今回は、シンセサイザーの基本的な8つの合成方式について解説していきます。
そもそもシンセサイザーの語源である「シンセシス」は、日本語でこのような意味があります。
シンセシス = 総合、統合、総合体、合成
つまり音を合成することで、新しい音を作り出す楽器を「シンセサイザー」というわけですね。
現在ほとんど使われていない方式なども合わせると、8つどころかもっと多くなってしまうのですが、この記事では現代のシンセサイザーにもよく使われている「主要な8つの方式」のみを取り上げることにします。
それぞれの方式によって音の特徴や音作りの方法も変わってくるので、自分の持っているシンセやこれから買おうとしているシンセがどんな方式なのかを知り、よりディープな音作りができるよう参考にしてみて下さい。
① 減算合成
The New Minimoog Model D In Action
減算合成は、もっとも一般的なシンセの合成方式です。
オシレーター + フィルター + アンプ + ADSR
シンセサイザーといえば、まずこの流れを思い浮かべるのではないでしょうか?
この組み合わせが「減算合成」と呼ばれている理由は、オシレーターで作った音(波形)をフィルターに通して「音を削る」ことによって音作りをしているからなんです。
イーストコースト(東海岸)シンセシスとも呼ばれ、Moogの生みの親である「Bob Moog」によってこのスタイルは一般的になりました。
動画で紹介されているMoog「Minimoog」の他にも、Korg「MS-20」, Dave Smith「Prophet-5」など多くのビンテージシンセに採用されている方式ですね。
② 加算合成
Joe Pantano Killing it on the Hammond Organ – A-100 Restoration by Retrolinear
「ハモンドオルガン」 にこの加算合成方式が使われているのは有名ですが、シンセサイザーだとあまり一般的な方式ではありません。
加算合成はその名の通り、音同士をぶつけることによって新たな波形を生み出す方式で、Kawai「K5000」やFairlight「CMI」といったシンセに使われていました。
今となっては、楽器屋で加算式シンセを見つけるのはなかなか難しいかもしれませんが、ソフトシンセだとArturia「CMI V」やNative Insturuments「Razor」, Logic Pro「Alchemy」などにこの方式が採用されているので、これらのソフトで加算合成シンセを試してみることができます。
③ FM
DX7 & PopStar
FMシンセの音作りはちょっぴり複雑なのですが、この方式でしか出せないベルやシンバルのような金物っぽいサウンドが特徴です。
歴史上初めて商業的な成功をおさめた、デジタルシンセの方式としても有名ですね。
代表的なFMシンセであるYAMAHA「DX7」は、上の動画でも紹介されているようにさまざまな名曲を生み出してきた伝説のシンセであり、現代でもKorgが「Volca FM」というハードウェアとして復刻したり、Arturiaが「DX7 V」としてプラグインで再現したりと、今でも愛され続けているシンセの一つなのです。
④ ウェーブテーブル
This is Xfer Records’s Serum (PlugInGuru Sonic Tour)
ウェーブテーブルシンセは、EDMやエレクトロなどによく使われる「Massive」や「Serum」といったソフトシンセでも有名ですね。
これは現代的な音源方式の一つで、ウェーブテーブルと呼ばれるオシレーター部分に連続的なサンプルベースの波形を並べ、ADSRやLFOを使って音色を変化させたり時間的な変化を与えることでサウンドを作り出すという方式のシンセです。
オリジナルの波形を読み込んだり、ソフトウェア上で波形を手描きでかいたりとオリジナリティあふれる音作りができるのも特徴のひとつ。
⑤ ウェストコースト
West coast synthesis explained on the Buchla Easel V by Arturia
先ほど①で紹介したイーストコースト(東海岸)シンセシスに対し、Moogの活躍と同じ時期にサンフランシスコで独自の発展を遂げた「Buchla(ブックラ)」というシンセサイザーの音源方式を、ウェストコースト(西海岸)シンセシスと呼んだりします。
Buchlaは実験的な音作りの要素が強いシンセで、Moogのようにピアノスタイルの鍵盤を装備することを避けていました。
そのことが、「Buchla」という名前がMoogに比べてあまり知られていない理由のひとつになっているのかもしれませんが、最近ではモジュラーシンセサイザーのブームもあって、再び知名度が上がってきている印象です。
Buchlaのシンセに興味があるという人は、こちらのMoogとBuchlaという2大シンセサイザーの発展に関するドキュメンタリーをぜひ観てみて下さい。(シンセ好きならテンションがぶち上がること必須です!)
参考: I Dream Of Wires 2014 documentary Trailer – Official
ちなみにMake Noiseから発売されている「0-Coast」というシンセサイザーは、イーストコーストとウェストコーストのどちらにも属さない(両方のメリットを詰め込んだ)シンセサイザーということで、「0-Coast(ノーコースト)」という名前がついているみたいですね。
参考: 【レビュー】MAKE NOISE「0-COAST」はBUCHLAとMOOGの思想が溶け合う究極のセミモジュラーシンセ – スタジオ翁
⑥ サンプルベース(PCM)
SESSION STRINGS 2 – Walkthrough | Native Instruments
サンプルベースのソフトだと、「Spitfire Audio」や「EastWest」, Native Instruments「Kontakt」などが有名ですね。
実際の楽器やオーケストラを一音づつ丁寧に録音することで、MIDIキーボードなどで再現可能な音源です。
音の高さや鍵盤を叩いたときの強弱といったあらゆる録音データを収録しているので、リアルなサウンドが得られますが良い音源ほど膨大なデータ量になるため、ソフトによってはパソコンへの負担が結構かかるのがちょいと難点です。
⑦ フィジカル(物理)モデリング
Introducing Chromaphone 2 acoustic object synthesizer plug-in VST AU AAX RTAS
フィジカルモデリング音源も、生楽器の音を再現するという意味ではサンプルベース音源に似ていますが、こちらは実際に楽器を録音しているわけではなく、コンピューターの演算によって擬似的に楽器の音を作り出しています。
ピアノ音源ならModartt「PianoTeq」、ストリングス音源ならAudio Modeling「Swan」などが有名です。
フィジカルモデリング音源なら、サンプルベース音源に比べてデータ量がはるかに少ないものも多く、上の動画で紹介されている「Chromaphone 2」は、現実世界の楽器では変化させることができない「素材」やその素材の「密度」などを変化させることで、リアルなサウンドから現実的には作れないようなサウンドまで、あらゆる種類の音をつくることができますよ。
⑧ グラニュラー
Waldorf Quantum – Granular 2 [Sound Preview4] 4K
グラニュラーはウェーブルテーブルと少し似ていて、読み込んだサンプルを「グレイン」と呼ばれる細かい粒にまで分解し、再構築して音作りを行うタイプのシンセサイザーです。
わずかなサンプル音源からでも、音の粒を加工することによってさまざまな種類のサウンドをつくることができ、上の動画ではなぜか「バニラ求人」のサンプルを使って、実験的な音作りをしている様子を観ることができます。
ハードウェアならWoldorf「Quantum」やTasty Chips「GR-1」、ソフトウェアならAbleton「Max For Live Granular」などが有名どころです。
シンセサイザーの基本となる8つの合成方式を理解する | まとめ
ほとんどのシンセサイザーは、以上の8つのどれかに当てはまります。
これらは作りたいサウンドによって使い分けることで、効率よく欲しい音を手に入れることができるでしょう。
ブリブリの極太ベースを作るなら「Moog」のような減算式のシンセ、金属音っぽい音を作るならウェストコースト方式の「Buchla」やFMシンセ「DX7」を選ぶなど、シンセの合成方式によっても得意不得意が分かれるので、それぞれの特徴を理解した上でシンセ選びができるとさらに音楽制作が楽しくなりますよ。