プラグインでハードウェアのようなコンプ感を出すのは、なかなか難しいですよね。
ITB(In The Box)の可能性を追求している僕としては、どうしてもハードウェアに頼らず、プラグインだけで素晴らしいミックスを作り上げたい!という思いがあるのですが、その願いに応えてくれそうなプラグインが登場しました。
・Pulsar 1178 – The most versatile FET compressor.
今日ご紹介する「Pulsar 1178」は、Urei 1178というアナログコンプを模したプラグインで、これは有名な1176コンプのステレオバージョンです。
ただ、単純に1176のステレオバージョンというわけではなく、音のキャラクターも1176とは異なっており、1176が攻撃的でアタック感強めのサウンドに対し、1178はウォームで自然な感じ、クリーンなコンプ感が特徴だと言われています。
そのコンプレッションの滑らかさゆえ、ミックスバスに使ったりマスタリングにも使えるのも特徴の一つ。
中低域がふくよかで、わざとらしさを感じさせないアナログライクなサウンドは、他のプラグインコンプではなかなか再現できないような中毒性を持っています。
実は、Mix with the MastersでJasen Joshuaのチュートリアルを観ている時、彼がこのプラグインを紹介していて知ったのですが、彼が愛用しているのも納得のサウンドだと思いました。
僕は、Pulsar 1178の「コンプ感」を得るためだけに、このプラグインを買う価値はあると思いますが、Pulsar 1178の魅力はそれだけではありません。
Pulsar 1178の特徴
Pulsar 1178には、
- サイドチェインフィルター
- 4つのサチュレーター
- 視認性の高いメーター群
といった、「使える」機能が豊富に含まれています。
サイドチェインフィルター
サイドチェインフィルターは、一見、ただのEQのように見えますが、「コンプをかける帯域」を指定するためのフィルターです。
参考: コンプについてるサイドチェインフィルターについて – スタジオ翁
サイドチェインフィルターといえば、例えば「60Hzまたは90Hz」というように、決められた周波数しか指定できないものもありますが、Pulsar 1178では、まず「シェルフ」「ハイパス(ローパス)」の2種類を選ぶことができ、周波数帯域も柔軟にコントロールすることができます。
4つのサチュレーター
コンプをかける際、「CLIP」「WARM」「TRIODE」「TAPE」の4つのサチュレーターを選ぶことができ、さらにアナログっぽい味付けができるようになっています。
4種類の飽和フレーバーのいずれかを使って信号をさらにプッシュし、処理の強さを調整します。Tapeは磁気レコーディング・テクノロジーの特徴をエミュレートし、Warmは高音域に最適な微妙な歪みを提供します。TriodeはクラスA真空管アンプをエミュレートし、主に奇数倍音を加えます。
https://pulsar.audio/comp-1178/
カリブレーションノブを使い、後からサチュレーションの加減をすることもできるので、とても便利。
個人的には、サウンドに存在感と絶妙なアタック感を与えてくれる「TRIODE」が好みですが、サチュレーションが欲しい時は別のプラグイン「Black Box」や「Scheps Omni Channel」で処理することが多いですね。
視認性の高いメーター群
あとは、メーターが豊富に用意されているので、これを見ればどのくらいコンプがかかっているのかが一目瞭然です。
正直、こんなにメーターいるかな…と思う部分もありますが、見やすいに越したことはありません。
アタックやリリースの感じも、メーターを見れば、すぐにわかるようになっています。
Pulsar 1178のサウンドに使われている技術
Pulsar 1178の音が良い理由、そのいくつかがホームページに記載されています。
トポロジー保存技術
https://pulsar.audio/comp-1178/
当社のモデリング技術は、オリジナル・デバイスの動作の完璧なエミュレーションを保証します。ダイオード、トランジスタ、真空管の飽和から、わずかな内部フィルタリング、微小なキャリブレーションの欠陥まで、すべてが完璧に再現されます。さらに、回路の完全なシミュレーションを行うことなく、これらすべての動作を再現できるため、CPUパワーを節約することができます。
トポロジー保存技術は、Pulsarの他のプラグインにも使われていて、これがPulsarのプラグインをアナログっぽいサウンドにしている一つの要因です。
「トポロジー保存技術」と言われてもよくわからないと思いますが、僕も詳しくはよくわかりません・・・
とりあえず、「プラグインをアナログライクなサウンドにし、ハードウェアの構造を正確に再現できるPulsar社ならではの技術」ということだけ理解しておけばいいんじゃないでしょうか。
Sweetwaterの製品ページに、トポロジー保存技術について書かれている箇所があったので、気になる方はこちらも参考にしてみてください。
比較的若い会社でありながら、Pulsar Audioのプラグインは、アナログ・エミュレーション・プロセスを熟知しており、品質に関しては業界トップクラスです。同社のプラグインは、ハードウェアのように聞こえるだけでなく、ハードウェアのように動作します。これは、同社がTopology Preservation Technologyと呼ぶ技術によるところが大きい。では、Topology PreservationTechnologyとは何か?
「複雑な数学的モデルに基づいていながら、ハードウェアの構造を正確に考慮していないエミュレーション・プラグインをよく見かけます。「その結果、入力レベルが非常に高い場合や、コンプレッサーのアタック・タイムとリリース・タイムが極端に短い場合など、特定の使用ケースにおいて不正確な動作になることがよくあります。
ヴィンセントによれば、トポロジー・プリザベーション・テクノロジーにより、Pulsarはその処理構造を保持することで、ハードウェアを完璧にエミュレートすることができます。これによって同社のプラグインは、上記のような極端なケースであっても、ハードウェアの動作を再現することができるのです。Pulsarプラグインでノブを回すと、同程度のハードウェアでノブを回すのと同じような結果が得られます。トポロジー・プリザベーション・テクノロジーは、エイリアシングや異なるサンプリング周波数に対する処理の不一致など、デジタル・オーディオ特有の不要なアーティファクトも最小限に抑えます。
https://www.sweetwater.com/insync/pulsar-audio-plug-ins-an-in-depth-look/
他にも、信号の先読みなどを行うことで正確なコンプレッションを実現したり、逆にアナログ機材では不可能な「後読み」を行うことで、あえてトランジェントを目立たせたりすることもできます。
先読み・後読み
https://pulsar.audio/comp-1178/
アナログ信号経路では実質的に不可能な、コンプレッサーの検出動作を時間的に前倒ししたり、最大10msのディレイをかけてトランジェントをポップスルーさせることができます。ルックアヘッドまたはルックビハインド・ディレイ・ステージの正確なタイミングは、前者で最大20ms、後者で最大10msまで設定できます。
こんなに使いきれないよ…というくらい色んな機能が入っていますが、基本的な機能を使うだけでも十分に値段の価値があり、満足のいく音が作れると思います。
他の1176系プラグインとの棲み分け
1176系のプラグインは、色んなメーカーからリリースされていますが・・・
「Pulsar 1178があれば、他の1176系プラグインが不要か?」と言われれば、そんなことはありません。
Pulsar 1178は滑らかで自然なコンプレッションが特徴なので、「ドラムの激しいアタック感」「荒々しい楽器の鳴り」を表現したいなら、まず1176の方を手にいれることをおすすめします。
1176系プラグインは、いろんなメーカーから出ていて選ぶのが難しいですが、1176とは、もともとUniversal Audio(Urei)が出しているアナログコンプなので、Universal Audioがプラグインとして出している「1176 Classic Limiter Classic Limiter Collection」を選べば、まず間違いないでしょう。
僕も、Pulsar 1178があることで、1176系コンプの出番は減ってしまいましたが、1176系特有のパンチが欲しい時には「
Universal Audioの1176 Classic Limiter Collection」(特にブルーストライプ)を使っていますね。
1176系との音の違いを聴いてみる
1176系と比べて、どのくらいコンプのかかり方は違うのか?
ここで実際に録音した音を聴いてみましょう。
なるべく設定を揃えるため、どちらも「アタック最大」「リリース最小」「ゲインリダクション-10dB」になるよう合わせました。出音のボリュームも同じになるよう、微調整しています。
まずは適当に並べた、Ableton Liveのドラムサンプル(コンプなし)をお聴きください。
次に、Pulsar 1178(サチュレーション・サイドチェインフィルターなし)を入れてみます。
温かみのあるコンプレッションが、とても気持ちいいですね。キックの胴鳴りが「ビタっ!」と止まる感じや、アナログコンプのような自然な感じがとても良く、プラグインでこの感じが出せるコンプはなかなか見つからないと思います。
次に、Universal Audioの1176を聴きましょう。
こうやって聴き比べてみると、音のキャラクターが、ずいぶんPulsar 1178と違うのがわかるかと思います。
Pusar 1178が、温かみがあってまとまりのある音に対し、Universal Audio 1176はトランジェントが立っていて迫力があります。
曲中で目立たせたい音があったり、荒々しいドラムを表現したいということなら、1176の方が用途に合っているでしょう。
どんな音にしたいか?というゴールを定めてから、どちらかのコンプを選ぶと良いかと思います。(コンプにこだわり出すと、どちらも欲しくなってしまうところではありますが…)
まとめ
Pulsar 1178のコンプ感は、他のプラグインコンプではなかなか表現できないので、最近は自分のプロジェクトでもよく使っています。
Pulsarが良いプラグインをたくさん出しているという噂は聞いていましたが、確かに1178や、たまに使っているPulsar Massiveもすごく良いので、最近よく耳にするPulsar 8200 EQやMuコンプもそのうち試してみたいところですね。
Pulsar 1178は、アナログのような滑らかなコンプ感や、自然なトランジェントを求める人にぴったりのコンプだと思います。
気になった方は、ぜひ試してみてください。
・Pulsar 1178 – Plugin Boutique