Nugen Audio「Upmix」| 誰もがDolby Atmos作品を作れる時代に

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

最近、AppleはSpatial Audio(空間オーディオ)に対応した音楽に、より高いロイヤリティを支払う、ということが明らかになりました。

独占:Apple Musicが「スペーシャル・オーディオで利用可能なコンテンツ」に対して「より高いロイヤリティ価値」を提供中であることが、リークされた電子メールで明らかになった。

Spatial Audioとは、Apple Musicのリスニングフォーマットのことですが、これをオンにすることによって、イヤホンでも立体的な空間で音楽を楽しめる機能です。

AirPodsとiPhoneを使っている人なら馴染みのある機能だと思います。

(Apple Musicを使っているなら、自動的に空間オーディオがオンになっているはず。)

Apple Musicで空間オーディオを聴くには、制作者がDolby Atmosでアップロードする必要があるのですが、今日ご紹介するNugen Upmixを使えば、誰でも簡単にステレオミックスをDolby Atmosに変換することができます。

Nugen Audio Halo Upmix

僕は、普段映画のミキシングで5.1chミックスを作る必要があるので、Nugen Upmixにはかなりお世話になっているのですが、今回はUpmixの拡張パックである「3D Immersive Extension」(Dolby Atmosを作るやつ)についてもご紹介していきたいと思います。

  • 個人でDolby Atmos作品を作ってみたい
  • 自分の音楽をDolby Atmos対応にしたい
  • 映画をDolby Atmosで作りたい

今日の記事は、こんな方におすすめです。

今までは、サラウンドやイマーシブといえば「映画のフォーマット」という認識だったと思いますが、これから音楽業界でもますますDolby Atmosの作品が増えてくることが予想されるので、この機会にぜひDolby Atmosミックスについて学んでおきましょう。

NuGen Audioって何だ?

NuGen Audioは、個人で音楽制作をしている人にはあまり馴染みのないメーカーだと思いますが、2004年に英国で設立された放送、映画、ゲームオーディオ制作のためのプラグインのメーカーです。

NuGen Audio

例えば、2chの音を、5.1chやDolby Atomosなどに変換(アップコンバート)するための工程を「アップミックス」と呼びますが、いろんなメーカーからアップミックスのソフトが出ている中、高品質なソフトとして必ず紹介されるのが、NuGenの「Upmix」です。

Nugenは、Upmixの他にも、アップミックスされた音を正確に2chなどの音にダウンコンバートする「Downmix」や、サラウンドミキシングのためのリバーブ「Paragon」なども販売しています。

一度サラウンド化してから、ステレオに戻すと、変換の過程で位相がズレたり、変な音になってしまったりすることがあるのですが、このDownmixを使えば、アップミックスされた音を変換ロスなくステレオミックスに瞬時にダウンコンバートすることができます。

こういった作業がスムーズにできるのは、放送業界で長年活躍しているメーカーならではの強みですね。

Upmixで何ができるのか?

Upmixで、ステレオ音源をサラウンドやイマーシブ音源にするといっても、具体的にどういったことができるのかイメージが湧きづらいですよね。

Upmixを使えば、主にこのような項目が調整できます。

  • 音源をセンターに寄せるか、左右に広げるか
  • リアスピーカーに音をどれくらい送るか
  • LFEチャンネルにどのくらい音を送るか

ちなみにLFEとは、Low Frequency Extensionの略で、サブウーファーのためのチャンネルと考えてもらって大丈夫です。(5.1chや7.1chなどの「○.1」の部分に当たります)

Upmixは設定項目がそこまで多くないので、直感的に調整ができ、かつ位相やイメージングへの影響を最小限に抑えたスムーズな変換をしてくれます。

さらに細かい項目になると、

  • LFEに音を何dB送るか、何Hz以下の音を送るか
  • リアスピーカーに送る音の輪郭をはっきりさせるか、濁らせるか

といったことも調整できます。

「でも、サラウンドの音なんて作ったことないし、よくわからないよ…」

という方でも簡単に操作できるよう、シチュエーションごとのプリセットも備わっています。

豊富なプリセットからシチュエーションに合ったのもを選択できる

例えば、2chの音楽を5.1chにしたいということなら、07の「Music 5.1ch」を選ぶだけで、とても自然に音楽のサラウンド化を行うことができます。

これだけでも十分なのですが、ステムごとにもっと細か調整をしたいということであれば、リバーブなどの空間的な要素には「06 Ambinece 4.0 Fill」を使い、センターとLFE以外のチャンネルに音を散らしたりするのも良いでしょう。

シネマティックな曲をアップミックスしたいなら「25 Film Score1.5.1」を選んだり、ロックテイストなサウンドの曲なら「29 Pop/Rock Song1 5.1」を選び、そこから細かい設定を追い込んでいくという方法もあります。

声の抽出を自動でやってくれる

放送や映画系で使うことを考えている人には、さらに便利な機能があります。

それが「ダイアログアイソレーション機能」で、その名の通り、声を自動抽出してセンターチャンネルに振り分けてくれる機能です。

映画だと、声はセンターチャンネルから出るのが普通ですが、録音物によっては声と環境音が混ざっているものもあります。

そこで、Upmixのダイアログアイソレーションを使うことによって、声だけをセンターチャンネルに振り分け、それ以外の環境音をLRのチャンネルに振り分けてくれます。

Dialog Isolationにより、声を自動抽出できる

どのくらい声を抽出したいかを「Dialog Iso」で設定するだけなので、とても簡単。

高性能なのはもちろんですが、こういった複雑な変換を自動でやってくれて、簡単かつ直感的に扱えるのが、Nugenの魅力だと思います。

3D Immersive Extensionについて

最後に、3D Immersive Extensionについてもご紹介しておきましょう。

通常のUpmixからアップグレードすれば、Dolby Atmosを含むイマーシブフォーマットにも対応します。

左は通常バージョンのUpmixで5.1chにアップミックスしていて、右は同じ音源を7.1.2chにアップミックスしています。

5.1ch
7.1.2ch

比べてみると、右側の7.1.2chの方は、平面ではなく3Dの配置になるので、新たなパラメーターやアナライザーが加わっていることがわかります。

3D Immersive Extensionモードになると、

  • ハイト(天井)スピーカーに適用されるローパスフィルター
  • オンフェイズの音(核となる音)をどのくらいハイトに送るか
  • オフフェイズの音(空気感)をどのくらいハイトに送るか

といった、ハイトスピーカーに対するパラメーターが増えます。

さらに、こちらはPro ToolsとNuendo限定なのですが、アンビソニックマイクで録音した音をバイノーラルに変換することもできるようになります。

Pro Toolsって、使いにくいから嫌いなんですけど、こういった高品質なプラグインはPro Toolsにしか対応していないことが稀にあるんですよね。

Zoom/H3-VRAmbeo VR Micで録った音を2chに変換する時に、とても役立ちます。

まとめ

5.1chやDolby Atmosにアップミックスできるソフトは、いくつかのメーカーから出ていますが、リバーブやコーラスなどの特殊なエフェクトを使わないことで自然にアップミックスできるのが、Nugen Audio Upmixの大きな特徴です。

プリセットを選んで適用するだけでも、十分クオリティの高いサラウンド音源を作ることができますし、現に僕は、映画の音楽にはNugen Upmixの「5.1ch Music」プリセットをそのまま使うことが多いです。

そして自然にアップミックスされたものは、そこから2chへのダウンミックスも自然に行える、というメリットもあります。

サラウンド化やイマーシブ化をする時は、慣れないミックス環境で的確な判断をするのが難しい場合もあるので、少しでも信頼できるメーカーのものを選びたいですね。

これから本格的にサラウンドやイマーシブでのミキシングを考えている方は、ぜひNugen Upmixを検討してみてはいかがでしょうか。

Nugen Audio Halo Upmix with 3D Immersive extension

ニュースレターはじめました。

音楽制作の話、世界の音楽ニュース、DTMに役立つコンテンツなどを毎週金曜日にニュースレターで配信しています。

無料なので、気になった方はメールアドレス登録してもらえると嬉しいです。

https://studiookina.substack.com/