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Rip X DAW Pro | ステム分離AIを搭載した多機能ツール

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総合評価:

正確なステム分離とオーディオ編集。Apple Vision Proへの対応にも期待。

リット

デメリット

  • 正確なステム分離&書き出しが素早くできる
  • Melodyneのようなオーディオ編集機能
  • iZotope RXのようなオーディオリペア機能
  • ステム分離は即戦力だが、その他の機能はやや中途半端な印象
  • 機能は多いが、操作は直感的ではない

AI機能を搭載したDAWとして、またApple Vison Proに対応することでも話題になっているRipX DAW。

実は、過去にも「DeepCreate」や「DeepAudio」と名前を変えてリリースを重ねており、今回のRipX DAWはバージョン7にあたります。RipX DAWは単にステム分離するだけでなく、Melodyneのようにピッチ補正をしたり、iZotope RXのようにノイズを取り除いたりできるオーディオリペアツールとしての側面もあります。

ひとつ気をつけたいのが、RipX DAWは、Pro Tools、Cubase、Logic Pro、Ableton Liveのように作曲や録音をするためのDAWではなく、どちらかと言えばRipX DAWはオーディオを編集するための専門ツールだということ。

なので、「音楽を作りたいからDAWが欲しい!」という方は、他のソフトを検討した方が良いでしょう。

高品質なステム分離機能、AIを使ったリミックスやオーディオ編集に興味を持つ方には、なかなか魅力的なツールとなっています。いくつかの機能をチェックしながらその魅力に迫ってみましょう。

RipX DAWのAIステム分離の実用性

ステム分離はかなり高品質で、以下のようなステムに綺麗に分離することができます。

  • ボーカル
  • ドラム/パーカッション
  • ギター
  • ピアノ
  • ベース
  • ストリングス
  • キック
  • その他の楽器

Logic Proにもステム分離機能があるのですが、LogicProだと4つのステムにしか分離できません。RipXはそれより多いステム分離が可能となっているので、より細かいステムに分離したいならRipXの方がおすすめです。

個人的な活用方法をご紹介すると、SunoAIで音楽のラフを作り、それをRimix機能で編曲し、編曲したものをRipX DAWでステム分離して元のラフ音楽と組み合わせて展開をつけていく、という流れで活用しています。

これは、動画のBGMなどを作るのにとても効果的で、とにかくアイデアを出しまくって、RipXで分離したパーツをパズルのように組み合わせるという方法です。

最近は様々なステム分離ツールが出ていますが、RipXが一番素速く操作でき、分離性能も良いので重宝しています。

ピッチ補正ツールとしてのRipX DAW

ホームページでも紹介されていますが、RipXにはたくさんのユニークな機能が搭載されています。

まずピッチ補正ツールとしての機能ですが、これはMelodyeのように波形のピッチを変更したり、特定のノートのフォルマント、音量、パンなどを微調整することができます。ピッチ描画ツールという、クリックしてドラッグするだけでピッチの微調整やスライドができる面白い機能もついています。(実際に使うかどうかはわかりませんが…)

RipX DAWにはオーディオリペアツールとしての側面もあり、楽器やボーカルの成分を別々に編集することも可能です。たとえば、Harmonic Editorを使えば、音の倍音を調整し、失われた低音を取り戻すこともできます。

さらに、バックグランドノイズを除去することでレコーディングの品質を向上させたり、レコードからリッピングした音楽のハムノイズを低減させたりと、簡易的ではありますがiZotope RXのような機能も併せ持っています。

あと、見逃せないのがリミックスツールとしての機能です。正直、僕はこの機能にかなり未来を感じました。

今は、Ableton LiveなどのDAWでも、

  1. ある楽器のメロディをMIDIに変換
  2. 他の楽器でそのメロディを再生

という風に、メロディはそのままに楽器を差し替えることができますが、RipX DAWではこれをワンクリックで行うことができます。差し替えられる楽器は限られているのですが、メインメロディを奏でるバイオリンをフルートに変えたり、キックを808キックに変えたりといったことが瞬時にできるようになっています。

まだ実用レベルとは言えませんが、こういったところも今後が楽しみなDAWだなとワクワクさせてくれます。

マニアックすぎる機能も…

これはかなり使う人が限られそうですが、まるでプログラミングのように、どこをどう調整して欲しいかを指示する「RipScript」という機能も存在します。

例えば、「もっとリバーブをかけて」「エコーの音量を上げて」といった指示を、スクリプトで伝えることができる機能です。WavtoolというブラウザベースのDAWでも同じようなことができるので、真新しい機能ではないのですが、こういった機能の開発にもっと力を入れて、文字で指示するだけで簡単に音楽が作れたり編曲できるようになって欲しいですね。これも今後の開発に期待です。

RipX DAWの代替ツールいろいろ

最後に、RipX DAWの代わりになるツールをいくつか挙げてみます。

  • Logic Pro
  • Moises
  • LALAL.AI
  • Audacity (Windows)
  • Gaudio Studio (Free)
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これらはステム分離ツールなので、いろんな機能を併せ持つRipX DAWと単純に比較することはできませんが、ステム分離の機能だけを探しているなら、ここらへんのツールがライバルになるでしょう。

性能だけで言えば、やはりMoisesが良いです。分離できる楽器も多いし、BPMも自動検知してくれるのでとても使いやすいです。ただし、Moisesはサブスク料金がかなり高いので、僕は今のところRipX DAWでステム分離をしています。BPMに関しては後から手動で調整することになるので少し面倒ですが、値段と使いやすさを考えると総合的にRipX DAWが良いなと感じています。

まとめ

もしLogic Proを持っているなら、ステム分離ツールとしてRipX DAWを購入する必要はないかもしれません。RipX DAWの方が細かいステムに分離できるので、Logic Proや他のステム分離ツールを使っていない方は、RipX DAWを購入する価値はあると思います。

ステム分離以外の機能は、正直使いづらいので、本格的なオーディオリペアツールやピッチ補正ツールとしての導入も考えているなら、それ専用のツールを購入する方が良いでしょう。

今後のアップデートが楽しみなツールでもあるので、迷っている方は今後のアップデートも期待しつつ、購入して使い込んでみるのも良いかと思います。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?