧に取り除いて上げることで、そのあとのコンプやサチュレーションなどの処理が生きてきます。

いろんなテクニックを試してみて、このボーカルにはこの処理が合うというマイルールみたいなものが決まれば、さらに速くてクオリティの高いミキシングができるようになるでしょう。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?