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【GEAR SUNDAY】Billie Eilishのスタジオ機材

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今回「Gear Sunday」で紹介するのは、先日のグラミー賞で39年ぶり史上二人目となる「主要4部門4冠」を達成した「ビリーアイリッシュ」です。

Billie Eilish – bad guy

今年の2020年9月に横浜アリーナでの初来日公演も決まっているビリーですが、彼女のスタジオはなんと兄のベッドルームです。 そしてその機材にかかっているお金はわずか3000ドル以下、つまり30万円以下とも言われています。

参考記事: Billie Eilish’s Bedroom Studio Costs Less Than $3,000 — What’s Your Excuse?

30万円は「わずか」じゃないよと言われてしまいそうですが、グラミー賞を取るようなアーティストは機材に何百万円と大金をかけていることも珍しくない中、史上2度目となる主要4部門4冠を達成するようなアーティストのスタジオが30万円程度しかかかっていないというのは驚きではないでしょうか。

昔に比べて機材の値段がかなり下がってきているので、今では誰でも簡単にベッドルームで音楽を作ることができますし、さらにはビリーのようにグラミー賞まで取ることができる時代になりました。

実際ビリーのプロデューサーである兄フィネアス・オコネルも、グラミー賞受賞時のコメントで「ベッドルームで製作をしている子供たちに捧げます、君もグラミーが取れるよ」と言っていましたね\(^o^)/

Billie Eilish Wins Song Of The Year | 2020 GRAMMYs 

そんなビリーアイリッシュの機材について、いくつかのインタビュー記事をもとに、どのような制作環境で曲を作っているのかということに迫っていきたいと思います。

ビリーアイリッシュが使用している主な機材

まずはこちらの記事に出ていた、ビリーアイリッシュのスタジオ機材一覧です。

・Yamaha HS5 Nearfield Monitors — $200

・Yamaha H8S Subwoofer — $450

・Universal Audio Apollo 8 — $1,000-$2,000 (depending on if used or new)

・Apple Logic Pro X — $199

・Audio Technica AT2020 Mic — $99

参考: Billie Eilish’s Bedroom Studio Costs Less Than $3,000 — What’s Your Excuse?

このリストを見る限り、ビリーアイリッシュのスタジオには特別高価な機材がないことが分かります。

スピーカーは「YAMAHA HS5」というDTMの定番スピーカーで、日本国内だとペアで3万円以下で買うことができますね。

参考: YAMAHA ( ヤマハ ) / HS5 定番スタジオモニター ペア – サウンドハウス

このスピーカーはクリアでフラットな出音が魅力で、音楽を鑑賞用というよりは音楽制作やミキシング時に使うようなモニタースピーカーです。

特別高いスピーカーを使っているわけではないですが、サブウーファーを導入しているというのは興味深いですね。ビリーの曲はメロウなバラードもありますが「BAD GUY」のような低音ブリブリのダンスミュージック調の曲もあり、それらの楽曲を制作するための重要な役割を果たしているといえるでしょう。

DAWはAppleの「Logic Pro X」、マイクはAudio TechnicaのAT2020」(価格は1万円ほど)を使用、オーディオインターフェイスだけ少し値段が高いですがこの「Apollo 8」は、つい最近導入したようです。

ビリーアイリッシュのベッドルームでの製作の様子

この動画は「Everything I Wanted」のメイキング動画で、兄のベッドルームで実際に制作している様子を見ることができます。

Billie Eilish | Beats by Dre | The Making of “everything i wanted” 

動画の後半ではビリーのお母さんに新曲を聞かせている様子が映っていて、なんとも微笑ましいですね。

このスタジオを見てわかる通り機材はとてもシンプルですし、部屋は特に防音設備などを取り入れてる様子もありません。

次はこちらの動画ですが、より詳しいビリーのスタジオ(お兄さんのベッドルーム)の様子が紹介されています。

SPACES: Inside the Tiny Bedroom Where FINNEAS and Billie Eilish Are Redefining Pop Music 

このベッドルームスタジオにはピアノも置いてありますが、このスタジオはピアノのレコーディングには適していないのでスペクトラソニックのサンプル音源「SPECTRASONICS ( スペクトラソニックス ) / Keyscape (USB Drive)」とMIDIキーボードを使ってピアノパートを制作していると、以下のインタビュー記事で語られていますね。

参考: Finneas on Producing Billie Eilish’s Hit Album in his Bedroom

他にも「ROLI」やNative Instruments「KOMPLETE KONTROL」などのMIDIキーボードも、動画で確認することができます。

KOMPLETE KONTROLは、あらゆるメーカーのプラグインと連動することでソフトウェア上のつまみの操作やプラグインの選択を直感的に行うことが出来るMIDIキーボードで、鍵盤のすぐ上に設置されたLEDライトによる音階ガイドやアルペジエーター機能なども搭載しているという優れもの。

普通のMIDIキーボードより値は張りますが鍵盤のタッチもかなりよく、僕も去年購入してからずっと愛用しています。

参考: 【レビュー】「Komplete Kontrol Sシリーズ」は音楽理論を不要にする最強のMIDIキーボードだった – スタジオ翁

マイクに関しては、ビリーアイリッシュ本人は「Audio Technica AT2020を使うことが多いようですが、お兄さんの方は動画を観ても分かる通り「NEUMANN(ノイマン) TLM103 」を使用しているようですね。

こちらのマイクはビリーが使っているマイクのおよそ10倍の値段ですが、お兄さん激プッシュの一品のようです。

ビリーアイリッシュのミックスを手掛けるエンジニア「ROB KINELSKI」について

ビリーアイリッシュの音を語る上で欠かせないのが、ミックスエンジニアの「Rob Kinelski」です。

彼はビヨンセやリアーナなどの大物アーティストも手掛けてきたエンジニアで、2017年からビリーたちのミックスを手掛けてきました。

参考: Breaking the Mix Rules with Billie Eilish: Rob Kinelski – Waves

こちらの有名なプラグインメーカー「Waves」のインタビューでは、ビリーの楽曲で使われたWavesプラグインが紹介されています。(使用プラグインは以下の通り)

・DeEsser

・PS22 Stereo Maker

・PuigChild Compressor

・Renaissance Vox

・S1 Stereo Imager

・Vocal Rider

ステレオイメージャーやコンプレッサーなど、割と基本的なプラグインが多いですね。

もっと彼のエンジニアとしての哲学やテクニックなどを知りたいという人は、「Pensado’s Place」という有名なYouTube番組にゲストとして登場しているので、こちらを見てみるとよいでしょう。

Billie Eilish Mix Engineer, Rob Kinelski – Pensado’s Place #412​ 

「BAD GUY」のミキシングに使われているプラグイン

参考: Inside Track: Billie Eilish ‘Bad Guy’

こちらの記事では、グラミー賞も獲得した名曲「BAD GUY」のミキシングについて解説されています。

紹介されているプラグインは以下の通り。

もちろんSSLなどの高価なハードウェアも使用していますが、それと併せてこれらのプラグインも使いながらミックスをしているようです。

「FabFilter Pro-Q」や「Pro-L」は、エンジニアに限らずアーティストにも定番のミキシングプラグインですね。

I also have the [Sonnox] Oxford Inflator on the synth,

音圧が上がる魔法のツールと言われる「Sonnox Oxford Inflator」は、シンセパートに使用されています。

あと彼はUADプラグインを多様していることが、このインタビューで分かります。

UADの大定番プラグインである「Neve 1073」プリアンプはボーカルに使用し、ドラムバスには「EQP-1A」EQを挿入、マスターバスには「ATR-102」テープマシンや「Thermionic Culture Vulture」真空管ディストーションを挿しているとのこと。

UADプラグインは一流のエンジニアも使用していて信頼のおけるプラグインですが、使用するには専用のインターフェースなどを購入する必要があるので気をつけましょう。

ビリーのお兄さんが使っている「Apollo 8」オーディオインターフェースならUADプラグインが使えるのですが、これだと20~30万円ほどしてしまうので、インプットアウトプットを大量に使わないという人には「Apollo Twin X」という中上級者向けのオーディオインターフェイスがおすすめですよ。

気になった人は、こちらの記事をご覧ください。

参考: 【UAD歴5年】「Apollo Twin MKⅡ」は10万円で買える最強のオーディオインターフェースか。ライバル機「Babyface Pro」と実際に比較してみた – スタジオ翁

Billie Eilishのスタジオ機材 | まとめ

いかがでしたでしょう。

グラミー賞の主要部門4冠を達成したビリーのスタジオは、さぞ豪華だろうと想像していた人も多いのではないでしょうか。

誰にでも揃えられるような機材で(しかも未だにベッドルームで)、制作されているというのは驚きですよね

マスタリングだけでなくミキシングもプロに任せているようなので、ビリーたちはアイデアを形にすることだけに専念することができます。「音」に関しては信頼できるエンジニアがいる分、自分たちで気を使う必要があまりないのでシンプルなベッドルームスタジオで十分なのでしょう。

今はマスタリング用のプラグインなども、一般人である僕たちが手に入れられるような価格で売っているのですべてを一人で済ませようとしてしまいがちですが、いい音楽を作るためには次々に発売されるプラグインに踊らされず、ビリーたちのように音に関してはプロに任せてしまうというスタイルをとるほうが良いのかもしれませんね。

(まぁ機材大好きな僕たちには、到底無理な話でしょう…笑)

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?