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ラウドネスは-14LUFSでOK?マスタリング音圧の最適解

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Issey
作曲家、音響エンジニア
23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

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「-14LUFSを狙ったマスタリングは間違っている」

そう言われると、ドキッとする人も多いかもしれません。

最近は個人でマスタリングしてSpotifyなどに上げる人が増えてきましたが、その際、「-14LUFS」を狙って最終的なラウドネスを調整している人も多いと思います。

でも、-14LUFSを狙うのは、本当に正しいのでしょうか?

LUFSのおさらい

「そもそも、LUFSって何?」という方のために説明しておくと、

LUFS (Loudness Units Full Scale)は、ストリーミングサービスで最も一般的なラウドネスターゲットのことで、「みなさん、このくらいの音圧を基準にマスタリングしましょうね」と、各サービスが割り当てている数字のこと。

世界最大の音楽サブスクサービス「Spotify」や、天下の「YouTube」も-14LUFSという数字を基準にしていて、LUFSはYoulean Loudness Meterなどの無料プラグインで、簡単に測ることができます。

ラウドネスが計測できるメータープラグイン8選 – スタジオ翁

この-14LUFSを超えてマスタリングすると、Spotifyなどのサービス側で勝手に音量が下げられる(これをラウドネスノーマライゼーションと言います)ため、-14LUFSでマスタリングするのが良いと言われているのですが、

スタジオ翁としては、

「ラウドネスは、サービス側に合わせるのではなく、その曲が一番喜ぶラウドネスに調整せよ!」

ということをお伝えしたいです。

これについて、詳しく説明していきます。

Spotifyの曲、みんな-14LUFS守ってない問題

まず、Spotifyに上がっている音楽を調べてみると、全然-14LUFSではなくて、-8LUFSとか、場合によっては-5LUFSくらいの曲もあります。

Skrillexの「Bangarang」は、-5LUFSです。

一般的には、ラウドネスを上げすぎると、

  • ダイナミクスが減ってしまい、ペシャッと潰れたような音になってしまう
  • 抑揚のない退屈な音楽になってしまう

などと言われています。

ところが、このBangarangはこれほどラウドネスが高いにもかかわらず、しっかりと抑揚のついた、聴きごたえのある曲に仕上がっていますよね。

これは、この曲がもっとも喜ぶラウドネスが、「-5LUFS」だからに他なりません。

音楽によって最適なラウドネスは違う

最近では、「ラウドネスは-14LUFSではなく、-8LUFSに合わせよう」という意見も見かけますね。

これは、ポップスや電子音楽系の音楽だったら一つの目安としてアリだと思いますが、音楽によって最適なラウドネスは異なります。

ピアノや弦楽器を使ったクラシック調の曲を-8LUFSでマスタリングすると、抑揚のない味気ないサウンドになってしまうでしょうし、現代的なクラブミュージックを-14LUFSに合わせると、他の曲と比べて物足りなくなってしまうでしょう。

先ほどのSkrillexの曲のように、

  • ラウドネスがその曲に合っていて、
  • バランスよくマスタリングされていれば、

Spotifyのラウドネスノーマライゼーションによって多少音量が下げられても、全然問題ないのです。

もし、ジャンルごとのラウドネスの目安を知りたいということなら、以下を参考にしてみてください。

  • クラシック音楽とジャズ音楽: -16 ~ -14 LUFS
  • アコースティック、フォーク、ワールドミュージック: -14 ~ -12 LUFS
  • ポップ、ロック、エレクトロニックダンスミュージック(EDM):-10 ~ -8 LUFS
  • ヒップホップ、ラップ、R&B: -10 ~ -6 LUFS

AirPodsを意識したマスタリング

また、最近はAirPodsなどのBluetoothイヤホンを使って音楽を聴く人が多いので、そこにラウドネスを合わせる必要も出てきています。

電車で音楽を聴いているとわかりますが、最近のポップスだと、ラウドネスが高めなのですべての楽器が聞き取りやすいです。一方でクラシックなどの古い音楽はラウドネスが低い分、音楽に抑揚がありすぎて小さな音が電車の騒音にかき消され、聞き取りづらくなってしまいます。

クラシックは家でじっくり聴く方が多いかもしれませんが、流行りの曲は「歩きながら」とか「電車の中で」聴かれることが多いでしょうから、これからリリースする方は「あなたの音楽がどこで聴かれるか?」という部分も意識してマスタリングしてみると良いかと思います。

ちなみに、AirPodsの全世界売り上げは、Spotifyの売り上げよりも多いです。

2023年、AppleはAirPodsの売り上げがSpotify全体を上回る

SpotifyのCEOダニエル・エクは、総資産1兆円を超える億万長者ですが、その彼が作り上げてきた「世界最大の音楽サービスSpotifyの毎年の売り上げよりも、AirPodsの毎年の売り上げの方が多い」ことを考えると、AirPodsを狙ったマスタリングの重要性が見えてくるかと思います。

音圧を稼ぐための現代的なアプローチ (ミキシング ↔︎ マスタリング)

最後に、音圧(ラウドネス)を稼ぐためのアプローチを一つ、ご紹介します。

音圧を上げる際は、リミッターやマキシマイザーを使ってただ上げれば良いわけではなく、「ダイナミクスを保ちつつ音圧を上げる」のが、一番難しいところです。

そのためにはミキシングの段階で、ある程度楽器ごとのEQバランスやダイナミクスが揃っている必要があるのですが、マスタリング処理を始めてから、「思ったよりもうまく音圧が上がらないな…」となってしまうことも少なくありません。なので音圧を上げるには、これまでのような、

  1. ミキシングを完成させる
  2. 最後にマスタリングを行う

という流れではなく、

  1. ミキシング
  2. マスタリング
  3. ミキシング

のように、「マスタリングが上手くいかなければミキシングに戻る」「再びマスタリングに戻る」を繰り返しながら処理していくことをおすすめします。

プロのエンジニアでもない限り、「マスタリングに進んでみたけど、やっぱり戻ってミックスし直したい」なんてことは頻繁にあります。マスタリングしながらミキシングしたって、なんの問題もないのです。

これまでは以下の理由により、ミキシング ↔︎ マスタリングの行き来が、なかなか行えませんでした。

  • OzoneのようなAIツールがなかったので、個人でマスタリングをするのが大変だった
  • パソコンの処理能力が低く、同じプロジェクト内でミキシングとマスタリングを同時に行えなかった

ところが、「AIツール」と「処理能力の高いパソコン」が手軽に手に入るようになったことで、これが可能になりました。

一旦マスタリングして整えてみると、「一部の楽器が目立ちすぎているな」「Ozoneで整えたことで、全体と調和していない楽器が出てきた」と、ミキシングで修正すべきだった音のアラが見えてきます。ここでまたミキシングに戻り、各楽器を処理していくことで、ダイナミクスを損なうことなく全体の音圧を上げることができます。

iZotope「Ozone 11」| Ozone 10から順当な進化を遂げた定番AIプラグイン – スタジオ翁

まとめ

一般的に言われている「-14LUFS」は、実際にはラウドネスとしてちょっと小さめです。

ポップスや電子音楽なら、とりあえず-8LUFSから-10LUFSくらいを狙っていくところから始めましょう。

最近は、アンビエントのような優しい音楽であっても、ラウドネスの高い作品が増えてきています。ラウドネスの目安は参考程度にとどめ、「自分がその曲をどう聴かせたいか」を最優先にマスタリングを行ってみてください。

その音楽が一番いい音で聴こえるラウドネスが、その曲のラウドネスの正解です。

アーティストのための「ラウドネスノーマライゼーション」に関する知識 – スタジオ翁

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

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