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Marshmelloに学ぶ、現代エレクトロニック音楽の作曲法

marshmello

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Issey
作曲家、音響エンジニア
23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

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エレクトロニックミュージック界隈で人気のMarshmelloが、自身のYouTubeで制作過程を公開していたので観てみました。

「Marshmelloはあんまり興味ないな…」と思いつつも観てみると、意外とタメになる情報が多かったので、この動画から学んだ5つのことを記事にまとめてみます。彼のようなEDM系の音楽を作る人じゃなくても、参考になることがたくさんあると思いますので、気になった方は動画もあわせて観てみてください。

僕が動画から学んだことは、以下の5つです。

  1. OTTをたくさん使おう
  2. EQはAbleton付属でも十分
  3. OmnisphereとSerum最強
  4. アナログでしか出せない質感はある
  5. 定番プラグイン多め

これを順番に見ていきましょう。

1. OTTをたくさん使おう

彼はプロダクションのいろんな場面でOTT使っています。

OTTとはAbleton Liveに付属のマルチバンドコンプレッサーのことです。もともとEDMアーティストの間で定番のVSTプラグインだったのですが、いつの間にかAbletonに内蔵されていました。マルチバンドコンプといっても取り扱いはそれほど難しくなく、ただプラグインをさすだけでも結構激しめのサウンドになります。

マルチバンドコンプレッサーの使い方と実践 – スタジオ翁

ハイ、ミッド、ローと分かれていて、好みに応じてそれぞれの帯域におけるコンプのかかり具合を調整するだけで、簡単に音の迫力を出すことができる優れもの。

正直、OTT自体は何年も前から知っていたものの、音がバキバキになりすぎるんじゃないかという先入観からあまり使っていませんでした。

もとから激しめの音、例えばsupersawなどに使うともっとバキバキになってしまい、完全にEDM寄りのサウンドになってしまうのですが、ちょっとアタック感が弱い音や前に出てこない音にOTTをさすと、音がいい感じにグっと前に出てきてくれるので、最近はちょっとづつ使う頻度を増やしています。

僕のようにOTTに抵抗がある人も、がっつり音圧を上げるツールとして使うのではなく、埋もれた音を目立たせるためのツールとして使えば良い効果を発揮してくれると思います。

2. EQはAbleton付属でも十分

僕がミキシングやマスタリングにこだわっていることもあり、EQはFabfilterMAAT、KIRCHHOFFなどいろんなプラグインを普段から使っているのですが、このクラスのアーティストであってもAbleton LiveのEQを多用しているのを見ると、「あっ、これで十分なんだ」と感じさせてくれます。

もちろん彼のような人気アーティストなら、優れたミキシングエンジニアやマスタリングエンジニアがついているのかもしれませんが、少なくともAbletonのEQでも彼の思い描くような音にはなっているから、Pro-QではなくDAW付属のEQを使っているのだと思います。AbletonのEQならわざわざプラグイン画面に入らなくても瞬時にEQカーブを見ることができたり、動作が軽かったりといいところもたくさんあるんですよね。

僕も必要以上にPro-Qを使わず、普段は操作性重視でAbleton付属のEQを使い、必要に応じてPro-Qなどの細かい部分まで調整できるEQを使っていこうと思います。

3. OmnisphereとSerum最強

この動画では、シンセサイザーはほとんどOmnisphereSerumしか出てきません。

このモダンで特徴的なベースサウンドはどうやって作ってるんだろうと思っていたのですが、Serumだったのですね。一昔前ならNative InsturmentsのMassiveだったと思いますが、今はSerumを使う人がとても多く、この手のサウンドは大体Serum一本あれば作れるのでしょう。

OmnisphereもEDM系のサウンドだけでなく、アナログシンセや民族楽器の音まで幅広いサウンドを内蔵しているので、僕もかなり頻繁に使っています。前にニュースレターでも取り上げた著名アーティスト(誰だったか忘れてしまいました)も、自分の作品に必ず使うシンセプラグインとしてOmnisphereの名前を挙げていました。

エレクトロニックミュージックを作るなら、この2つのシンセを持っておいて損はないと思います。

4. アナログでしか出せない質感はある

彼は動画内で、ベースの音にだけはアナログシンセを使っていると言っています。

「Super 6」と言っているので、多分これだと思います。

UDO Audio ( ユー・ディー・オー オーディオ ) / Super 6 Black

こういうちょっとした部分にアナログの機材を使っているところを見ると、アナログとデジタルの利便性をうまく制作に活かしているなと感じます。Serumで作るようなサウンドはアナログシンセでは作りにくいので、プラグインで作ってしまった方が良いでしょう。

一方で、アナログシンセにしか出せない質感というのももちろん存在しているので、そういった部分はうまくアナログシンセを活用し、無理にプラグインにアナログ感を持たせる努力はしない方が良いなと思いました。

5. 定番プラグイン多め

動画を観ていても、「なんだこの見たことないプラグインは?」ってことが少なかったです。

音作りにこだわりを持っているアーティストだと結構特殊なプラグインを使っていることが多いのですが、彼は「Serum」「Omnisphere」「Crystaline」「Fresh Air」「Valhalla VintageVerb」といった、わりと色んなチュートリアル動画で紹介されているような定番プラグインを使うことが多いみたいですね。また、UA「Pultec EQ」やMelda Production「MWaveShaper」などのフリープラグインも使われています。

中には、Baby Audio「Humanoid」「Transit 2」やMelda Production「MPolySaturator」といった変わり種もありましたが、基本的にはミキシングに使っているプラグインはシンプルだったので少し意外でした。

これは「シンセの音作りやサンプルの音選びがきちんとハマれば、ミキシングプラグインは最小限に抑えられる」ということだと思います。彼の場合はEDMっぽいシンプルな音が多めなので、シンプルなプラグインチェーンでうまくまとまっているというのもあると思いますが。。

まとめ

彼の音楽は僕の作るジャンルとは違っていますが、世界中の名だたるフェスにも出演するMarshmelloの貴重なスタジオ動画が観られたのは、とても興味深かったです。

YouTubeを観てテクニックを学んでるという趣旨の発言もしていて、「やっぱ、こんな大物でも僕らと変わらない環境でやってんだな」と少し勇気をもらえました。

大きな驚きはありませんでしたが、こういったチュートリアル動画はたまに見ると面白いですね。

また、気になった動画があれば、ブログで紹介していこうと思います。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?