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フィールドレコーディング用のマイクとレコーダーについて

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Issey
作曲家、音響エンジニア
23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?

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AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?
作曲AIに関する書籍をAmazonで出版しました。
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最近、フィールドレコーディングに出かけては、いろんな機材を試しています。

都心だと、どうしても車の音や人の声が入ってしまうので、「コスタリカにでも行ってゆっくり録りたいな」と思ったりもしますが、まずは理想のフィールドレコーディングシステムを完成させるべく、近場で日々実験を重ねています。

今日は、その中でも使ってみて良かったもの、いま気になっているマイクやレコーダーを紹介しようと思います。

せっかくなので、実験的に使ってみたけど全然良くなかったマイクなども紹介します。

マイク

まず、一番大切なのはマイクですね。

いろいろ試してきましたが、必ずしも「値段=品質」になるわけではありません。

高いものは、やはり音が良いものが多いですが、「安くても質の高いマイク」もいくつか存在しているので、まずはお手軽に購入できるものから紹介していきましょう。

Clippy EM272

このブログでも何度か紹介している、Clippy EM272です。

Clippy EM272 Stereo Microphone

イギリスから輸入する必要がありますが、品質はかなり良く、90ポンドほどで購入できるのでおすすめ。

僕も普段は、これで環境音を収録しています。

マイクカプセルには、日本のPrimoから販売されているEM272が使用されているので、自作できる方はPrimoからカプセルを購入して作ってみるのも良いかもしれませんね。

この記事にも書いていますが、セルフノイズが圧倒的に低いので、静かな場所で環境音を録るのにとても適しています。

DPA 4060

DPAのラベリアマイクは、その大きさからは想像できないくらい、小さい音から大きな音まで録音できます。

DPA 4060

先ほどの、Clippy Micではクリップしてしまうような爆発音でさえ、DPA4060ならしっかり収録することができます。

去年、MAと音楽制作で携わった映画は、ほぼ全ての音がこのDPA 4060で録音されていたのですが、「この小ささで、こんなにも細かい音が録れるのか」とびっくりした記憶があります。

音には妥協したくないけど、小型で持ち運びに便利なマイクがいい、ということならDPA4060がおすすめです。

Sennheiser MKH8020/8040/8090

フィールドレコーディング界隈で人気のある、ゼンハイザーのMKHシリーズです。

Sennheiser MKH8020

値段が高いので購入を諦めましたが、去年、ずっと買おうかと迷っていました。

セルフノイズの低さと、10Hzから60kHzまで伸びる周波数特性が魅力の一本です。

本格的にフィールドレコーディングを始めたい人は、ここらへんが候補に入ってくるでしょうね。

Sennheiser Ambeo VR Mic

4本のマイクがついたアンビソニック対応のマイクです。

Sennheiser Ambeo VR Mic

これで録った音を専用ソフトで変換することで、ステレオバイノーラルや、サラウンドの音に変換することができます。

これはレンタルして試してみましたが、正直、音が全然良くなかったです。

それもそのはず。Ambeo VR Micはマイクカプセル4つで20万円ほどのお値段なので、カプセル1つにつき5万円ということになります。

先ほどのMKH8020は1本20万円ほどするので、かかっているコストがまるで違いますよね。

立体的でおもしろい音が録れるのは間違いないですが、音質面ではあまりおすすめできません。

Voyage Audio Spatial Mic

先ほどのAmbeo VR Micが、4つのダイアフラムを使った「1次アンビソニックマイク」だったのに対し、こちらのSpatial Micは8つのダイアフラムを使った「2次アンビソニックマイク」となっています。

Voyage Audio – Spatial Mic

マイクの受信部であるダイアフラムは、理論上多ければ多いほど、より立体的なサウンドを録ることができます。

代々木公園で、こちらのマイクを使って環境音を録ってみたことがあるのですが、確かにAmbeo VR Micよりも立体感のある音が録れました。

ただ、これもダイアフラム1つ1つの品質が高いとは決して言えず、「これで録るなら高品質なステレオマイクで録ったほうが良いな」と感じざるを得ませんでした。

VR用の音が録りたい、面白い音が録りたいということなら、Spatial Micを検討しても良いかと思います。

Townsend Sphere L22 (Universal Audio Sphere DXL)

これも代々木公園に持って行ってテストをしました。

このマイクを販売しているTownsend Labは、Universal Audioに買収されたので、今はこちらが最新モデルとなっています。

Universal Audio – Sphere DXL

38種類のビンテージマイクの質感をソフトウェア上で再現できるという画期的なマイクなのですが、フィールドで録音してみると、いまいち納得できるものが録れませんでしたね。

やはり餅は餅屋ということなのでしょうか?

スタジオ用途では威力を発揮してくれるSphereマイクですが、フィールドレコーディングにはおすすめできません。

Schoeps

フィールドレコーディングをいろいろ調べている人なら、Free To Use SoundsというYouTubeチャンネルをご覧になったことがあるのではないでしょうか。

彼はSchoepsのDMSというシステムを使って、世界中のサウンドを録音しながら旅しています。

DMSはマイクを3本組み合わせる特殊な構造で、100万円を超えるハイエンドシステムです。

Schoepsは高すぎて、フィールドレコーディングで使っている人はあまり見かけませんね。音はナチュラルな傾向ですが、DPAのパリッとしたタイトな質感の方が僕は好みです。

ちなみにSchoepsマイクは、ハリウッド映画のロケーションレコーディングでも使用されているようです。

Stereo Mic

最後にステレオマイクをご紹介します。

これは1本のマイクにダイアフラムが2つ付いていて、ステレオで録音できるようになっているマイクです。

Audio Technica BP4025Audio Technica BP4029Rode NT4あたりが有名ですね。

他にもSennheiser MKH418Sのような「MSマイク」というマイクがありまして、こちらはM(ミッド)とS(サイド)を別々に録音できるので、後からステレオの広がりを調整できるというメリットがあります。

たった1本でステレオ録音できるので、なるべく荷物を減らしたい人は、ステレオマイクを検討してみるのも良いでしょう。

レコーダー

次は、レコーダーに行きましょう。

レコーダーは数万円出せば、わりと良いものが手に入ります。

僕の中では、レコーダーは音の品質よりも、音のキャラクターを決めるイメージですかね。

安いから音質がグッと落ちるということはないので、迷ったら、次に紹介するZoom F3を選んでおけば間違いないでしょう。

Zoom F3

小型かつ、32bit Float対応で、絶対に音割れしないZoom F3は、発売当時ずっと品切れが続いていたほどの人気製品です。

Zoom F3

僕は、発売と同時に購入しまして、ずっと使い続けています。

唯一の欠点は、タイムコードシンクに外部機材が必要ということくらいでしょうか。

映像と同期させたりしない人には関係のない話なので、ここが気にならなければ、パーフェクトなレコーダーだと思います。

Zoom F6

Zoom F3は、こちらのZoom F6が小型化されたものです。

Zoom F6

インプットが6つ付いているので、アンビソニックマイクを使ったり、複数のマイクを使って同時にレコーディングする方におすすめ。

こっちはF3と違ってタイムコードインプットがついているので、僕も現場ではF6を使うことが多いです。

音質は、おそらくZoom F3と変わりません。

Tascam Portacapture X8

これも発売当時、買おうか悩みました。

Tascam Prtacapture X8

かなり長い間品切れが続いていたので、結局Zoom F3を購入しましたが、これはマイク内蔵なので利便性も高く音質も良いです。

実物は写真で見るよりも大きく感じるのですが、音質と利便性を考慮すれば、アリなんじゃないかなと思います。

これからフィールドレコーディングを始めたい人、気軽に持ち運べるレコーダーがほしい人におすすめです。

Sound Devices MixPre Series

Sound Devicesは映画のロケーションレコーディングの人や、海外のフィールドレコーディングをしている人たちがよく使っているレコーダーです。

Sound Devices MixPre3

プロ機なので値段も結構高いですが、その分、音質はかなり良いです。

僕は正直、Zoom Fシリーズより好きなのですが、利便性を考えるとやはりZoomかなと思います。

音にこだわりたい人、レコーダーにお金をかけられる人は、Sound Devices MixPreシリーズが第一候補になるでしょう。

Open Reel Deck

やはり音にこだわるならテープ録音でしょう。

前にSonyのポータブルテープリールに直接録音した音を聞かせていただく機会があったのですが、あまりにリアルなサウンドに衝撃を受けました。

視聴環境も良かったのかもしれませんが、テープにはなんとも言えない心地よさとリアルさがあります。

ebayには、SonyやNagraのテープリールが今も販売されているので、気になった人はぜひチェックしてみてください。

まとめ

フィールドレコーディング用の機材をこれから揃える人には、このどちらかがおすすめです。

  1. Tascam Portacapture X8
  2. Zoom F3 + Clippy EM 272

Portacapture X8は、その大きさだけが問題なのですが、そこが気にならなければ最初のフィールドレコーダーとしておすすめできます。

F3とClippyの組み合わせは、音が良いのはもちろん拡張性もあっておすすめです。

例えば、より良い音を録りたいと思ったら、マイクをDPA 4060かSennheiser MKH8020に変えればいいのです。Zoom F3でも、これらのマイクのポテンシャルは十分に発揮できます。

もうフィールドレコーディングの機材をひと通り持っているなら、今日ご紹介したマイクをいくつか組み合わせてみるのも面白いでしょう。

例えば、レコーダーはZoom F6かSound Devices MixPre-6を使って、DPA 4060×2、Sennheiser MKH8020×2で録音してみるのです。

うまくミックスすれば、2本のマイクで録音するよりも、深みや広がりのあるサウンドを表現できるでしょう。

ただ、街の音を録ってみたいということなら1万円ほどのポータブルレコーダーでも良いと思いますが、一歩進んで、より良い音を録ってみたいという人は、ぜひこの記事を参考にしてみてくださいませ。

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この記事の著者

Isseyのアバター Issey 作曲家、音響エンジニア

23歳で音楽制作を始め、「Ohme」「Issey Kakuuchi」名義で国内外のレーベルからリリースを行なっている。 クラブやライブイベントの音響エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、現在は映画の作曲、MA、アーティスト活動に加えて、音楽アプリ、オウンドメディア、医療クリニックへの楽曲提供など、様々な分野で活動している。

著書: AI時代の作曲術 - AIは音楽制作の現場をどう変えるか?