総合評価:
現代的なミキシングツールの数々と、進化したAIミキシング機能が魅力
メリット
- 充実したミキシングツール群
- AIによるミキシングアシスト
デメリット
- AIは完璧ではないので、自分で微調整する必要がある
iZotopeのミキシングツール「Neutron」がバージョン5にアップデートされたので、サクッと使用感を見ていきます!
Neutronは初代以来、しばらく使っていませんでしたが、最新バージョンではAIの精度がかなり向上し、ミキシングツールも増え、多彩なアプローチが可能になっています。(これ初心者には使いきれないだろ…ってくらいツールが増えててびっくりしました)
AI機能はどのくらい使える?
まず、NeutronといえばAI機能ですね。これがどれくらい実用的なのか、いくつかの楽器で試してみました。
結論としては、「Neutronに完全にミキシングを任せるのは難しいけど、指標としてはとても役立つな」と感じました。
理想的には「AIが各楽器を聞き分け、製作者の意図に沿った、完璧なエフェクト処理をしてくれる」のが一番良いでしょう。しかし、一般的な楽器であるドラムやギターならともかく、複雑な音色のシンセサイザーや民族楽器になると、製作者の意図する理想の音に仕上げるのはまだまだ難しいようです・・・
なので、ベストな使い方としては、
- 楽器の調整に迷った時、まずはAIにミキシングしてもらう
- AIミキシングの結果を参考に、各ツールを自分の好みに調整していく
という感じが良いでしょう。
新しいNeutronには、音楽制作を始めたばかりの人なら絶望してしまうほど多くのミキシングツールが搭載されていますが、パラメーターが簡略化され一画面にまとまっているので、ツールの詳細な機能を理解していなくても、直感的に音を整えることができます。
さらに細かく調整したい場合は、各ツールに入ってパラメーターを微調整することで、理想の音に仕上げることができます。個人的な感想としては、AIを使うとちょっと大袈裟な音に仕上がったり、音が前に出すぎてしまうので、いくつかのパラメーターを緩めて調整していくことが多いですね。
次に、内蔵されている各ミキシングツールを見ていきます。
EQ
トランジェントとサステインの2つを、別々に処理できるEQがとても実用的です。
これは以前にも紹介したSplitEQで同じことができるのですが、他にもいろんなミキシングツールが入ったNeutron5を買う方がお得かもしれません。
Eventide「SplitEQ」| トランジェントをコントロールできる画期的なEQ – スタジオ翁
SplitEQが出た時は「なんて画期的なんだ!」と思いましたが、あっさりとNeutron5にも導入され、iZotopeの技術力の高さを感じます。
Unmask
EQに似たUnmaskというモジュールを使うと、対象となる音に対してマスキング周波数を自動で取り除いてくれます。
マスキングを取り除いてくれるプラグインといえば「Trackspacer」が有名ですが、Trackspacerがざっくりとしかマスキングを取り除けないのに対し、Neutronのマスキング機能ではSensitivity、Attack、Releaseなど細かい挙動をコントロールすることも可能です。
マスキングを取り除いて、各トラックのスペースを確保してあげることは、クリアで音圧の高いミックスの鍵となります。この機能は、初心者から上級者までかなり使えるなと感じました。
Compressor
コンプレッサー部分は、DAW付属のコンプレッサーと機能的にはさほど変わりません。 ただ1つ、「Punch」「Modern」「Vintage」という3つのキャラクターを付与できる「キャラクターボタン」が付いているので、自分の作っている曲に応じてコンプレッサーのキャラクターを変えてあげることができます。
Density
最初、これが何をするツールかわかりませんでしたが、「アップワードコンプレッサー」というタイプのコンプレッサーのようです。
コンプレッサーがアタック部分を潰すのに対し、アップワードコンプレッサーはアタック部分を残したまま、スレッショルド以下の音を持ち上げることで、ダイナミックを整えるタイプのコンプレッサーです。 アタック部分が潰れないので、音の迫力を残したままダイナミクスを整えたい時に使えます。 実際にパラメーターを上げていくと、アタック部分は潰れていないのに、音圧が自然に上がっていくので、バイパスして聞き比べたときにちょっと感動しました。
アコースティックギターなどのアタック部分が大切な楽器に対して、自然なコンプレッションをかけたい時に使うと良いと思います。
Exciter
エキサイターとは音に倍音成分を加えることで、音をリッチにしたり、ミックスの中で目立たせるようにするためのツールです。
これはOzoneにも入っているいますが、Neutronに入っているエキサイターはもう少し過激にかかるようになっています。同じくiZotopeから出ているTrushというディストーションプラグインの一部もここに入っていて、かなり大胆に音を歪ませることもできますし、Dry/Wetを使って目立たない程度に歪みを加えることも可能です。
Tape、Tube、Overdriveなど、合計8つ の中からエキサイターの種類を選ぶことができます。
Clipper
最近、クリッパープラグインを見かけることが多くなった気がします。
クリッパーは音のピークをぶつ切りにすることで、音圧を上げたり歪みを加えたりするためのツール。ヒップホップや激しめのダンスミュージックにはかなり重宝しますし、それ以外のジャンルの音でも、楽器に軽くかけることで音圧を出したり、音を前に出したりすることができます。
Soft ClipとThresholdのみというシンプルな作りですが、 マルチバンドにも対応しているので、特定の帯域だけをクリップさせることも可能です。
Transient Shaper
僕は普段、SPLのTransient Designerを使っていますが、NeutronのTransient Shaperはアタックリリースの設定だけでなく、カーブも選べるので、どのくらいトランジェントを強調させたいかを細かくコントロールできるのがとても便利ですね。
SPLは気に入ってたのですが、こっちでもいいのかもしれない・・・
しばらく使い込んでみます。
Sculptor
これは、AIがターゲットとなる楽器を決め、それに合わせて動的なイコライザー処理をしてくれるツールです。 これも結構使えますが、自分が求める音がある場合、むしろこのツールは使わない方が良いでしょう。
「この楽器、普段ミキシングしないからどうやって調整したらいいかわからない」といった時に役立ちそうです。
Phase
フェイズツールは、位相を整えることで音が打ち消しあうのを防ぎ、音に芯を出すためのツールです。
例えば、太いキックを作ろうと、2つのキックを組み合わせた結果、逆に迫力のない音になってしまった経験は無いでしょうか?それは2つのキックの位相が合っていない状態だからです。
位相に関しては、電子音楽よりも生楽器の方がシビアだと思います。普段から生楽器を複数のマイクで録音する方は、このツールがかなり役立つでしょう。
参考: ハース効果があなたのミックスを台無しにする – スタジオ翁
まとめ
Neutron5はAIと組み合わせて使うのも良いですが、 各モジュールのクオリティーも高いので、AIを使わずにモジュールだけで自分自身でミキシングする方法もおすすめ。
特にトランジエントとサステインを個別に処理できる「EQ」、アタック部分の音を変えることなく圧縮できるアップワードコンプレッサーを備えた「Density」、最近流行りの「Clipper」、 位相を整えて音にパンチを出す「Phase」はぜひ試して欲しい機能です。
Neutron5をひと通り使ってみて、マスタリングだったら確実にOzoneなどのAIを使ったほうが良いと思いますが、ミキシングに関しては作り手の個性が大きく反映されるプロセスなので、正直、AIの出番は少ないかなと感じました。その代わり、Neutron5には上記のような、多くのミキシングツールが内蔵されているので、もしあなたがトランジェントデザイナーやクリッパーなどを今から個別に集めるつもりなら、Neutron5を一つ買って使い込むのもアリだと思います。
今後もどんなアップデートがあるのか楽しみですね。
以上、Neutron5のレビューでした。