マスタリングのEQってどうすればいいの?具体的な設定方法やコツが知りたいな。
今日は、こんな疑問に答えます。
マスタリングは文字通り楽曲の最終調整なので、ここで失敗してしまうとすべての苦労が台無しになってしまう可能性もあります。
この段階でのEQ処理は、音作りやミキシングで行うようなEQの使い方とは少し違うので、マスタリング段階でのEQの使い方やコツ、気をつけるべきことなどをしっかり把握しておきましょう。
この記事でわかることは、以下の通り。
- マスタリングでEQを使う理由
- 実際のマスタリングの手順
- マスタリングEQのコツ
- マスタリングEQで気をつけること
- おすすめのマスタリングEQ
「そもそもEQ(イコライザー)って何?」という人は、以前の記事でEQの基礎をサクッと解説しているので、先にこちらをご覧下さい。
まずは、マスタリングでEQを使う理由から解説していきます。
マスタリングでEQを使う3つの理由
マスタリングでEQを使うのには、次の3つの理由があります。
- 迫力のあるミックスに仕上げる
- ミックスにカラー(色味)を与える
- ステレオバランスを整える
1つづつ見ていきましょう。
迫力のあるミックスに仕上げる
EQを使えばミックスバランスを整えたり、リスナーに聴かせたい帯域を強調して、迫力のあるミックスに仕上げられるのはもちろんのこと・・・
迫力のあるミックスを作る上で欠かせないのは、実はカット方向のEQなんです。
なぜならマスタリングで音圧を上げる作業をする時、不要な帯域がたくさんあると音圧が上がりきらないから。
ついついブーストによって音に迫力を出そうとしがちですが、いらない帯域をカットすることが、最終的に全体の音圧を上げて迫力のあるミックスをつくることに繋がるというわけです。
ミックスにカラー(色味)を与える
プロはアナログ機材を使うことによって、楽曲にその機材独特のキャラクターを与えていますが、スタジオにあるような機材は数十万〜数百万するので、とても一般の人が買えるようなものではありません。
かと言って、僕たちDTMerにはどうしようもないから諦めるといった話でもないのです。
実は「UAD」「Slate Digital」「Plugin Alliance」などのメーカーが、ビンテージ機材や名機と呼ばれるプロの機材をプラグインとして再現しています。
なので、このようなソフトを使えば、一般の人でも手軽に名機のサウンドを手に入れることができるのです。
ステレオイメージを整える
ステレオ感を整えるには「ステレオイメージャーを使う」という印象があるかもしれませんが・・・
MS処理という、モノラル成分とステレオ成分を別々に処理する方法を使えば、EQでもステレオイメージを整えることができます。
これについては、後半のMS処理の項目で詳しく紹介しますね。
実際のマスタリング手順
マスタリングのEQって、どの位置にインサートすればいいのか迷いませんか?
僕はどの順番でEQを挿せば正解なのかをいつも考えていたのですが、海外の記事をいくつか見みると、ある程度みんな同じような場所にEQを挿しているのに気付きました。
今回は「Mastering The Mix」の記事中で紹介されていたマスターチェーンを参考に、どの手順でEQ処理をするのがベストなのかを探っていきましょう。
まず、記事で紹介されていたプラグインの順番は、以下の通りです。
3番目のマルチバンドコンプは「使う人」と「使わない人」に分かれるかと思いますが、他はある程度「うんうん、そうだよな。」と納得できる順番だと思います。
ここで注目すべきなのは、マスターに2つのEQプラグインが入っているということ。
記事中でも解説されているのですが、最初のEQは主に「カット方向」で使われています。
最初のEQでミキシングで取りきれなかった不要な帯域をカットしたり、MS処理によって低域の無駄なステレオイメージを取り除いたりしています。
ここでは・・・
- 重すぎるトラックは、50Hz以下の超低域をカットする
- モヤッと曇りがちなミックスは、150〜350Hzの中低域をカットしてみる
- 低域が広がり過ぎているなら、MS処理によって200Hz以下のステレオ成分をカット
このように「不要な帯域を取り除く」作業がメインとなります。
もちろんDAW付属のEQでも大丈夫ですが、「Fabfilter Pro-Q 3」や「Brainworx bx_digital V3」といった、より細かい処理ができるEQプラグインを使うのもおすすめですよ。
一方、後半の「Analogue EQ」ではトラックの味付けをするためにEQが使われています。
ここでは「Manley Massive Passive」というUADプラグインが使われていますが、これはブースト目的ですね。
具体的には・・・
- 100Hz以下をブーストして、ローエンドの温かみを得る
- 3〜7kHzをブーストして、トラックの明瞭度を上げる
- トップエンドのブーストによって、きらびやかさを与える
このような処理で、ミックスをさらにクオリティの高いものに仕上げます。
この段階では、実機の温かみやビンテージ独自のキャラクターを与えることも目的のひとつなので、UADプラグインなどのアナログ系EQを使うとより効果が高くなるでしょう。
マスタリングEQの8つのヒント
ここでは、マスタリング時に参考になりそうなEQのヒントをいくつか紹介します。
1. ヘッドフォンを使う
低域のEQは、部屋の環境が整っていないとかなり難しいです。
家にしっかり吸音材が入っていたりサブウーファーが設置してあるなら大丈夫かもしれませんが、しっかりと低音のでるヘッドフォンで行うのが一番確実でお金のかからない方法でしょう。
このブログでも何度かおすすめしている「PHONON SMB-02」か「Ultrasone Signature Master」なら、しっかり超低域まで感じて処理することができるのでおすすめです。
2. メータープラグインを使う
Logic Pro XなどのDAWには、メータープラグインがあらかじめ内蔵されているので、耳だけに頼らず、こういったメーターを使ってマスタリングをしていくのがおすすめです。
メータープラグインを持っていないという人は、無料のアナライザー「SPAN」などを使ってみるのも良いでしょう。
参考: SPAN – Voxengo
人間の耳は錯覚やバイアスが働くので、意外と役に立たない時もありますからね。
3. 0.25〜0.5dB単位でEQ処理をする
マスタリング段階では、少しのEQが大きな変化をもたらします。
ミキシング時のように大胆なEQはせず、軽いタッチで済ませるようにしましょう。
マスタリングの作業では、わずかなEQがミックスにどのような変化を与えているのか、よく聴いて判断する必要があります。
4. リニアフェイズEQを使う
「リニアフェイズEQ」は、おそらくどのDAWにも入っています。
普通のEQは「ミニマルフェイズEQ」と呼ばれていますが、リニアフェイズEQは位相の変化が少ない、主にマスタリング用途で使われるEQのことです。
位相変化が少ないと、EQをかけても音が大きく崩れることがないので、繊細な作業が必要なマスタリングでは重宝されますが・・・
「そんないいEQがあるなら、全部リニアフェイズEQでいいじゃないか!」
そう言われてしまいそうですが、リニアフェイズEQにも実は悪い部分がありまして…
- CPUを大量に消費する
- プリリンギングという現象が起こる
- 低域の処理があまり自然ではない
こういったデメリットがあります。
なので、低域・中低域にはミニマルフェイズEQ、中高域・高域にはリニアフェイズEQという風に使い分ける人もいますね。
なみにプリリンギングとは、少し早めにアタック音が再生されてしまうことで、音がなまってしまう現象のことです。
なので、いくらリニアフェイズといっても過度なEQは禁物。
それぞれの長所や短所を理解した上で、使い分けるようにしましょう。
5. MS処理でステレオ成分をコントロールする
MS処理といって、音をモノラル成分とステレオ成分に分けてEQをかけることで、ステレオイメージを調整することができます。
これはDAW付属のEQでもできますし、MS処理専用のプラグインも販売されているので、そっちを使ってみても良いでしょう。
詳しくは、こちらの記事にまとめてあるので、興味があればご覧ください。
6. A/Bツールで比較する
「Plugin Allianceの個人的なおすすめプラグイン8選」でも紹介していますが、必ず「Metric AB」などのA/B比較ツールを使って、自分が参考にしている曲と比較しながらマスタリングすることをおすすめします。
どれだけ完璧だと思っていても、実際にプロの曲と比べると、どこか物足りなかったり特定の帯域が出過ぎていたりするので、必ずリファレンス曲と比較しながら作業するようにしましょう。
7. 周波数ごとにマスタリングする
これもリファレンス曲をもとにマスタリングしていくという方法ですが、EQプラグインを使って帯域ごとに細かく調整していくと、よりプロの楽曲に近づけることができます。
僕は「帯域別ミキシング」と勝手に読んでいますが、詳しい方法はこちらの記事にまとめているので、これも興味があればご覧になってみて下さい。
8. マッチEQで理想のミックスに近づける
DAWによっては、「マッチEQ」というプラグインが入っています。
これは、ある曲の周波数特性をマッチEQが解析し、その特徴を今作っている曲に適用してくれるというもの。
どうしても理想の曲に近づけないという時は、こういったEQ便利ツールを使って無理やり理想のミックスに近くという方法もあります。
ただ、マスタリング段階で大きくEQで変化させてしまうと、音が悪くなったりバランスが崩れてしまうことがあるので、そのEQを参考にしながら、ミキシングに戻ってもう一度ミックスし直してみるのが良いかもしれませんね。
マスタリングEQで注意すべきこと
ここでは、マスタリング時のEQ処理で気を付けたい3つのことを紹介します。
3dBを超えたブーストやカットはしない
マスタリングで5dBとか10dBのブースト・カットをしないといけないなら、確実にミキシング段階で問題があります。
もしEQでのブーストやカットが3dBを大幅に超えそうなら、もう一度ミキシング段階に戻ってバランスを整え直してみましょう。
なるべく広いQを使う
細いQは、音を不自然に変化させてしまいます。
特定の周波数をピンポイントでカットするなら細いQでも問題ありませんが、基本的にはマスタリング時のEQは広いQで行い、自然なEQ処理を心がけるのが良いでしょう。
マスタリング処理は少ないほど良い
マスタリングは「しない」のがベストです。
ミキシングが完璧ならマスタリング処理はほとんど必要ないので、ミキシングの問題をマスタリングで解決しようとせず、まずはミキシングの質を高めることに力を注ぎましょう。
ちなみに音源にもよるでしょうが、プロのマスタリングエンジニアが1.5dB以上のブーストやカットをすることは滅多にないとも言われています。
マスタリングにおすすめな7つのEQ
DAW付属のプラグインは優秀なので、もちろんマスタリングに使うこともできます。
ただ「もっと細かい調整がしたい」「アナログっぽい味付けをしたい」ということなら、この記事で紹介しているEQが役に立つでしょう。
マスタリングのレベルを上げたいという人は、ぜひこれらのプラグインも試してみて下さい。
まとめ
以上、マスタリングのEQについての解説でした。
マスタリングに唯一の正解はなく、マスタリングの工程というのもエンジニアや国によって大きく異なります。
中にはリスナーの年齢によってマスタリングの方法を変えるエンジニアもいて、この記事で紹介されているのは、リスナーが18歳以下ならダイナミクスを低くして高域(ブライトネス)を上げるというもの。
参考: 英メトロポリスのエンジニアが語ったマスタリングのトレンド。スマホやインスタ対応が必須に
インスタなどのSNSによっても、マスタリングの方法が違うというのもおもしろいですよね。
世界のマスタリングトレンドを把握するなら、この記事は必見ですよ。
今日はいくつかの具体的なテクニックも紹介しましたが、もっと具体的なTIPSを知りたいという人は、こちらのwavesの記事がとても参考になります。
あとはYouTubeなどにもマスタリングに関する情報が載っていたりするので、そういったものも参考にしながら、マスタリングの腕を磨いていって下さい。
この記事が、みなさんの参考になれば嬉しいです。